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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第四章 凶変の章
26/45

26 凶変

挿絵(By みてみん)

 DbDショーの中継会場である豪華客船へ米軍の特殊部隊が突入するまであと僅か、といった作戦時刻。


 Navy SEALsの特殊潜航ユニットから離脱した海兵隊員たちが船へ取りつき後続の受け入れ準備を行っていた。


 ドローンによる周囲の探知や人員配置の確認と、衛星データリンクによる人数配置などの情報が各員に伝達されていく。


 小型船で乗り移ったCFU隊員の腕部に装着された情報ディスプレイには、客船内をスキャンした衛星からのサーモデータが転送されている。


 ◇


 中継会場ではスタッフに詰め寄る柄の悪いマフィアたちが出てくる中、司会役のピーキーとした女性にある書類が手渡された。


「あっえーと皆さまご安心ください!! 大会主催者からの発表がございます! ここで読み上げさせてもらいまーーす!」


 騒然とする会場だったがあの傲岸不遜のマフィアたちまで素直に耳を傾けている。それだけ主催者の持つ力を認めざるを得ないのだろう。



 ” 

 我々の運営するDbDゲームショーに非常事態が起きていると、皆さまご心配いただいていることと思います。


 どうかご安心ください。


 皆様には伏せておりましたが、今回は通常営業とは異なりまして趣向を凝らしたショーとして構成させてもらっております。


 我々を嗅ぎまわり、特権種である地上の勝ち組、ホツレ同盟の足元を揺るがしかねない因子をここに集めました。


 知っている方も多いでしょう、憎き日本の民間退魔会社 MDS !


 その中でもホツレを知覚し 理ことわり へ結ぼうとする代表の宗像と忌まわしい女共。


 見事この場でひき肉にしてみせましょう。


 どうか皆さまの変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。


 ”


