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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第6章 阿修羅の章
43/45

42 阿修羅姫 まかり通る! ①

挿絵(By みてみん)

 不気味な瘴気が流れる夜空、人々は不安と恐怖に怯えながら見上げていた。


 瘴気に対する潜在的恐怖が刺激されるのだろう、いきった若者たちでさえ身を寄せ合うように恐れを紛らわらせようとしている。


 だが一条の光が、南に向かって暗雲を、世の不条理を切り裂くように空を断ち割っていく。


 目の前にはレインボーブリッジとお台場、そして豊洲の光が目に飛び込んでくる。


 黒い瘴気の帯が集まっていたのは、その手前にある晴海ふ頭に停泊する一隻の大型客船であった。


 エジュルイード号 


 仙葉がホツレバイアス対策を施したAIと共に辿り着いたあの船である。なんてことはない、ドゥルジ・ナスをアルファベットにして逆に読んだというアナグラムだった。


 白い客船を黒に染め上げる勢いで瘴気が吸い込まれていくエジュルイード号の中は、阿鼻叫喚の地獄絵図にも等しい陰惨な事態になっていた。


 北村たちが突入するはずであった中継会場の本来の目的地がここであったのだが、人間たちの無様な足掻きを見物するつもりであったホツレやベクター感染者たちは、親玉であるドゥルジ・ナス復活のための贄としてその血肉をいたるところから現れる触手に食い殺されていた。


