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0-2 夜の揺りかご

 眠れぬ夜を終わらせて


 セーフ!セーーフ!!

 昨日投稿できてないからアウトだよ!


 昨日はほとんど一文字も書けませんでした。ゴメンなさい。

 オンライン飲み会二晩連続みたいなアホなことやったのが原因です。

 しかし、サワー10杯足らずでダメになるとは……学生時代の自分はいったい何をやっていたんだろう?一か月ちょい前の自分はやばいなぁ……。


 小鳥に餌付けをするように。

 膝の上に座っている少女、ステラにサンドイッチを千切って食べさせる。


「カバーストーリーを作っておこうか」

「かばーすとーりー、ですか?」


 ひらがな発音で返される。とても愛らしい。

 ほぼ無意識に頭をなでる。一瞬キョトンとした表情をした後、目を細め、体の力を抜いてされるがままになる。


「まぁ、設定だね。今のキミの状況をそのまま説明するのは都合が悪い。場合によっては関係のない人を危険にさらしてしまうかも知れない。情報は武器だ。剣にして盾。槍にして鎧だ。牙城を打ち砕き、安寧を守る覆いになる。その為には出来るだけ納得できるモノが良い。ある程度以上の整合性を備えた上で、本質的な部分から目を逸らさせる。その為には君の性質を知っておきたい。協力してくれるかな?」


「えーと」数秒考えた後「つまり、誰かを護るための嘘、ということですね」と答えるステラ「上手に騙すためには私も頑張らないといけないんですね」


 大体そんな感じ。でも、及第点はあげられない。


「護るのは君も、だよ」


「また自分を軽視して他人を助けようとしたなー」と頬を突く。

 おお、柔らかい「ひゃ、ひゃめてくらはい~」と言われるが無視。うりうりー、ここが良いのかー。


 ──────よし、満足!


 顔を真っ赤にするステラの頭を撫でる。

 サラサラと砂のように流れゆく銀の髪。撫で心地の良い天の川。

 つい先ほどまで、汚れていたとは思えない。生まれつきなのか、それとも加護の恩恵か。

 キチンと手入れをしてやりたいが、この手の知識は疎い。詳しい人に教えを乞うべきか……。


「テラさん……」


 むくれた顔をされる。

「ごめんよ」夢中になって撫ですぎた。

 手を放す「あ───」残念そうな声「ステラ?」「何でもないです」「そっか」

 ポンポンと頭を軽く叩く「テラさん……」おっと無限ループ。話を戻さなくては。


 †


 しかし、寝付く様子がないな。

 疲れているだろうから話している最中や、食べている途中で寝落ちすると思っていたが、意外にも起き続けている。

 寝かせてあげようとして難しい長話をしても眠くなる気配がない。むしろ、興味津々といった感じだ。

 気を張っているのだろうか?


 †


「じゃぁ、始めようか。ステラ、君の事を教えてくれ」

「私の、事」自分に言い聞かせるように「私の事を教えてほしいのです、か」少し悲しげに呟く。

「そう、君の事だ」

「そう言われても私には記憶が無いから、テラさんに言える事は何もないと思うのですが」


 自分には何もないのだ──────そう言うステラ。


「そうじゃないよ、ステラ」


 例え記憶を失おうとも、決して失われないモノはある。

 今まで培ってきた習慣や感性。好きなモノ、嫌いなモノ。そう言った類の記憶は残っている。例えば──────


「好きな色って何?」

「好きな色、好きな色……好きな、色──────私は、お空の色が好きです」

「空の色……水色かな?」

「いえ、お空の色、です」


「星空の暗い紺色。太陽が昇る前の、少しずつ明るくなっていく紫色。太陽が昇ってくる明るい黄金。雲一つない晴天の、吸い込まれるような、どこまでも明るい水色。太陽が沈む時の暗い赤と明るい赤、紫と青の混ざった不思議な色──────毎日同じようでいて少し違う。たとえ一年後の同じ日の空でも、今日の空とは違う。時間さえあれば、一日中見ていたくなります」


 饒舌。

 滑る様に、立て板に水と言わんばかりに喋る。


「ほら、覚えているだろ」

「え、でも、お空を見たことは──────あんまりない、です」

「覚えてはいないんだろう。でも本当は、見た事あるんだ」


 頭を撫でる。指に絡まない銀砂の髪。

 先ほどステラの髪を天の川と例えたが、風の中だったら本当に天の川のように思えるだろう。この髪の毛だって、誰かから貰ったものだ。ステラが思い出せない両親からもらった大切なモノ。兄や姉もきっと同じ色の髪をしているのだろう。

