表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第一章 葛西海浜公園防衛戦
4/45

4 守れ マグロ水槽!

凛と花咲く阿修羅の姫の、その姿艶やかであり、無法であり、天真爛漫でありながらも、その美貌天を貫く。

挿絵(By みてみん)

 先行した低級邪妖たちは一掃できたが、機動隊魔中隊をやったと思われる大物たちが次々と姿を現し始める。


「隊長 サザエ鬼やタコ入道、海蛇種のおつ、丙種クラスが次々と来ます」


「タコだのサザエだのイカだの、うまそうな奴らばっかりじゃねえか、まとめて料理してやる。天の雷を持って滅せよ! インダラヤ ソワカ!」


 ちょうど浜辺へ乗り上げてきた時点で移動速度の落ちてきた邪妖の群れに宗像の放った雷帝インドラ神、またの名を帝釈天たいしゃくてんの雷が襲い掛かった

 。


 ほぼ全ての邪妖たちが電撃により内部から破裂し燃え尽き、大型の邪妖たちも相当なダメージを受けていた。


「ようやく糺華の出番だねっ!」


 言うが早いか疾風のように飛び出した糺華は、浜辺から唸り声を上げて襲い掛かるもう一体のサザエ鬼の殻に、パイルバンカーを打ち込んだのだ。


 糺華の膂力によって殻を討ち破ったパイルだが、そこからトリガーを引くとさらに火薬と霊力によって加速したパイルが射出され内部へ深く

 突き刺さる。


 女性のような悲鳴をあげるサザエ鬼から飛び離れつつ、パイルのリロードと排莢がオートで行われ機械的駆動音を発しながら新たなパイ

 ルが装填される。


 薬莢が浜辺に重い音を立てて落下したのと同時に、サザエ鬼が殻ごと爆発四散した。



 糺華の右手には総重量30kgを超えるパイルバンカーが華奢な腕に装着されていた。


 霊子パイルバンカーMGⅡ 


 直系3cm長さ60cmの銀とチタニウムで構成され、オーラコーティングを施された規格外の大きさを持つ特殊パイルを撃ちだす武骨で凶

 悪な退魔武器だ。


 炸薬式であり、弾頭にはMg弾、つまり特殊加工と邪妖祓いの祈祷きとうがされた硫化水銀弾頭が封入されている。


 どれほど巨大で堅い外皮を持つ邪妖であっても、糺華の膂力とトリガーで撃ち込まれれば破邪の力を持つ硫化水銀が弾け内部から爆散すると

 いう、凄まじい破壊力を持つ退魔兵器だった。


 恐らくこの世で扱えるのは、阿修羅姫こと糺華ただ一人であろう。


 迎撃を突破してきた邪妖を、糺華が近接攻撃で倒すというシフトは見事に機能していた。





 とりあえず邪妖共の第一波は凌げたとみるべきだろうが、第二波がこれ以上の戦力であればギリギリといったところか。


「各員、弾薬補充と水分をとっておけ」


「ねえ私の出番は?」


「糺華、お前は切り札だ。俺たちの秘密兵器だ、いいな? お前が頼みの綱だ」


「切り札ね、まあいいわ! 早く戦いたいよ!」


 あれでは物足りないのだろう。糺華は闘争の空気に酔い始めている。さすがは……といったところだろうか、頬は上気し気迫と闘気が迸っている。


「隊長、ちょっと来てください」


 雪乃が何やら渋い顔でモニター画面を覗き込んでいる。


「おい、こいつはどういういことだ?」


「何やら閉館しても動きがあったので気になって調べさせたら……夜の水族館イベントがあって親子連れが50人ほど体験ツアーしてるらし

 いんです」


「くっ……霊異庁めそういうことはもっと早く通達しておけ! そうだな……(ふみ 、俺と来てもらえるか?」




「え? わ、私ですか?」 小柄な16歳になったばかりの一氏文ひとうじ ふみ は、まさかの指名でウサギのように飛び上がって驚いた。


「内部へ侵入してくるとすれば若い生気を喰らいたがる死霊共だろう、そうなれば文の結界が大いに役立つからな。ということで雪乃、西なぎさの指揮はお前に任せる」


「了解です。隊長、濡れ女戦で糺華を使ってよろしいのですね?」


「そうしてくれ、出し惜しみはするな」


「分かりました、糺華もいいわね?」


「私も水族館いく!」


「だめだ。お前の力で戦えば、水族館に一つも水槽が残ってないという事態になりかねん」


「ぶぅ~! まあいいか、ペンギンさんと子供たち守ってあげてね」


「白兵専用の武器がいるな、ナイフと退魔刀たいまとうを出してくれ。文は結界用の護符と清め塩のバッグを装備しろ。護身用にFive-seveNは許可す

 るが水槽近くでぶっ放すのは控えろよ」


「は、はい!」


 一氏文ひとうじ ふみ 最年少16歳の少女だ。


 山深い神社の巫女兼守女をしていたが、山神に嫁として見初められたため逃げ出したところを、縁の導きか宗像に保護された。


 今後山に近づけないという制約を受けているが、日本最強クラスの霊能力の持ち主であり除霊じょれい 浄霊じょうれい関連依頼をこなす稼ぎ頭でもある。


 引っ込み思案であまり口数が多くはないが、よく糺華の面倒を見てくれている気立ての良い娘であり、ゆるふわなボブが似合う小柄な美少

 女だ。


 きっと子供たちも、優しい雰囲気に溢れる文がいれば安心してくれるのではないかと宗像は判断したのだ。そして重要になるのは防御力