 奴らが集めたホツレの力の源でもある、人々の希望や才能を奪った際に現れる絶望力を掻き集めているのだろうか。


 四肢を引きちぎられ骨の一片までも貪り食われるヤクザや政治家たち、飛び込んでくる瘴気に体表面をドロドロに溶かされたドレス姿の女性たち。


 発砲するマフィアたちも一瞬で両手や胴を切り落とされ触手たちの晩飯になり果てている。


 瑞萌が見たらもったいないと呟くであろうホツレ共の成れの果て。


 上位存在であるドゥルジ・ナスの捕食行動の前には、奴らの因果操作すら届かなかったのだろう。


 逃げ惑う彼らも、船の配管やらドアからあふれ出る触手の前に追い詰められ、ついには自殺しようと拳銃を口に突っ込むまでは良かった。


 だがホツレとしての因果か、その時点で拳銃が暴発し、顎と手指が吹き飛び呻きのような悲鳴を上げながら転がっているところに牙を広げた触手たちに貪りくわれるのだった。


 そんな血と肉と悲鳴の立食パーティーも数分ほどでお開きになり、鳴り響くのは触手たちが蠢く粘液の音と咀嚼音のみであった。


 やがてそれらは船の中心に向かって移動を開始する。


 ひしゃげた船内の壁や床の奥から振動が広がり、何か巨大なものが船体を引き裂きながら這い上がっている。


 地獄の底から噴き出すような金切り声を上げながら、青黒い巨体が船上プールを突き破って現れた。


 その体長は上半身だけで10mを超え、狂喜の産声を放ちながら復活の狼煙としているのだろうか。


 四ツ目に耳まで裂けた口からは、濃密に圧縮された黒ムラサキ色の光が蠢き、ビームのように放たれたそれは周囲の晴海客船ターミナルや向こう岸の豊洲市場に直撃する。


 炎を上げて爆発する近隣施設。あのすったもんだの移設劇があった豊洲市場があっさりと炎上し燃え盛っている。


 闇夜に焚かれたかがり火のように、復活したドゥルジ・ナスを称えているかのようだ。


『 ソルジェ、ピジョルまでもがやられるとは、分身ともいえる我が首を結びやがって、人間ごときがぁ !』


 6本脚の蜘蛛のように這いずりだし、豪華客船の船上を踏みしだく。


 まるでそこが王座とでも言わんばかりの暴れっぷりである。柵やフロアを引きちぎって投げ怒りの瘴気ビームを周辺に放ちまくっている。


 恐らくあの瘴気に汚染されたエリアの浄化には数年かかるであろう。


『 不浄と腐敗こそ至上! この世を我の愛する死体で埋め尽くそうぞ! 』


「そうはさせない!」


 糺華の放った天魔衝烈波がドゥルジ・ナスの右肩に着弾する。


 肉が弾け青黒い血が飛び散るがその巨体故か痛みすら感じていないようだ。


『 来ると思っておったぞ阿修羅の姫君よ、我の復活の贄となってもらおうかの、さきほど食い尽くした配下のホツレ共のように 』


「一回だけ言っておくわ、ホツレの力を手放し、あなたがいた地獄へ戻りなさい」


『 ふざけるな小娘が! お前が邪魔しなければぁあ! お前に負わされた深手のおかげで地上に来たはいいが眠りにつくはめになったのだろう! 』


「なら仕方がないわね、お前は阿修羅の名において滅するのみ!」


『 愛しい愛しい腐敗した腐汁の滴る死体が待っておる! 生きた人間などこの世にはいらぬ! まずはお前の四肢をばらばらに引き裂いてやるわ! 』


 篭手から飛び出した鬼凛丸を手にした糺華。


 糺華の決意に応えた鬼凛丸が刀身5mの神々し輝きを誇る長刀へと変化する。


 以前のような武骨な大剣ではなく、凛と輝く眩いほどの神刀を軽々と振るう阿修羅姫 糺華。


『こしゃくなああ! くれえやああああああああ』


 奴の放った瘴気ビームが夜空を切り裂き糺華を襲い、ひらりと避けるがその阿修羅鎧がじりじりと瘴気で焼かれている。


 そのビームは遠くレインボーブリッジに着弾してしまっていた。


 糺華の一刀で奴の体が切り裂かれ、腐った腕や肉が飛び散っていく。


 だが痛みをあまり感じないのか、ドゥルジ・ナスは付近の船上パーツを掴み投げつける。


 さらにはあの触手を無数に放出すると糺華へと襲い掛かった。


 追尾レーザーのような軌道で襲い掛かる触手を、匠な剣技で触手を切り払い華麗に避けながら肉薄し一撃を与えていく。


『 ぐあっはあはああ! 死体が、死体がぁ! 増える増える増える増える増えるふええええええええ!』


 とうとうその巨体が船上から飛び上がり浮遊しながら糺華に肉弾戦闘を仕掛けてきた。


「お前が死体になれ!」


 奴の手足や触手は輝きを増す鬼凛丸の前に歯が立たないが、ドゥルジ・ナスは焦る様子を見せない。


 糺華はひゅんと上空へ飛び上がり距離を取ると鬼凛丸を天に掲げるのだった。


「ナウマク サンマンダ ボダナン ラタンラタト ラタンバン! 阿修羅王! 月華斬!」


 月の明かりを刀身に込めた、阿修羅族 必殺の剣技。


『ぐああああああああああああ!』


 阿修羅姫糺華の放った月華斬によりその体は月一文字に切り裂かれ、聖なる闘気によってシュウシュウと煙があがっていた。