 きっと目の色もだ。ステラは空の色が好きと言っていたが、それには必ず切っ掛けがある。もしかしたら、嫌なことがあって一日中眺めていたのかもしれない。もしかしたら、家族で出かけた時に美しい景色を見たのかもしれない。もしかしたら──────大切な人に空の色の瞳をしている、と言われたのかもしれない。


 蒼穹の瞳──────。

 ああ、同じ事を言ったことがあったな。

 彼女はステラと同じ白銀の髪と青い瞳を──────()()

 記憶に靄がかかる。


 そうか──────()()()()()、か。


 厄介な事だ。

 ステラの正体を連想させない呪い。

 これがステラに掛けられた呪い──────正確には呪いの一つ。

 残酷なコトだ。年端のいかない少女は一体どんな仕打ちを受けたんだ?


「──────テラさん?」


 我に返る。


「ごめんステラ。怖い顔をしていたかな?」

「いえ」小さく頭を振る「悲しそうな顔をしていました」

「そうか」優しく抱きしめる「悪かったな」小柄な少女だ。この小さな体にどれだけの重しを背負わされたのだろうか。


 †


「すまないコトをしたね」

「いいえ、私のせいなので」


 自罰的な少女。

 この子は、自分が悪いと思ってしまう癖がある。


「君のせいじゃないんだよ」


 そう言って、慰めてやることしかできない俺を許してくれ。


 †


「話を戻そうか」

「私の好きな事、ですね」

「そう。自分から思い出すのは苦手みたいだから、俺から質問するよ」


 机の上に《収納》から取り出したクッキーを置く。

 同じく取り出したポットとカップ、茶葉を準備。空間系の魔術と物理現象でポットとカップを温め、茶葉を入れ、その中に同じく魔術と物理現象で作ったお湯を注ぐ。


「いい香り、です」

「それなら良かった。貰い物でね、自分は飲まないから紅茶についてはよく分からないんだ」


 たしか三分ほど蒸らすんだったかな?

 素人が入れてもいい香りがするのだから、かなり良い茶葉なのかもしれない。


「あ、そろそろです」

「畏まりましたお嬢様」

「お嬢様なんて、似合いませんよ」


 いや、この歳で紅茶の入れ方を知っている時点で、この世界ではかなり教育されたお嬢様だよ。この年齢で仕様人にはまず成れない。

 しかも、水量とかお湯の温度とかは俺がやったから、見ていたステラは何となくでしか分かっていないだろう。

 どうして分かったんだろうか?匂いか?音か?少なくともコーヒー派の自分には分からないし、コーヒーを作る際に同じ事は出来ない。


「どうぞ、可愛らしいお姫様」

「ふふっ、ありがとうございます」


 自然な笑みを浮かべるステラ。

 少しでもリラックスしてくれているならば良かった。


 紅茶にはカフェインが含まれているため眠りにくくなる効能がある。

 だがこの場合は、リラックスしてもらう方が大事だろう。


「さて、質問していくよ」

「お、お願いします」



「さて、さっきは好きな色を聞いたから、今度は好きな動物とかどうかな?」

「お馬さんが好きです」


「馬か。兎とか羊とかの方が可愛いと思ったんだけどなぁ」

「兎さんや羊さんも可愛くて好きです。でも、本当の意味では一緒に居られないような気がするのです」


「難しい事を言うね。馬だったら、本当の意味で一緒に居られるのかい?」

「はい。お馬さんはお願いしたらどんな所にでも連れて行ってくれます。呼吸を合わせてあげるとお馬さんも分かってくれるんです。遠慮しないで良いって伝えると、私に気を使いながら少しづつ力を出してくれるんです。風よりも、音よりも早く走る。馬と一緒に居ると新しい世界が見えるんです」



