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転生管理局へようこそ

作者:

 いらっしゃいませ、転生管理局へようこそ。どうぞこちらへ。

 ああ、あなた様は現在人型ではなく、頭ほどの大きさの球体がふわふわ浮いている状態ですので、お掛けになることはできません。ですから椅子もないのです。私だけ、失礼しますね。


 では、まず転生のシステムについてご説明いたします。

 この世には、あなた様が前回生きた世界だけではなく、様々な世界が同時に存在します。人は死を迎えますと、次の人生へと転生するのです。

 しかし昨今、各世界の神にルールを守らない者が現れるようになったのです。本人の話を聞かず勝手に転生させたり、まだ死を迎えていない魂を強制的に別の世界へ飛ばしたりなど、本来の手順を踏まずに行ってしまったため、世界が乱れてしまう例もありました。

 そこで作られたのがこちらの組織です。神々が個人で転生させるのではなく、全ての魂を一度こちらへ送り、お話を伺い、妥当と思われる次の世界をご案内するのです。問題が発生すれば該当する神々がきちんと会議をして解決していくシステムですので、安心安全ですよ。


 ここまではおわかりになりましたか?そうですか。では、早速あなた様の前回の人生についてお伺いしますね。




 なるほど、あなた様は七度転生をした記憶がおありなのですか。六度目までは前世の記憶はなかったのですね?七度目で、急にその前の分まで蘇ったと。

 はい、はい、それはよくあることなのですよ。特に最近は。


 人生において、何か重大な罪を犯したり、大変後悔するようなことがありますと、その魂は次の生でも同じような試練が与えられ、行動をもって乗り越えることを求められます。転生する世界は同じだったり別のものだったり様々ですが、状況は大体同じでしたでしょう?

 悔い改め罪を償う行動をする、心残りのないように生きるなど、魂に穢れがなくなれば、次は全く新しい人生を歩むことになります。


 ああ、失礼しました。あなた様のお話でしたね。

 七度目の人生、あなた様はある国の王子だった。十ニ歳で、前世の記憶六回分を思い出す。それは大変でしたね。急にですからね。でも、あまり小さな頃に記憶が戻りますと、現在の自我が崩壊してしまう場合があるので、仕方ないのですよ。ある程度成長したら、何かのきっかけで思い出すものなのです。幼すぎると、前の人生に引っ張られてしまいますからね。すみません、また脱線してしまいました。

 

 あなた様の前世はどれも必ず王子や権力者の息子など、立場がある男性、そして婚約者がいると。

 最初はそれなりに上手くやっているものの、しばらくすると別の女性にうつつを抜かし、婚約破棄をしてしまう。それにより自身も凋落の一途を辿るか、一時幸せになったとしても、必ず破綻するのですね。なるほど。

 そして七度目では、また同じことを繰り返すのを憂いて心を病み、婚約者ができる前に自害。


 そうですね、これは先程お話ししました、試練で間違いありません。前世の記憶が戻ったのは、このままではまた同じことになりますよ、というサインです。六回も繰り返していますからね。ただ転生するだけでは魂を雪げない場合にとる措置です。まああなた様の場合、悪いほうに影響してしまいましたが。

 では一度目から詳しく聞いてまいりましょうか。


 一度目のあなた様も身分は王子で、公爵令嬢と婚約していた。令嬢とは幼い頃から共に過ごし、関係は悪くなかったけれど、ある日突然異世界から少女が落ちてきた。

 少女は進んだ文明の知識を持ち、国はそれが利益になると判断して、あなた様におもてなしをするよう命が下された。

 しっかりと任務を遂行して自身の立場を確かなものにしようと、あなた様は精一杯お世話をした。するとたった一人で異世界に落ちてきた少女は、いつも側にいるあなた様に心を傾けるようになり、あなたもそれまで接してきた貴族令嬢とは違う少女のふるまいに惹かれていった。