 今がチャンスと右手のパイルバンカーを展開し、残り最後になったパイルが展開される。


 そう、宗像がホツレ結びの霊力を込めた渾身の牙だ。


「いまこそ! お前を結んでやる! 天網恢恢疎にして漏らさず! 因果応報! うおおおおおおお!」


 奴の頭部へ打ち込まれたパイルと、引かれる運命のトリガー。洗練された駆動音を発しながら肉を引き裂き眉間に深々と突き刺さるパイル。


 黒い鎖がめり込んだパイルから染み出し、獰猛に絡みつく。


 排莢された薬莢が破壊された船上をカランと転がるのと同時だった。


『結ばれぬわ馬鹿め』


 両断された体内から何かが飛び出し、六本腕で容赦なく糺華を殴りつけ吹き飛ばされてしまう。


「ぐはっ! な、なに!?」


『ふぅ、この姿は小さくて我の好みではないのだがのう』


 糺華と同じ体格の女性型をした不浄の魔王がそこにいた。


 蟲のような羽に六本腕、体には布切れがまかれているが引き締まった筋肉と青黒い肌は健在だった。


 四つの目と耳まで裂けた口がドゥルジ・ナスであった面影を残している。


 振り乱された長い血色の髪が、ゆらゆらと夜風に靡きながら瘴気を放っていた。


「くっ、最後のパ、パイルが!」


 動揺は隠しきれないが、立ち上がり鬼凛丸を構える糺華の戦意は未だ衰えていなかった。


 刀身を3mほどにし、神気をより収束させるつもりらしい。


『恐怖と絶望で震えるがよい! あの腐った体も好きであったのだがな、身軽でいいかもしれんっ!』


 立ち上がり攻撃挙動に入っていた糺華を上回る速度で肉薄すると、そのまま甲板に叩きつけたのだ。


 数メートルめり込んだ糺華が血を吐きもがく姿を、ドゥルジ・ナスが高笑いをしながら何度も踏みつけている。


『ほれ! ほれ! ほれええええ! ほう、配下の奴らが何やらしていると思ったが神気が衰えているのはそういった事情であったか! これはおもしろい!』


 ドゥルジ・ナスは力を貯めこむように口を開くと、めり込み動けぬままの糺華に瘴気ビームを叩きこみ、爆発炎上する豪華客船から飛び立つ。


 無数の誘爆と爆発を繰り返すエジュルイード号であったものが東京湾を炎に染め上げていく。


 立ち上る火柱や吹き飛ぶ船室、燃え上がり海に落下する救命艇。


 漆黒の海に炎が反射しているが、見た目の美しさとは異なりそれは絶望の火花が首元にまで近づいている証でもあった。


『もろい もろいわ! これほどのクソに追い詰められたとは、記憶をほじくり出して焼き捨てたいほどじゃ!』


 完全に勝利を確信したのか、ドゥルジ・ナスは至るところに瘴気ビームを放ち炎上させていく。


 周囲は既にパニック状態であり、気まぐれに放った瘴気ビームが東京ビックサイトを貫き一撃で吹き飛ばしてしまう。


 浜離宮、さらには旧築地市場やその奥の新聞社が瘴気ビームの直撃を受け爆発炎上。


 夜の東京湾は火に包まれながらドゥルジ・ナスの高笑いが木霊している。


『おっと、いかんいかん。これでは死体は黒焦げではないか、腐らせねば腐敗よ腐れ腐れよ!』



 ◇



 輸血と応急処置に投薬、さらには文のヒーリングを受けてなんとか動けるようになった宗像。無理やりついてきた影海や夏恋、文、亜麻色らは共に自衛隊のロクマルで晴海方面へと向かっていた。


 瘴気器であるコトリバコの捜索を北村たちKSSや退魔中隊に任せての出発だったが、そこは火の海が広がりいたるところで爆発が広がっている。


 高濃度の瘴気がまき散らされ、レインボーブリッジの中央部が焼け落ちてしまっていた。各所で上がる警報やサイレンが鳴り響くが事態を把握している組織はMDSぐらいなものだろう。


「糺華は無事なのか!? 糺華ぁあああああ!」


 連戦に継ぐ連戦、さらには満身創痍で動けるのが不思議なほどの宗像だが、糺華のこととなるとどうあっても引かないため、雪乃がお守役としてついてきたが彼女もまた同じ気持ちだった。


 夜は別のベッドで寝ているのに、朝になると抱きついて眠っていた甘えん坊の糺華。


 孤独と悲しさでどうにかなりそうだった時、宗像や祖父母の心遣いと、いつだって天真爛漫な笑顔で甘えてくる糺華の存在がどれだけうれしかっただろう。


 ここに私の居場所があるって思わせてくれたのは糺華。愛しくてかわいくて、目に入れても痛くない存在。


 おバカな妹以上に、あの子の存在は雪乃にとって血肉の一部となってしまっている。


「糺華あああああああ! どこよおおおおお!?」


 その炎の中でようやく着陸できそうなエジュルイード号付近の一角に強行着陸してもらうと、宗像は走り出した。亜麻色が気を聞かせてAS50を担いでいる。


 ホツレの認識阻害が解けたことで、霊異庁部隊が我に返り装備を返還してきたのだ。そのためAS50やブルーライトニングの弾薬の一部を入手しヘリに飛び乗ったという流れである。


 だが糺華の霊力を追うにしても、周囲に満ちる瘴気の影響で辿ることが難しかった。


「くそう、糺華はどこに!?」


 返答のつもりだったのだろうか?


