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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
ホツレ閑篇
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ホツレ始末

悪鬼邪妖の出現により日本政府により発表された特定第四種フォースドメインとそれに対抗する組織霊異庁。

委託組織である民間退魔会社MDS 宗像と阿修羅姫により葛西海浜公園を守り切った。

だがその陰では、ホツレという存在が蔓延っていた。

 深夜に差し掛かろうという時分、都内某所、建築中のビル10階付近で数名の男女が奇妙なやりとりをしている。


 施工途中の外壁のない夜空から、零れ落ちたような夜景が広がっている。だがその煌めきを足蹴にするかのように、髪を染めたチャラそうな男たちが5名ほど、ロープと鎖で柱に繋がれ怒声をあげていた。


「てめえ! こんなことしてただで済むと思ってんのか!? 俺らのバック知らねえだろ!」


 チンピラが吐くカビの生えたような台詞がぶつけられる先には、男女二人が悠然と佇んでいる。


 男性のほうは背丈が180cmほどあり、鍛え上げられた肉体に黒いスーツを着込んでいる。無精ひげと刃のように鋭い目が漂わせる尋常ならざる


殺気に、チンピラたちは一瞬で黙り込んだ。


瑞萌みずも、準備はできたか?」


「ふふふ……式は小鬼にしておいたわ。扱いやすく使い捨てしやすいし」


「なら俺は結びの法を開始するぞ、タイミングが遅れても文句は言うなよ」


「大丈夫よ康平」


 釼康平つるぎ こうへい は両手を前に突き出すと、殺意の前に怯え縮こまるチンピラ5人に対し、念を送り始める。


 手から伸びだした黒い鎖が奴らの手足に絡みついていくが、当の本人たちには見えていないようだ。


天網恢恢てんもうかいかいにして漏らさず……因果応報、破邪顕正はじゃけんしょう! 結べ因果よ、逃れた罪を今ここに結ばん!」


 黒い鎖が奴らの体内へ引き込まれ、そして奥底にある何かを縛り上げた瞬間に全員の体がびくんと跳ねた。


「ふぅ……この手応え、ホツレなのは間違いないが小物だな。まあ、存分に理を感じさせてやれ瑞萌」


「あはははは!! 待ってました!」


 目の前でモデルのような美貌を振りまく少女の笑い声が放つ不気味さは、チンピラたちの恐怖を倍増させていく。


「な、何をするつもりだ! ってなんだ、ふ、服が勝手に脱げてくじゃねえか!! おいどうなってんだよ!?」


 チンピラたちは、自分たちのズボンと下着が見えない何かに脱がされていく様を、ただ見ることしかできない。


 全員が下半身だけ裸というみっともない恰好になった時点で、釼が鞄から取り出した金属製のケースを瑞萌に手渡した。


 瑞萌が使役していた式である小鬼たちも、時間切れで床へと沈むように消えていく。


 セミロングで目鼻立ちがはっきりしスタイルも良い少女が、どうして40代前半の釼康平と一緒にいるのか。


 そんなことを考える余裕もなく、ただ文句を垂れ流すだけのチンピラに見向きもせず、瑞萌は淡々と作業を進めていった。


 ケースから取り出したのは、数枚の大きな葉っぱが封入されたガラス瓶である。


 分厚い皮手袋をはめ大型のピンセットで中の葉っぱを取り出すとチンピラたちの前で、ふわりと夜風に葉を流すのだった。


 人の両掌を合わせた程度の大きさの葉は風でゆらりゆれると、同時に5枚全てがまるで見えない糸で手繰り寄せられたように、チンピラたちの陰

茎へ絡みつき、見えない力で締め上げられていく。


「お、おい、いったいなんだってんだ!? ふざけんなくそが!」


 数秒後であった。




『『ぎゃあああああああああ!』』



 嘔吐にも似た絶叫がビルの10階に轟いた。だが釼や瑞萌は警戒するでもなく、ガラス瓶とピンセットの片付けに余念がない。


「毎回あっさりしてるがこれでいいのか? もっと痛めつけてもいいんだぞ?」


「色々と試したけどさ、こういう連中が一番苦しんでのたうち回るのが、あの手法だって気付いたからいいのよ」


 そう会話している間も奴らは全身を痙攣させたように、葉が巻き付いたままの醜い姿で痛い痛いと叫びまわっている。


「ねえ、鎖を外して欲しい? 外して欲しければそう言っていいのよ?」


「外せ! はずせよ!! これとってくれよおおおお!!」


 全員が声にならない声をあげ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣きわめていた。


