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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第四章 凶変の章
27/45

27 式神

人と共存し子供たちと遊ぶのが好きな妖怪もたくさんいます。

いずれそのような心優しい妖怪たちとのエピソードも書いてみたいなぁ。

聞いた話では、から傘お化けは子供たちと遊ぶのが好きでともて優しいらしいです。

挿絵(By みてみん)


 どうすれば糺華を救える!? 駆け巡る思考と焦燥が精神を圧迫していく。


 治癒に関わる術など使えないし、手当といっても救急キットすらない。


 傷口を縫うことさえ……!? 縫うだと? 糸、そうか!!


 宗像は親指を噛んで噴き出した血を使い、スーツから取り出した予備の無地呪符へ素早く文様を描いていく。


 すかさず印を結び呪言を唱え始める。


 雪乃への絶対的な信頼があってこそ可能な行為とも言える。敵中での精神集中がうまく行かず初戦で戦死する退魔師は意外に多い。


 しかも包囲された中で微塵の迷いすらなく念を練り上げ呪言が紡がれていく。



「元柱固具 八隅八気 五陽五神 陽動二衝厳神 害気を攘払し 四柱神を鎮護し 五神開衛 悪鬼を逐い……」



 宗像の周囲の空気が揺れ動き、風が舞い始めている。


 得体のしれない何かの力が周囲に沸き起こっているようだった。


 恐るべき精神力、驚愕すべき集中力であった。須弥山での修行がどれほど過酷なものであったかを垣間見れた瞬間でもあった。



 膨大な霊力が溢れ出し、結界内の霊圧が跳ね上がっていく。


 だがその行動を阻止しようと5体のヴェータラが結界へ張り付いた。壊れたコンクリート片を投げつけていたが、無慈悲な氷刃によって切り刻まれていく。


 やがて肉片から灰になっていくが、投げつけられたコンクリート片や石が結界を通りすぎ宗像の頭部や背中に当たっても一切集中を乱さず呪言や念が崩れることもない。


「糺華とお父さんに手を出すなあああ! 破邪氷結陣!! 砕け散れ邪妖共ぉおお!」


 まさに結界外が白い氷の世界へと誘われた。


 妖力の強いヴェータラが一瞬で凍り付き吹き荒れる吹雪の力で粉々に崩れ去っていく。


「奇動霊光 四隅に衝徹し 元柱固具 安鎮を得んことを 慎みて 五陽霊神に願い奉る」


 万感の思いが結実し、今ひとつの呪法として完成しようとしていた。


「契約に基づき 出でよ! 勾陣こうじん! 騰蛇とうだ!!」



 内部から結界を打ち破るほどの強大な力が顕現していた。


 煌びやかな打掛を右肩に纏い、艶っぽい平安貴族のような髪型をしているがその容姿は妖艶さを併せ持つ現代風の美女に見えた。


『主様よ、呼びだすのが遅すぎないかえ?』


「挨拶は後だ、勾陣 お前の霊糸で糺華の体内にある弾丸を取り出してくれないか? 頼む、助けてくれ!」


『そんなこと造作もな……いえ、少々、もしくは我はこの作業で全ての霊力を使い果たし戻るやもしれませぬ。それでもよろしいでございますか?』


「やってくれ!」


『そういう時のための護衛役としての俺様だろう』


 豊かな黄金の髪が揺れ乱れ、赤銅色の肌と身に着けた鎧は申し訳程度に胸や腰の当たりを隠している。


 炎の蛇が体に巻き付き不敵で勝気な目を宗像に向けており、16歳前後に見える活力に満ちた少女の姿をしていた。


「騰蛇は雪乃と一緒に護衛を頼む』


『任せておけ、俺だって糺華は気に入っているんだ。勾陣、絶対に成功させろよ』


『分かっておりますわ、体内の”だんがん”とやらには軽く数万人は殺せそうなほどに濃密な瘴気が凝縮されております、しかも理への干渉力も働いて……』


 勾陣は手から霊糸を出すとそれらが自然と絡まりより強固な糸を練り上げていく。



「す、すごい。あれだけの短時間で儀式の準備すらない状態で念を乱さず、あの安倍晴明が従えたという 十二天将を二人も召喚してしまうなんて!?」


『おい雪女、俺様の足を引っ張るなよ。糺華を守るためだ、まあ従ってやるぜ』


「俺様って、あんた女じゃない! それにそんなマイクロビキニみたいな恰好で、見てるこっちが恥ずかしい!」


『はっ! 出るとこ出てない女よりましだぜ』


「糺華の処置が終わったら、お前凍らせてやるから覚悟しときなさい!」


『おもしれえ、気の強い女は大好きだ!』


 第二陣として送り込まれた邪妖の群れが騰蛇と雪乃に襲い掛かる。


 黄金の蛇は口から炎を吐き、騰蛇の放つ火炎の力は凄まじく一撃でヴェータラが灰になっていく。


 だが勾陣は弾丸の処置に苦戦していた。


『瘴気が強すぎて糸が焼け切れてしまいます! こうなったら最後の手段ですわ』


 勾陣は打掛の袖を躊躇なく引き千切り黄金色の糸を作りだし、さらにそれをより合わせひと際輝く糸を練り上げる。宗像は勾陣の補助のため霊力を集中して送り続けている。


 そのまま傷口から再度潜り込ませた糸から伝わる瘴気から、勾陣は苦痛の呻きをあげつつも一気に弾丸を抜き取った。