 ズンっと宗像たちの前に現れたのは、青黒い肌と四ツ目に耳まで裂けた口。蟲のような羽が生えた強大な妖気と瘴気を内包した存在であった。


「てめえがドゥルジ・ナスだな。腐敗の腐れババア、ようやくお目にかかれたって訳だ」


 強大な妖気と瘴気、邪念邪気の塊のような化け物を相手にMDS隊員は一歩も動けずにいたが、宗像だけは怯むことなく対峙し悪態をついていた。


『こしゃくな人間め、よくも我が首を二つとも結んでくれたのう』


 ぎりぎりと歯ぎしりをしながら怒りを隠そうともしない。凄まじいまでの邪気に文が吐き気に堪えきれず戻してしまっている。


「っ……くっ、す、すごい瘴気です。これが魔王!?」


 影海はなんとか耐えているが、亜麻色や夏恋も圧倒的な邪悪に抗しきれず震えを抑えきれていない。


「おい腐れババア! うちの娘をどこにやった?」


『ぬかしおる! ああ、あのクソ阿修羅のことかえ? ならあそこで燃え盛る船の中で消し炭になってるであろうなぁ!?』


 一気に距離を詰めた宗像の退魔刀が抜き打ちに奴を斬りつけていた。どこにそのような体力が残っているのだと、影海を呆れさせさらに恐怖から掬いあげる。


 神速の一刀は長い爪で受け流されたが、その速度にはドゥルジ・ナスでさえ驚きの色を隠せない。


「この腐れブスが! 俺の娘を傷つけた奴はぶち殺す!」


『ならば我は貴様を丁寧に解体し、生き作りにでもしてやろうぞ』


 糺華でさえ対応しきれなかった戦闘速度だったが、長い爪で襲い掛かるドゥルジ・ナスの攻撃を最小の動きでかわしながら、奴の右腕の一本を見事に切り落とす宗像。


『ぬわにぃいいいい!』


 いつもなら減らず口を、挑発のセリフを吐きそうな宗像だが今ここに至っては一切の余裕がない。


『くらえええええええ!』


 痛みと怒りで取り乱したドゥルジ・ナスは口から瘴気ビームを吐き出した。


 だが宗像は避けようともせず、正面から斬りかかった。


 雪乃によって瞬間的に構築された氷壁に阻まれ爆発する瘴気ビーム。


 全身を瘴気の欠片によって焼かれながらも、宗像はひるむことなくドゥルジへ斬りかかる。


「おらあああっ!」


 右袈裟斬りからの切り上げ切り下げ、さらには胸元へ突き刺す。


 退魔刀を手放し距離を取ると、ブルーライトニングの残り僅かな弾丸を頭部に向けてぶっ放した。


『ぐっぼはっ!』


 頭部が砕け、目玉が垂れ下がり、右足が今にも千切れかけ全身から青い血を吹き出していた。


「す、すげえやりやがった」


 影海たちははただ戦いを見つめるしかできずにいたが……


『お、おのれええよくも我をここまで追い込んで、追い込んで おいこんんでえええええええ!』


「お父さん、様子がおかしいわ!」


 すっと飛び上がったドゥルジ・ナスは全身を震わすように力を籠めると今までの傷が癒え、切り落とした手も再生してしまっている。


『追い込まれてなんていないわ、ばあああああああああか!』


 奴が軽く手で払った衝撃波で全員が倉庫のシャッターへ吹き飛ばされてしまう。


「れ、糺華ぁ……」


 それでも宗像は立ち上がり残されたブルーライトニングを両手でドゥルジ・ナスへ構える。


『ホツレの根源たる我を結ぼうなどとは1億万年早いわ! ぐはあははは!』



 宗像の勇戦に皆の心に不屈の灯が宿ったのを感じ取った影海は、腹の底から気合を絞り出し声を張り上げる。


「MDS魂、ここで燃やさなくていつ燃やす! お前らいくぞ! ナウマクサンマンダ バザラダンカン! 不動明王火炎呪!」


 影海の不動明王呪が高笑いをするドゥルジ・ナスを直撃する。



布留部ふるべ 由良由良止ゆらゆらと 布留部ふるべ  ひと ふた み よ いつ む なな や ここ のたり 布留部 由良由良止 布留部!」