 それに気付いた婚約者の令嬢が、人のいないところで少女に嫌がらせをしていると、少女本人から訴えがあった。あなた様は令嬢がそのようなことをするとは思えなかったが、少女もまた、嘘を言っているようには見えなかった。

 そこで調査をし、王の御前で報告することになり、国の重鎮の子息たちが証人を見つけてきたため、あなた様は令嬢に問うた。本当にそのようなことをしたのかと。

 令嬢は何も言わなかった。ただ悲しい顔をしてあなた様を見ているだけ。王はそれを反論なしと結論付け、そのような器の小さい者を王子の妃にはできぬと、婚約は破棄された。令嬢は家を勘当され、その後平民となったらしい。

 あなた様は異世界の少女と想い合っていたので、婚約を願い出て王もそれを許可した。その後は特に問題なかったはずなのに、あなた様の側近たちが急に犯罪に手を染めるようになったり、国の機密情報が他国に漏れたりして、王国は攻め込まれ、あなた様も王も命を落とした。


 このようなことでよろしいでしょうか。


 二度目は同じ王国でも後の時代、内容はほぼ同じで、婚約破棄の後戦争は起こらずともあなた様が暗殺された。


 三度目は東の国で同じことが起こり、婚約破棄の際婚約者の令嬢に反論され、逆にあなた様が皇帝に身分を剥奪された。


 四度目は全く別の世界になり、資産家の息子になった。学園に通っていて、異世界から落ちてきた少女ではなく、身分の低い少女が虐めを受けているのを助けて同じようなことになったが、婚約を破棄したら自身の家の事業が傾いて没落した。


 五度目は王国と似た国ではあるが、魔法の存在する世界だった。平民の少女が聖女と呼ばれる珍しい魔法の使い手であり、王子のあなた様は一度目、二度目と同じ状況になった。婚約破棄後、隣国に逃亡した元婚約者の令嬢が精霊王と契約し、復讐され国が滅びた。


 六度目は元の王国に戻った。出来事はだいたい同じだが、婚約者が侯爵令嬢で、惹かれたのは異世界の少女ではなくその国の男爵令嬢だった。何故か身分の高い子息がみなその男爵令嬢に夢中になり、婚約破棄後、なんと魅了の力がある香を密かに手に入れ使用していたことが明らかになり、男爵令嬢は処刑、魅了された男たちはそろって廃嫡された。


 う〜ん、なるほど。毎回必ず婚約破棄が起きていますね。おそらくそこが試練なのでしょう。

 さて、どういう意味かおわかりですか?

 そうですね、破棄をしなければいい。でも、それだけでは不十分です。


 あなた様も確かに毎回破滅しているようですが、三度目を除いて、明らかな被害者が存在します。はい、そうです。婚約を破棄された令嬢たちですね。


 彼女たちのことを、あなた様は深く知ろうとしたことがあるでしょうか。

 相手がどういう環境で、何を思い、どんな行動をしてきたか。そしてあなた様の知らぬところで、何が起こっていたのか。一度目の令嬢を例に出しましょうか。


 彼女の父親は権力が大好きでした。そもそも王族に取り入ろうと、自分の娘を王子の婚約者にしたのですからね。

 しかし異世界の少女という予期せぬ事態が起こりました。少女には国を発展させる知識があり、万一他国に出してしまっては不利になると、王が囲い込もうとしています。娘と権力。天秤が傾いたのは権力のほうでした。公爵はあっさり娘を切り捨てました。

 証人を見つけてきた、あなた様の側近たちはどうでしょう。異世界の少女は「人のいないところで」嫌がらせを受けたのに、何故証人など見つけることができたのでしょうか。彼らも少女に懸想していた、という証言もあったことは、ご存知…なかったようですね。後に犯罪を犯したのは、何のためだったのでしょう。お金のため。ではそのお金は何に使われたのでしょうか。異世界の少女の部屋には、多くの装飾品があったといいます。ああ、彼らは機密情報を知る立場の重鎮のご子息でもありましたね。