 拘束する前のいきっていた奴らの姿から考えれば見る影もない。


「ということらしいから、康平おねがい」


「あいよ」


 胸ポケットから小型のボタンを取り出した釼は、瑞萌と奴らが見えるようにボタンを押すと、目の前でロープと鎖がガチャリと外れ床につんのめるチ

ンピラをゴミを見るような目で見つめていた。


 そして瑞萌は、狂喜に満ちた微笑を湛えながら全身の喜びを噛み締めるかのように打ち震え、その様子を艶っぽい視線で凝視している。


 激痛の原因が ” 葉っぱ ” であったとしたら、拘束が解かれた直後にすることは葉を引き剥がすこと……


 だが、無事に引き剥がせても苦痛が終わることはない。



 新たな痛みで奴らは床で転げまわりながら、両手をばたばたさせて痛みを訴えている。


 手のひらから指先までの間には、他の部位とは異なり無数の神経が張り巡らされているのは周知の事実だろう。


 陰茎部を襲った激痛の原因である葉を、素手で引き剥がした馬鹿なチンピラ共は、新たに神経密集地帯である手の平から指までも激痛発生部位

として広げる行為に挑んだのだ。


 もはや痛みで気絶する者まで現れていたが、瑞萌は狂笑の声をあげながらその様子を愉悦のように見つめ味わっているようにも見える。


「ねえ聞きたい? どうして痛いのか聞きたいわよねぇ?」



 その問いに応えられるほどの余力を持った者はここにいない。


「あらまぁ。そんなに苦しいのなら教えてあげてもいいわ、お前たちが快楽のために誘拐し、凌辱の限りを尽くした後に臓器摘出用に売り払い殺され

た、30人以上の少女たちの無念を晴らすわ」


 瑞萌は床に転がった葉っぱを手の平から出した小さな火球で灰にしていく。


「この世の理から外れた存在、ホツレ共よ。罪を犯しておきながら人々に認識されることなく、欲望の限りを尽くし好き放題生きてきた貴様らは、康介

が結びの法をした時点で専用の地獄へ落されることが決まったわ」




 全ての葉を灰にし、康介が静かに頷いた。一般人へこの葉の被害が出ることを警戒し処分したのだろうか。


 想像を絶する激痛、手と陰茎の痛みが頂点に達し、混乱のあまりその手で顔を触った者はさらなる痛みの連鎖に襲われている。




「ギンピーギンピーって知ってる? 一度その葉の棘に刺されると数十年痛みが引くことのない悪魔のような植物の葉よ。あらまあ大変ね、手とあれ

がそのざまじゃもう一生使い物にならにでしょうねぇ」


 おごごっご!!ぐぼっ!!


 もはや人としての言葉すら吐くほどの余裕もないホツレであったチンピラたち。


「ちょっとは悪態をついて嗜虐心しぎゃくしんを刺激してほしいのだけど」


「気は済んだか?」


「は? 済むわけないじゃない。 結女むすびめとして現世に戻ったんだもの、私を罠にかけて殺した連中は全て結んでやるわ!」


「だから協力してるじゃないか。特別仕様のギンピーギンピー仕入れるのも結構な出費なんだぞ。それにしても今回も放っておくのか?」


「そうね、迂闊に触れたら大変ですって警告文を張り付けて退散しましょ。まあ工事中止になったビルに近づく人間はそういないと思うけど、一生涯

消えることのない激痛で踊り狂ってもらうため、警察へ連絡しておきましょう」


「まあホツレから結ばれた連中は必要最低限の治療だけしかされないし、麻酔も痛み止めも効かないギンピーの対応なんぞしてくれないからな。ま

してや他人を傷つけようと企図した瞬間に理が邪魔する特別プランだ」


「触れた相手に影響が出なくなる2日間は拘留し、他人と接触できないように注意書きよろしく、じゃあ連絡頼むわ」


「了解だ。防護服で対応してもらうことにする」


「……許さない。私の夢を奪い、凌辱の限りを尽くし顔を焼きバラバラにして海に捨てた連中を……」


「焦るな瑞萌。ホツレの糸は見えにくいが太い。必ず奴らを結んでやる……下手な復讐より天の理にのせるほうがえげつなく、最悪で最高な結末に

辿り着くからな」


「ふふふふ、さあ次の獲物を結びましょう。っとその前に犠牲になった子たちの魂を鎮めてあげて……それだけは私にできないから。康平お願い」


 1拍息をのみ、覚悟を決めた釼康平は静かに手を合わせ祈り、鎮魂の経を読み始める。


「ねえ一つだけあんたらが生きていける方法を教えてあげる。麻酔も痛み止めも効かないギンピーギンピーから逃れる手段はね……」


 その瞬間、瑞萌の目には極上の喜びが宿っていた。


「両手とあれを、切断しちゃえばいいのよおおおおおおおお!! この犯罪者どもめぇざまあみろおおおおお!」



ホツレ始末どうでしたか?

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