 文の唱える古神道祝詞が梓弓の神力に乗り、周辺の瘴気を一撃で浄化してしまう。


 しかもドゥルジ・ナスを閉じ込める退魔結界までも一瞬で構築してしまっていた。


「ありがとございます、山神様。必ず守って見せます!」


「うおおおお!」亜麻色は宗像が放棄したAS50を連射しながらなんとかブチ当てている。


 炎の勢いが弱まったところで夏恋の水天呪が包み込み、タイミングを合わせた雪乃が一気に凍結破砕させてしまう。


 さらにMDSは止まらない。


< 遠隔起動シークエンス完了! AIスノー 権限を宗像雪乃副隊長へ移譲 >


「AIスノーへ、戦術コードPG07展開」


 雪乃の命令がAIに伝達され、MDS隊員たちの背後から飛び上がった複数の小型ドローンが、文の結界で拘束されたドゥルジ・ナスの周囲を取り囲むように展開されたのだ。


< マイスイートハニー雪乃さん! やっちゃいなYO! >


「多重積層型マニ結界構築、プロジェクションマッピング展開! みんな念を送って奴の動きを止めるわ!」


『『了解!』』


 ドローンから投影されたプロジェクションマッピングによる結界陣が、埠頭へと描かれていく。


 立体ホログラムのように現れたのは、3D投影されたマニ車と呼ばれるチベット仏教で用いられる転経器である。


 経が掘られた車を回すことで、真言の効果を発揮するシステムを、結界構築に利用したのだ。


 ドゥルジ・ナスは文の強固な結界の上から、さらに多重積層型のマニ結界で動きを封じられ苦悶の叫びを上げ始めている。


 破魔の光が放電現象のように周囲で煌めく。


「MDS 護法九字フォーメーション!」


 雪乃の合図に従い、宗像を含めた全員が思いを込めて九字を討つ。きっと糺華は無事だ、またあの天真爛漫な笑顔でひょっこり戻ってくると信じて。



『臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前!』



 碁盤の目のように指刀で切られた九字の巨大な護法陣が、立体マニ結界に閉じ込められた腐敗の魔王に炸裂する。


 高出力レーザーで焼き切られたように切断され、切り刻まれたドゥルジ・ナスは崩れ去るかに見えた……。


『ぐあああああああ!』


 全身から青い血を吹き出してドゥルジ・ナスが断末摩の悲鳴を上げている。


「やった、効いたんだわ!」


 夏恋と文が安堵のため息をこぼすが、AIドローンは霊力中継器の負荷が強すぎたため全機落下してしまう。


 ドゥルジ・ナスはぶるぶると震えながら、ふっと脱力しそして平然と居直った。


『効くと思うかばあああああああか!』


「なんだと! マニ結界からの最大出力九字方陣引いてんだぞ、嘘だろ、もう血が止まってるぞ」


 影海から絶望の混じった声が漏れてきた。


『お前らの攻撃など効くはずがねえだろおおおおお! 遊んでやったとも知らず、バカな奴らだあああ ぎゃはははは!』


 宗像が膝を付きながら影海の腕の掴む。


「お前らは撤退しろ、命令だ」


「そんな命令聞けるか! 最後まで兄貴についていくぜ」


 MDS隊員たちの思いは一緒だった。


「お父さん、私はまだやれるわ。糺華が戻るまで耐えればいいだけの話よ」


「くっお前らをこれ以上危険な目に!」


 MDSは引かない。


 誰一人たじろぐことなく、あの強大無比な腐敗の魔王に対峙する。


 僅かな希望であろうと、満身創痍でぼろぼろであろうと、宗像は決して諦めたりしない。

万感の思いを込めて、完結に向けて、優しく穏やかで退屈な日常が戻ると信じて。

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