 割れんばかりの拍手と喝さいが会場を埋め尽くし、そのボルテージは上がり続けている。




 ◇◇


 糺華は新たに開いた鋼鉄製シャッター奥の通路を進み始めていた。


 早めに突破して二人と合流したかった糺華だが、突如首筋に嫌な気配を感じ周囲を警戒し始める。


 通路の両脇に走っているコンクリート製の壁から、奇妙な模様の描かれたプレートのようなものが無数に飛び出してきたのだ。


「え? 梵字ってまさかそれ!? 帝釈天じゃん!」


 その梵字に付属して敷設されていた金属棒が一斉に放電を始めていく。


 空気が極大の電撃によって切り裂かれ悲鳴を上げたかのように鳴り響き糺華に命中した。


 その空間に存在したあらゆる物が雷撃にも等しい破壊の渦に晒され、数十秒続いた雷嵐が止んだ後には水蒸気と煙、埃が立ち込めていた。


 状況を見かねた主催者側の意図によるものだろうか、送風機による風で埃が飛ばされていく。


 そこには……


 煙たそうに佇む糺華の姿があった。


「帝釈天の梵字で私を封じたつもり!? あんたら知らないでしょうけど、あたしもまだよく思い出してないけどさ、帝釈天の電撃って体にしっくりくるのよ」


 両手に力を込める糺華の体がばちばちと放電していく。


「早くお父さんとお姉ちゃんと合流したいんだから――邪魔すんなあああああ!」


 その体から放電された雷撃は周囲の梵字やコンクリート壁を破壊し、鉄筋を溶解させ、木々を破裂させた。


 さきほどとは段違いの収束した雷撃を見せつける形になっている。


「ふぅ……まったく電撃なんかきかないつーのっ……え!?」



 木々の破裂音とコンクリート壁の崩壊音が響く中、阿修羅姫である糺華であっても、それ には気づくことができなかった。


 糺華の脇腹に何かが突き刺さり、阿修羅姫の加護を突破し、皮膚を引き裂き腹部へ到達したのだった。


「うっ……」


 立っていられないほどの痛みに思わず膝から崩れ落ち、自身の体に起きていることが信じられなかった。


「あれ……私……どうしちゃっ……」


 全身を駆け巡る激痛と痺れによって糺華は意識を失った。



 ◇



 宗像が合流ポイントの特定のため式を飛ばすかを悩みながら走っていた時に、地を揺らす轟音が響き渡った。


 糺華が何かしたのかとすぐに察することができたが、周囲に満ちる瘴気の影響で霊力を読むことが難しい。


 前方にある通路に進むしかないと思っていた時だった。近くで戦闘音と甲高い悲鳴が聞こえたのと同時に左側のコンクリート壁が氷に覆われ雪乃が華麗に着地したところだった。


 雪乃を追ってきたと思われる10数匹の餓鬼が壁を伝って襲い掛かってくる。


 宗像が危険を知らせるまでもなく、雪乃は鋭く尖ったツララを放ち餓鬼を串刺しにして容赦なくとどめを刺していく。


「雪乃、無事だったか?」


「うん大丈夫、それよりお父さんさっきの音は!?」


「やはり糺華だろう。瘴気と妖気のせいで糺華の居場所が探りにくい、今から式を準備する」


「了解!」 親子ならではのツーカーなやりとりだった。


 無防備になる時間があると察し護衛体制に入る連携だ。


「急々如律令! 破邪顕正 何不成就乎ふじょうじゅや!」


 スーツに隠し折りたたまれた紙人形がふわりと宙に浮かぶと、風に流されるよりも早くひゅっと飛び去って行った。


(やはり急ぎの工事で準備した感が否めないな)


 式と視覚を共有した宗像の陰陽術により糺華の気配を辿りながら、妖気と瘴気の濃いエリアを避けつつ繊細なコントロールを維持していた。


 雪乃は集中の邪魔にならないよう、周囲に迎撃用のツララを放出しつつ敵の気配を探っている。


 やがて式は大型陸上競技場のような建物に続く通路にて、糺華らしき霊力を探知することに成功した。


 ほっと安堵感を感じつつ糺華の様子を探ろうとした時、やけに弱い霊力反応に寝ているのかとも思ったが……


 宗像の視界が大きく揺れ、衝撃の大きさから式の制御が崩れてしまっている。


 うずくまるように、血だまりの中で糺華が倒れていた。


 完全無敵、一騎当千、破壊天女、阿修羅姫……数多くの二つ名やあだ名を持って恐れられ愛された糺華が……


 血を流し肌の色が蒼白に染まり、微かに呻く声に宗像の鼓動が跳ね上がる。式の位置をマーキングし、制御を切り離す。


「オン イダテイタ モコテイタ ソワカ! 韋駄天 強脚術!」


 有無を言わさず雪乃を抱えると、人間離れした脚力で壁を飛び越え糺華の元へと全力で駆けた。


「お父さん! 糺華に何かあったの!?」


「捕まってろ! 舌噛むぞ!」


 必死に捕まりながら養女になったばかりの時、慣れない都会の夏に苦しめられ倒れてしまった時もこうやって宗像に抱っこしてもらったことを思い出した。


 だがそのような思い出も、糺華に何か起きたのかという焦燥感の波ですぐ押し流されていく。


 ありえない、絶対無敵な糺華に何かが起こるはずがない。


 という思いと、万が一にも何かあったら。


 目の前で、宗像が糺華を抱きしめ傷から溢れ出す血を抑えようとしていた。


 現実とは思えない光景。


 こんなことが起きるのか、あの糺華が!?


 阿修羅王の血を受け継ぐ阿修羅姫糺華が!?


 甘え上手でよくベッドに潜り込んでくるかわいい妹が!?


「雪乃!! すぐに傷口を凍らせてくれ、このまま出血が続けば!」


「は、はい!糺華待っててね!」


 瞬間的に凍結させ傷口は塞いだが応急処置でしかない。


「これは銃創だ。糺華が弾丸で倒れるなどありえない、誰だ撃ちやがった奴はぁ!」


 怒りと心配で我を忘れかけている宗像など初めて見るかもしれない。


 だが傷口を抑えていた雪乃は患部から迸る邪悪な気配に思わず飛び退いてしまう。


「お父さん! この傷、いえ弾丸には凄まじい量の瘴気がこもってる!」


「!」


 瘴気だけじゃない、ホツレの力すら感じる。


 くそっ! 宗像の怒りは自身のふがいなさ、それが糺華を傷つけてしまったという絶望に似た怒りへと変換されている。


 その絶望にガソリンを浴びせかけるように、追撃に出た邪妖共が周囲を取り囲み始めた。


「お父さん! 私が絶対に守るから糺華の手当をお願い!」


 雪乃の瞳が青い光を湛え始め、美しかった黒髪が反物を染め上げるように雪のような純白へと変わっていく。


 屍鬼と餓鬼、さらにはヴェータラまでもが親子3人を食い殺そうと、その醜悪な牙をがちがちと噛み合わせながら襲い掛かってくる。


 氷系と屍鬼との相性は必ずしも良くはない。


 だが雪乃は自らのツララや氷塊に破邪の属性を持たせる修練に挑み見事体得するに至る。


 半妖だからこそ成し得た偉業であり、吹き荒れる吹雪を浴びた屍鬼は浄化され餓鬼は焼け爛れ灰になり、ヴェータラは苦悶の叫びを上げながらもだえ苦しんでいた。


 痛みを感じるはずもない邪悪な生ける屍共は雪乃の構築した氷雪結界に一歩も立ち入ることができずにいる。

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