 。


 防御が完璧であれば殲滅は宗像一人で事足りると判断したのだろう。


 本部に調べさせたところ、夜の水族館ツアーはマグロ水槽前で説明会をしているらしい。ルート案内がされたが、おとなしいと思っていた

 文が異論を挟んだのだった。


「……待ってください、直接1階から入れるみたいです」


「来た事があったのか?」


「いえ、退職した後に亡くなった職員の方が教えてくれてるんです。こっち!」


 文を連れて来て正解だと確信にいたった瞬間だ。集中すればたしかに年配の職員らしき霊体が必死に文を手招きしていた。


 ということは霊たちも、この異常事態を察知して焦っているということだな。しかし子供たちを……!


 宗像の全身が怒りで焦げ付きそうなほどに燃え盛っているのを文が感じる。


「た、隊長!?」


「気にするな、急げ!」


 息を荒げながら文がペンギンに一瞬だけ視線を落としそのまま走り出す。


 内部ではちょうど水族館職員による魚たちの説明が行われており、平和であれば座って耳を傾けたいほどに魅力的な光景だろう。


 だがそこに割って入らなければならない辛さがある。




「霊異庁の委託機関だ、これより特定第四種フォースドメインの襲撃が予測されるため皆ここを動かないように! 職員も全員ここに集めて

 くれ」



 霊異庁の腕章を見せると保護者達からは悲鳴が、子供たちはきょとんとしているもやがて泣き出す子が現れる。


 文は慣れた手つきで1階ホールの柱や壁に護符を張り付け、清め塩で結界の下地を作り始めた。


「このホールへ結界を構築します! 水族館職員もここに避難してください!」


 職員や保護者達に迫られる宗像だったが、意外にも対応がうまいと文は感心してしまう。



「不安なのは分かります、でもいいですか皆さん! 我が子を思う気持ちが、子が親を気持ちが、職員が水族館とお客さんを守りたいと思う

 気持ちが結界をより強固にします! たかが気持ち悪い化け物なんぞに、みんなの気持ちが負けるはずないだろ!?」




 凛々しく響く男らしくあるが心地よい声質……騒ぎがこの発言でぴたりと止まった。父親が息子を抱きしめ、母が娘を抱きしめる。職員たち

 の表情から恐怖が消え、決意が湧き出していた。


 すごいと文は感動すら覚えている。もしかしたら隊長は何度もこういう場面を!?


< 隊長、死霊 屍鬼しき の群れが向かってます >


 文が混乱を助長させないよう、通信で宗像へ知らせてくれる。



< 文は結界の安定に全てを注げ、迎撃殲滅は俺が引き受ける>


< 隊長、無理なさらないでください。結界はなんとしても維持してみせます >



「オン キリキリバザラバジリホラ マンダマンダ ウンハッタ」


 かわいらしくも鈴の音のように通る声で唱えられたのが、文が得意とする結界真言だ。


 内包された霊力によって発現し霊的密度の高い結界壁は、一般人でも見える人が多かったようで驚きの声があちらこちらで上がっていた。


 文はたいしたものだ、恐らく彼女クラスの結界を貼れる人間は日本には4,5人しかいないだろう。


 だが死霊と屍鬼共は、ペンギンエリア前の広場からのそりのそりと呻き声を上げながら、強い生命力を発する子供たちが放つ生者の臭い

 のするマグロエリアへと向かっていく。


 ペンギンたちは怯えて一か所に固まって震えているのがどうにも気の毒だった。



「オン アビラウンケン ソワカ! 」



 破邪の力を刀身に宿すことができる退魔刀の刃が青白い光に包まれる。


 屍鬼とは死体に憑りついた死霊や、強い瘴気が肉体に近い形状をとる邪妖だ。


 見た目はホラー映画に登場するゾンビほどにグロくはないものの、生者への憎しみが深く襲い掛かる邪悪な存在である。


 そのような屍鬼死霊50体以上の群れに、宗像は臆することなく斬りかかっていった。素人であれば腐った死体ゾンビの群れに飛び込むよ

 うな常軌を逸した行動に見えたことだろう。


 宗像の斬撃の前に死霊は霧散し屍鬼は腕や体を断ち切られ、煙を上げながら転がっていく。


 凄惨な殺陣たて にも見えるが、スプラッタ要素が少ないのは血が飛び散っていないからだろう。


 次々と転がる首や胴、雄たけびを上げて斬りかかる宗像の戦闘力は尋常ではない。


 一刀ごとに無駄なく切捨て、迷うことなく間合いを読んで飛び下がりまた飛び込んで行く。


 十分に射線が確保できたところで、Five-seveNによる射撃で腕を休ませるという戦い方は、相当な修羅場を潜り抜けていなければそうそう

 できるものではない。


 2分ほどで50体を殲滅すると、新たな気配が近づいており首筋がちりちりと引きつるような感覚を放っていた。


「邪霊共め!!」


 宗像は抑えきれぬ怒りを抱えながら、レストランエリアから侵入した死霊共の迎撃へ向かう。


気になること、質問などありましたら、どんなことでも構いませんのでコメントください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