「じゃぁ、好きな料理とかはあるかな?」

「んーと、何でも好きです」


「何でもかい?本当に?」

「え……っと?」

「嫌いなモノがないのは分かる。そういう風に教える家庭もある。でも何でも好きって言う事は、どれも普通って事だ。平等に好きってのは平等に嫌ってるのと同じだぜ」

「え……でも、私のために作ってくれるものだから、それを嫌ってしまっては申し訳ないと思うんです」

「スーテーラー」

「──────ぴぅ!?」

「またそんな事を言ってー。夕飯は何が良いって質問に『何でもいい』が一番困るのを知らんのかね」

「ほ……っ、ほっぺをムニムニしないでくらはいー」

「いーや、心行くまでツンツンふにふにムニムニするね。全く、食べたいモノを聞かれたらどうするんだい?」

「え、でも食べるものはだいたい決まっているので、私が口を出すような事ではないように思うのですが」

「……………………」

「テラさん」

「いや、何でもない」


 …………。

 明らかに良家(イイトコ)のお嬢さんだな。

 ダメ押し、してみるか。


「ステラ、目を閉じてくれ」

「あ、はい」


 ギュっと強く目をつぶる。

「そんなに強くは瞑らなくて良い」と伝えると、軽く目を瞑るくらいになる。

 しかし、ステラの目を瞑った上目遣いは破壊力が高いな……。

 まるでナニカを待っているみたいな──────閑話休題。


「コレを持って」

「スプーン、ですか?」


 正解。ステラは今、右手にスプーンを持っている。

 スプーンって分かるのも凄いな。僅かな重さの違いだろうか?冒険者の自分では実際に使ってみないと分からないだろう。

 頭を切り替えて、ステラの耳元に口を寄せる。


「イメージし───」「ひぅ───!?」「どうした?」「な、何でもないです」


 耳弱いのかな?

 まぁいいや、やり直し。テイク2と行こう。


「想像して。目の前に、熱すぎず冷たすぎない、飲みやすい温度のスープがあります。どうやって飲むかな?」


 ステラは目を瞑ったままスプーンを動かす。

 目の前にスープを湛えた皿があり、その中にスプーンを入れ、掬い、口に運ぶ。

 スプーンの軌道。開けられた口の大きさ。想定しているスープ皿の位置まで。その全てが『型』に沿っている。目をつむったままでのコレは下手な貴族では出来ないかも知れない。