 そして問題の、異世界からきた少女。他国に攻め込まれあなた様が命を落とした時、彼女はどこにいたかご存知でしょうか。王宮の自室?同じく襲撃され、命を落としたに違いない?いいえ。彼女は国境にある、攻め込んできた国の陣営におりました。人質ではありませんよ。どうやらあちらの国の間者と通じていたようです。大変優秀な間者なのでしょうね。王宮にそんな者が入り込んでいたなど、王も気付いておられなかったのですから。


 そもそも、文明や考え方の違う異世界の人間をむやみやたらに連れてくるなど、してはいけないのです。あなた様の人生でも、三度目まではそういったことが起きていますが、四度目からなくなったのは、こちらの組織ができたからです。ええ、わりと最近なのですよ。


 えっ、何故一度目の世界のことを、私が詳しく知っているのか、ですか?

それは……








 私が、エリミナ・ボールドウィン公爵令嬢だったからですよ、()()()()()()()()()()()()()()殿()()


 あなた様に婚約破棄され、平民となった元公爵令嬢です。まあ、愛称を覚えていて下さったのですか。……懐かしゅうございますね。

 私は勘当された後、心優しい使用人夫妻が用意してくれた国境付近の家でひっそり暮らしておりました。そして時折、情報をもらっていたのです。我が家は公爵家でしたから、優秀な使用人がいたのですよ。主を自ら見極められるような、ね。

 

 私は公爵令嬢ではなくなりましたが、国を想う気持ちがなくなったわけではありません。異世界の知識に囚われ過ぎて、我を忘れていく上層の方々の目を何とか覚ませないか、情報を集めて思案しておりました。……結局、何もできませんでしたが。


 ええ、あの婚約破棄の場では、あなた様以外はどのような展開になるか、全てご存知だったのです。利になる異世界の少女を繋ぎ止めるため、王と私の父、重臣たちが仕組んだ茶番だったのです。少女本人も、知っていたのでしょうね。証人が入ってきた時、微笑んでいらっしゃいましたから。あそこで私がやっていないと訴えたところで、どうにかなるものではありませんでした。それがわかったので、私は何も言わなかったのです。たとえあなた様が信じてくださったとしても……いいえ、そんな仮定の話はしても仕方がありませんね。


 やがて王国は滅亡し、あなた様も亡くなったと聞きました。そして私は、崖から身を投げたのです。

 何故って?幼い頃、約束したではありませんか。この国に命を捧げ、行く末を共に見守ろうと。家では駒としてしか見られておりませんでしたから、あなた様にそう言っていただけて、私はとても嬉しかったのです。パートナーとして、認めていただけたのだと。

 しかし国もあなた様もなくなっては、もう叶いません。私の命の意味もなくなったのです。

 あらあら、泣かないでくださいまし。こんな昔話をしたせいで、あなた様も私も、姿が一度目の生の頃に戻ってしまいましたね。

 恨んでなどおりませんよ。いろいろなことが、全て悪い方向に進んでしまっただけです。後悔は……ありましたけれど。

 ですから私は死後、あの世界の神に願ったのです。異世界から人が落ちてくるようなことをなくし、世界の混乱を防ぎたいと。

 そして、時間はかかりましたが、この組織ができ、私は職員として働かせていただけることになりました。


 皆さまのお話を聞いていると、本当にたくさんの世界があり、様々な人生があることがよくわかります。私も組織ができるまでは数度、他の世界を生きましたが、こちらにいるほうがとても勉強になると思うのです。

 あなた様もよろしければ、こちらで働いてみませんか?他の方の話を聞き、転生のお手伝いをすることでも、魂の禊はできます。

 私も久しぶりにあなた様にお会いして、きらきらと輝いていた時間もあったことを思い出せましたわ。今度こそパートナーとして、あの国だけではなく全ての世界をより良くするお手伝いをしませんか?

 

 ね、クリス様。

意外と、三度目の令嬢がエリミナだったりするかもしれません。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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