『ぬしさま!』


「オン アビラウンケン ソワカ!」


 溢れ出そうとした瘴気を抑え込み、近くに出来た穴へ弾丸を放り込み結界で押さえつけるがあまりの瘴気濃度に壊れかけている。


 雪乃が巨大な氷塊を作りその穴を塞ぐことでなんとか抑えられという状況だった。


 宗像は糺華を抱き上げると、前方にある大型の建物へと駆けだした。


「ここにいては瘴気を喰らっちまうぞ! あの建物まで走れ!」


 雪乃の消耗もかなりのものであったが、さらに瘴気穴を氷漬けにすると宗像の後を追った。


 宗像の真横を添い寝するかのように飛んでいた勾陣が囁いた。


『ぬしさま、我はそろそろ限界でございます。例のモノは、天后へと託しておきますゆえ……』


「勾陣、すまない ありがとう!」


 ゆらりと消え去った勾陣の残した光の残滓が雪乃の鼻孔をくすぐった。


 とても優雅で優しい匂いのする香木? 香水の匂いに感じる。


 どちらにしても、糺華の呼吸がやや改善してきていることにほっと胸を撫でおろしている。


 騰蛇は後方から迫る餓鬼の群れを一掃し、宗像の護衛へと張り付いていた。


 瘴気から逃れるためとはいえ、敵の罠に飛び込むことになるのではないか? 雪乃の不安は膨らむばかりであったが、糺華を落ち着ける場所に早く寝かせてあげたいという思いもまた不安の数倍膨れ上がっている。


 まるで野球場のようだった。


 地階入り口から中へ入ったところで、瘴気の侵入を防ぐため雪乃が氷壁で入り口を密封する。


 逃げ道を塞ぐようなことになってしまうが、あの瘴気を喰らってしまえば自分は妖怪としての本性が出てしまうかもしれないという恐れがあった。


 廊下に部屋の類はなく、ただ正面のホールへ向けて無機質な床と壁が続くのみ。


 コンクリート風の床に上着を脱いでそこへ糺華を壁際に寝かせると、宗像は気を注ぎ込み糺華の名を呼び続けている。


「糺華! 糺華! 弾丸は摘出してあるからな!」


 勾陣が最後の気力を振り絞り傷ついていた血管を縫い付けてくれたことで、糺華の出血は収まってはいた。


 だがいかに阿修羅王の血を引く阿修羅姫とはいえ、この傷である、すぐには起きられないだろう。


 騰蛇は宙を飛び上空からの警戒監視に当たってくれている。


 気功術の使い手でもある宗像の手でやや血色が戻りつつあるようには見えるが……



 ◇◇



 DbDゲームショー中継会場のボルテージは最高潮に達していた。


 あの阿修羅姫に深手を負わせ絶対的有利だと思っていたMDSに一泡吹かせただけではなく、追い詰め殲滅できる寸前まで来ていたのだ。


 海兵隊が乗船し他の部隊も豪華客船の中継会場を包囲し、作戦の肝である会場への突入に至っていた。


< 各隊、突入。各隊突入せよ >


 指揮所からの命令を受けた特殊部隊員が上階からロープで窓ガラスを割って突入し、ホール入り口から一斉に各隊が雪崩れ込んだ。


 映画でよくある突入シーンを彷彿とさせるような緊張感に溢れる掛け声が響き渡り……


 内部では観客たちの悲鳴や怒号が溢れかえる、と当然のごとく隊員たちの予測として身構えていたのだが――


 その会場内には無数の死体が転がり、衛星画像のサーモ解析画像に映っていたのは人体を模したボードに取り付けられたサーモシステムで会場の喧騒はスピーカーから流れるフェイクであった。


 外れかと舌打ちをする隊員たちであったが、遅れて飛び込んだKSSの北村はすぐに叫ぶ。


「すぐに脱出しろ! 罠だ!!」


 北村の声に反応したのではなかったであろうが、次々と死体が跳ね起き特殊部隊員たちへ襲い掛かった。


 ドレスやタキシードを着飾った死体たちが屈強な海兵隊へ襲い掛かり、膂力においてもそれを凌駕しているのだ。


「くっ! これじゃ撃てねえ! お前らハンドガンで確実に処理して撤退を支援させろ!」


 北村の指示でKSSがなんとか退路を確保しようとしているが、群れで襲い掛かられた米軍は凶悪な屍鬼や餓鬼、見たこともないような化け物に変化した邪妖たちに手足をもぎ取られ、首筋を食いちぎられ、臓腑を貪り喰われていた。


「くそったれ!」 北村の指示で一斉に投げられた霊水スモークによって屍鬼は灰になって溶け落ちている。


 さすがは訓練された海兵隊やCFUの隊員たちはこの隙に乗じて退避を完了したが、いまだ食われ続けながら助けを求める隊員もいた。


 だが両足を食い千切られ、泣き叫びながら助けを求める彼を救助できる余力のある者はいなかった。


 その間も首筋に噛みつかれ鮮血がほとばしっている。


 混乱の中で発射された北村の弾丸がその隊員の頭を撃ちぬいた。


「総員撤退!! 脱出ポイントに急げ!」


 流れでしんがりを引き受けることになった北村は、結界用の呪符で足止めしようと階段の壁に貼り付けたりもしたが、奴らは数秒で突破してしまう。


「やっぱり地脈が安定しねえってか、宗像ぁ! お前も無事でいろよおおおお!」

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