「よく出来ました」


 想像上のスープを飲み、コクリ、と微かに喉を動かしたステラ。

 その後、ほぅ、とほんの少しだけ落ち着いた息を漏らす。その開けた口にクッキーを入れる。


「──────むぅ!?」

「おっと」


 人差し指を甘く噛まれる。

 柔らかさと温もり。そして微かな湿り気──────それらを感じる前に指を離す。

 驚いているステラは、それでも行儀よく咀嚼をし、嚥下する。


「──────何をするんですかテラさん」

「色々とゴメンよ」

「全くです」


 ぷぅ、と口を膨らませる。

 さっきまでのお嬢様モードはお仕舞いらしい。


「あ、そう言えば」むくれていたステラが、思い出したように「好きなご飯、ありました」


「お、何が好きなんだ」

「何が、ではないんですけど──────」



「誰かと一緒に食べるご飯が好き、です」



 ……それは反則だろう。

 しかも、そんな笑顔で言うなよな。


「そっか」思い出せないダレカを思い出して、嬉しいけど悲しいような笑顔「取り戻さないとな」

「え!?あの……」

「いや、こっちの話」切り替える「よし、オジサンと色んなモノをたくさん食べようか」

「え───」一瞬、戸惑った顔をし「はい」そう微笑んだ。


 せめて──────せめて、この笑顔を守らないと。


 †


「全く関係ないけど、耳かきするよ」

「みみかき?お耳のお掃除ですか?」

「そう耳掃除。流石に風呂では洗えないし、風呂の後すぐにやると耳に悪いからな」

「なるほど……そうだったんですね。それではお願いします」


 なるほど、ステラは耳かきについては知らない、と。

 では、耳かき文化をもって蹂躙してやろう。

 先ほどの反応を見る限りでは、ステラは耳が弱いようだし一気に攻め込もう。


 極度にリラックスした状態で、あらかじめ作っておいた草案をステラの性質を吟味して完成させたカバーストーリーをインプットさせる。

 カバーストーリーに沿って自然に振舞うのが理想。だから暗示に近い感じで簡単な刷り込みを行う。そこまで強い効果はない。次の駅まで持てば良い。そのくらいの感じでやる。


「じゃあ始めようか」

「よ、よろしくお願いします」


 チートそのものな英雄ステータスを駆使してステラの後頭部を左肩に当て、左手で抱きしめるようにして頭全体を固定する。

 今回は右耳から。光の角度を調整。満を持して、右手に耳かきを持つ──────いざ。


 ……。

 …………。


 結果だけ書こう。

 ステラは寝落ちした。


 †


 左耳の耳かきを終えた直後、ステラは意識を手放した。


 やれやれ、やっと眠ってくれた。

 身体的にも精神的にも疲れが溜まっていただろう。

 たくさん話をしてしまった事で、ステラは疲れるのではなく興味津々になってしまったのだろう。多分、ステラは気になる本を読んで徹夜するタイプだな。


 さて、ベッドに寝かせてやろう。

 そう思って、ステラのお尻の下に右手をやり、左手でステラの右肩を支える。

 ステラが左半身を預けているような体勢で抱きかかえる。


 ベッドに運ぼうと思った時、ポーン、とチャイム。


『冒険者殿、ただいまお時間宜しいでしょうか?』

「少し待ってください今出ます」


 現在時刻21時。先ほど車掌が退室してから1時間ほど。

 ステラをベッドに寝かそうと思ったが、しっかり抱き着いているので諦める。

 仕方なくステラを抱きかかえたままドアを開ける。


「どうしました?」

「運よく服飾関係の商人が乗っていまして。お願いしたら快く引き受けてくれることになりました。今からでも構わない、と申していましたが──────明日の方が良さそうですな」


 ぐっすりと眠るステラを見て優しそうな表情で話す車掌。

「放してくれなくてね」と苦笑いしながら伝えると「安心しているようですな」と返される。根っからの善人だな。


「明日の朝食前で頼む」

「畏まりました。そのように伝えます」

「ああ、それと──────退屈はさせない、と伝えてくれ」

「承りました。それではおやすみなさいませ」

「おう──────いろいろ世話になる。正直助かった」

「いえいえ、快適な旅を提供するのが使命ですので。それでは失礼いたします」


 一礼して去っていく車掌。

 数秒後に閉まる扉。


「こちらこそ。作った甲斐があるよ」


 実に清々しい、いい気分だ。


 ベッドは一つ。そして、放してくれないステラ。……まあ、仕方ないか。

 いろいろ面倒になったので、ステラを抱きしめたままベッドに入り、毛布を掛ける。


「おやすみステラ」


 耳元で囁くと、むず痒そうに笑った。

 それを見て安心すると、急速に眠気が襲ってくる。

 短い時間で色々あり過ぎた。自分も疲れているのだろう。


 眠気に逆らわず、意識を任せる。

 星に迷った少女が安心して眠れますように、そう願って意識を深い闇に手放した。


 †


「…………ん、むぅ……」


 深夜、少女は目を覚ました。


 そこの心ピョンピョンしてるお前!

 日本に住むロリコンの人数は人口分だぞ!


 三話『夜の揺りかご』です。

 布団の中が一番安全。夢の中だけは真に自由なのだ。

 布団の中に居られる時間を増やすために働いているのかもしれない。

 不安や恐怖で眠れない夜を失くすために誰かと触れ合うのかもしれない。

 あぁ──────眠れぬ夜を終わらせて。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。



 用語解説として前回の続き

神秘の属性についてPart2

 前回、色に関係していると説明しました。

 その説明には続きがあり、属性には質量(エレメント)力素(エネルギー)、静と動の四つの関係があります。

 質量(エレメント)力素(エネルギー)はそのまんまの意味。

 静と動は物体にエネルギーを多く与えるのか、ほとんど与えないのか(むしろ奪うのか)といった違いがあります。

 

 正六角形を描いた時、土(緑)側が質量(エレメント)、熱(赤)側が力素(エネルギー)に相当します。

 また、水(青)と氷(紫)の間である青紫方向が静、風(黄)と炎(橙)の間である黄色めの橙方向が動に当たります。


 そして、闇(黒)は質量(エレメント)そのもの、光(白)は力素(エネルギー)そのものを操ります。


 闇属性は質量(エレメント)を司るがゆえに沈んでいきます。

 そのため、物体の重さを操作したり出来ますし、高位の使い手になると空間そのものを操れるようになります。また、魂魄に作用すると物質的・肉体的に作用します。


 光属性は力素(エネルギー)を司るがゆえに自由に動き回ります。

 そのため、物体の速さを操作したり出来ますし、高位の使い手になると時間そのものを操れるようになります。また、魂魄に作用すると霊魂的・精神的に作用します。



 次回タイトルは『微睡みの中で』を予定。

 戦闘シーンまでは行かないかな?ステータスは出る、予定。

 今回は長くなりすぎると思って切ったからどうなるか……。


 これからもよろしくお願いいたします。

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