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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第四章 凶変の章
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25 DbDゲーム②

挿絵(By みてみん)

 脳天からポールへ串刺しにされた殺人鬼キラー ヘルバリーは、完全に頭部を破壊され本来のあるべき死体へと戻っていた。


 糺華はハンカチで手を拭き拭きしながら目の前にあるゲートへと足を延ばす。


 小型コンテナから連れ出され放り込まれたのは、3人それぞれ別の部屋であった。


 内部へ潜入しキラーが出現するまでは奴らの思惑通りに乗るようにという指示だ。


 中継会場である豪華客船を米軍の海兵隊やCFUが急襲する手はずになっており、対フォースドメイン対策であちらには北村たちKSSも顔を出しているらしい。


 さっそく一番手の糺華があっさりキラーをぶち殺したのだろうということは、気配でなんとなく理解できた宗像と雪乃であった。



 それぞれが異なるフィールドエリアに放出されるので、第一陣は自分の力で乗り切るしかないといった状況だ。


 邪妖と融合されたキラーをいくら退治してもあまり意味がなく、本隊が中継会場である豪華客船を襲撃するための隙と時間を確保するのが狙いとなる。


 ある程度抵抗できる力を示し時間稼ぎという、囮・陽動・潜入という役目を担うのはこの3人でなければ無理だろう。


 そしてやけにセーラー服姿が似合う雪乃は廃病院が中心にあるフィールドに降り立った。


 黒髪ロングの美少女が歩く姿は、別のフィールドで糺華がはっちゃけた衝撃を忘れさせ ”今度こそ悲鳴を!” という外道共の欲望を刺激するには十分すぎるほどに魅力的だった。


 やっつけ仕事感が漂う演出用の電飾や、精神病院であったことを想起させるための拘束ベッドや奇妙な落書きのされた壁が不気味さを漂わせている。


 雪乃にしてみれば幼稚な演出にしか見えなかった。意外にホラー映画が好きな彼女にとって、原作へのリスペクトが感じられないセット造りに怒りさえ湧きかけていた。



 その時だった。


 視界の隅を奇妙な陰がかなりの速度で横切った。割れた窓ガラスや倒れたベッドにその影が溶けるように消えていく。


 半妖たる雪乃の特技である氷結能力。


 その根幹たる力の一端は、気温を正確に認識する力でもあった。


 キラーのような存在が移動すれば大気の動きに大きな変化が、そう温度が揺らぐ。特に邪妖や悪霊の気温低下現象は顕著なほどだ。


 サーモセンサーに似た能力を持つ雪乃は、正確にキラーの方向を理解しあえて逃げてみることにした。


 怯えて逃げることも考えたが、そういう演技じみたことが苦手で分からないため素直に走ることにする。


 やけにキラーの足音が小さい。


 振り返ると、薄汚れたナース服を身にまとったブラッディーナースというキラーが、鉈と大きな注射器を持って追いかけてくる。


 真っすぐな廊下のため距離をとれそうだったことから、直線状に凍らせようと雪乃は考えた。


 だがその考えを先読みしたかのような動きをブラッディーナースがしてみせた。


 一瞬で目の前に現れてみせ、容赦なく鉈の一撃を見舞ったのだ。


「!」


 思わず、左手を氷で覆い奴の鉈を受けたが、その膂力に腕が痺れてしまう。


「意外とめんどい相手ね、でもあんたみたいな相手に私たちが何も対策してこなかったとでも思う?」


 何度も鉈で襲い掛かるブラッディーナースの攻撃を氷の篭手で防ぎ、砕かれるを数度繰り返した後、奴の足元を凍らせ転倒させることに成功した。


 これなら適度に盛り上げることに成功してるんじゃない? と思えるほどの余裕はあった。


 雪乃はさっと窓から飛び降りると野外フィールドへ場所を移す。


 ブラッディーナースは木と木の間を高速で縫うように移動し距離を詰めてくる。時おり首をかしげながら鉈を振り回し、甲高い奇声を発してくる。


 常人なら耐えられない恐怖だろう。


 だが雪乃は違った。


「邪妖の気配がする。臭くて汚れた瘴気に蝕まれた体、かわいそうに解放してあげるわ」


 血まみれ看護師が雪乃の目の前にある木々の間を通り抜けた瞬間だった。


『ぐっぎょっ!』


 雪乃まで後3mほどの場所で再び転倒した。


 ブラッディーナースはしばらくの間起き上がることができずにいた。ちょうど木々の間には、彼女であったものの両足が凍り付き地上から生えている。


 瞬間凍結の力で凍り付いた足が股関節と膝上で折れ、もげてしまっていた。


「今送ってあげるわ。臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前!」


 雪乃の早九字が優しくそして容赦なく、痛みに気付くことすらできない血まみれの看護師に放たれた。


 白い灰が弾けるように飛び散った後、雪乃はゆっくりと手を合わせ祈るのだった。



 ◇◇



 宗像が放り出されたフィールドは、うら寂しい廃墟が点々とする森の中といった様子だった。


 演出用の発電機は形だけのハリボテで、蹴るとベニヤ板が壊れるようなちゃちな代物にすぎない。


「ちったあやる気出せよ犯罪者共」


 その声に反応したかのように目の前から地響きを感じさせる足音が近づいてくる。


 身長2m半ほどあろう大男の姿が視認できた。


 血まみれの汚れたエプロンと包丁を両手に持ち、豚頭の被り物をした豚シェフらしきキラーが現れる。


 手にした大包丁をギリギリと擦り合わせながら、食材にしてやろうかとでも言いたげな様子で小走りにかけてくる。


「金剛式気功発勁…… 破っ!」


 全身の気を練り上げ気功破として撃ちだす。


 小角直伝のこの技は特に邪妖に効果が高いが、現役退魔師の中で扱えるのは霊異庁を引退した歴戦密教呪術者と宗像だけと言われている。


 鈍重な豚シェフの腹に命中した気功破は奴の腹部に着弾すると、臓物をぶちまけながら全身がバラバラに吹き飛んでしまった。


「――随分と繊細なお体なことで」


 拍子抜けするほどに弱い”キラー”に対し、自分が強すぎるなどとは微塵も思わない宗像だが、粘着質のある違和感のようなものが脳裏にこびりついていた。


 弱すぎる。


 そして急ピッチで拵えた感が強いフィールド。見ればエリアを仕切っている壁もまだ打ったばかりのコンクリートだということが分かる。


 高さは4mほど。周囲の木は伐採されているため自力で登りきるのは不可能に近いが、退魔術で身体を強化すれば宗像には可能。


 そして雪乃にいたっては氷で階段を作れば問題なく、実際現場ではそのような補助的運用もこなしていたりする。


 糺華は……


「まあいざとなったら飛べるし」


 当初の予定通り行き止まりポイントに到着したらある程度待機し、糺華が壁をぶち破って合流、という若干非常識じみた待ち合わせになっていた。

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