これは『練習』だから! 〜それでもあの子とクリスマスデートがしたい〜
メリークリスマス!
またあの百合コンビが帰ってきました!
多くなった文字数!
新たなキャラクター!
パワーアップした百合をお楽しみください!
※前作が存在しますが、前作を知らない方にも読めるかと思います。
しかしながら200%百合を味わいたいという方は前作を読むことをオススメします。
(前作を読みたい場合は作者名か「これは『練習』だからシリーズ」をクリック!)
杉崎凜は高山祐香のことが好きだ。
「悪いけど、私は恋愛に興味ないから。じゃあね」
だから並大抵の男性では彼女の心は動かせない。
「おい、アイツも振られたってよ」
「でもバッサリ言う杉崎さんもかっこいいなぁ」
「バカ、『美しい』だろ」
「はぁ? 『かっこいい』だろ」
今日も男子の視線や話し声が入るが、悪い気はしない。
(私が男にモテないと、祐香が危ないもんね。私は祐香の身代わりよ)
そう、自分が男子の気を引くことで祐香に快適な学校生活を送ってほしかったのだ。
もちろん容姿や言動を『美しい』『かっこいい』と褒めてくれる男子は多い。
しかし中には――。
「杉崎さんの胸、でっかいよなぁ」
「あれ何カップだろうな。制服が悲鳴を上げてるぞ」
と欲望丸出しな声も聞こえたりする。
そんな男の欲望を祐香に向けられたら堪ったもんじゃない。
そういうわけで、今日も今日とて凜はモテていた。
対する祐香もモテている。
「ねぇ〜、ここからどうしてほしい? ちゅー? それとも、もっとすごいこと?」
イタズラ好きの祐香は弱気な男子を見つけてはからかっていた。
「次はアイツか。羨ましいな……」
「あぁ。ご褒美だよなぁ……」
「俺も壁ドンされたいな。そこから攻守逆転とか――」
「は? そんなクソ展開認めんぞ。絶交じゃボケ」
今日も一部の男子が羨ましがっている。
(喜んじゃう男の子にはイタズラしないってば。ごめんね〜)
しかし注目を浴びることは嫌いじゃないので、そんな飢えた男どもにはサービス。
気分が乗ればウインクをしてあげたり、スカートの端をちょっとだけ持ち上げたりしていた。
「俺は杉崎さんより高山さん派だな」
「魅せ方がエ……テクいよな」
そういうわけで祐香もモテモテなのだ。
そんなモテ度トップ2な彼女たちだが、先日とある事件を引き起こした。
キスをしたのだ。
お互いに、深く、何回でも。
祐香が凜の照れ顔を見たいがために冗談でキスの練習をしようと提案した。
しかし凜は祐香に対して特別な感情を抱いていたため、あっさりキスを承諾。
半ば凜が祐香を襲うような構図となった。
その事件から数週間。
再び凜へのイタズラ心が蘇った祐香は新しい作戦を思いついたのだった。
―――――――――
(凜ちゃん、どこかなー)
祐香は凜を探していた。
作戦の大前提は誘うところから。
しかし、同じクラスにいたはずなのに凜は昼休みになるとすぐさま姿を消してしまう。
本当は一緒にお弁当を食べたかったりするのに。
そんな祐香の背後には覗き魔がいた。
誰あろう、凜である。
(今日も祐香の観察! 周りキョロキョロして何か探してる? ってかスカート短すぎだ!)
最初から祐香に発情していたが、キス事件以来その気持ちは加速した。
毎日の観察はもちろん、祐香の何気ない姿をオカズに米を食べたり、遠くから盗撮したり――。
とにかくやりたい放題である。
(あっ、階段チャンス! これで祐香のパンツが見え……。見え――)
聖域を拝むことができる、通称『階段チャンス』の瞬間。
凜の至福は寸前で終わった。
「そこの階段を上ってる女子! 止まりなさい、風紀委員よ!」
電子メガホン片手に校則を取り締まる集団――風紀委員。
そして不幸にも祐香が捕まったのはその集団のリーダ格、荒瀬冬姫。
冬の姫という名の通り、ルールを破った者に対しては冬のように冷たい多くの部下を統べる姫。
彼女に捕まった生徒はどういうわけか一週間もしないうちに更生されてしまうとか。
「わ、私、何かしたかな……」
「スカートの丈よ、高山祐香さん。しかも聞くには男女問わず、気に入った人を誘惑しているそうじゃない」
「どうして私の名前を!? あと誘惑じゃなくてただのイタズラだってば!」
階段の途中と踊り場で繰り広げられる口論に、少しずつ野次馬も増えてくる。
「ま、全生徒の顔と名前くらいは覚えていて当然なのよ。誰が危険で誰が安全か、階段ですれ違っても見逃さないためにね」
「き、危険じゃないってば! あぁもう、私はやるべきことがあるのに! 昼休みがムダになっちゃう!」
「じゃあスカートの丈をもっと長くしなさい。最初から誘惑目的だからこんな服装なのでしょう?」
(このままじゃ凜ちゃんにデートのお誘いができないよ! もう実力行使しかない!)
祐香は一気に踊り場まで上った後に冬姫の体を押し、壁まで押しつける。
突然かかった力に冬姫は抵抗を忘れていた。
そしてそのまま、冬姫の顎を――。
(あれ……。冬姫さん、身長高いや……)
本当は顎クイからの囁きテクで冬姫を落とすつもりだったが、高身長なお姫様には背伸びをしないと目線も合わない。
というか背伸びをしても合わない。
階段のせいで身長差を見誤った。
「……さっきから公衆の面前で私の胸をまじまじと見て、やっぱり危険ね」
「あ、違うの! これはもっと別のことをしたくて――」
弁解をしようとした瞬間、今度は祐香の体が壁に押しつけられる。
それはお姫様の判決だった。
「あなたが直さないなら、私が直させてあげるから」
壁に当たった衝撃が消える間もなく自分の顎が持ち上がる。
もちろん自然にそうなったわけじゃない。
祐香は冬姫に顎クイをされてしまったのだ。
「ふふ。本当はこれがしたかった? 残念ね、お子様身長で」
「ふ、ふ、風紀委員がこんなことしていいと思ってるの!?」
「あら。精一杯の抵抗、かわいいわね。ほら、もっと頑張りなさい」
(凜ちゃんにもやり返されて、冬姫さんにもこんなことされて……。しかもみんな見てるよ……)
ここで折れたら今後のイタズラ人生に傷がついてしまう。
壁ドンするくせに自分も攻められたら簡単に落ちるチョロい女。
そんなレッテルは嫌だ。
だけれど顎は固定されて顔は動かせず、否が応でも目線を結ばれてしまう。
体だって二つの大きくて丸いものが行く手を阻んでいた。
逃げ場はないし、攻める手段もない。
あとは蹂躙されるのを待つだけ――。
「さて、ここで誓いなさい。『一生冬姫様の言うことに従います』と」
「校則とかスカートの丈とか関係ないじゃん! 嫌だよ!」
冬姫がそっと祐香の左耳に囁いた。
周りの人間には聞かせないために。
「実はね、私がこの立場になったのは支配のためなの。人を自分のいいなりにできるなんて、すっごくゾクゾクしない?」
「な、何を言って――」
「あぁ、声を出さないで。このことは誰にも知られたくないから。ほら、決めなさい。私のペットになるか、このまま生徒諸君に恥ずかしいところを見られるか」
「なんか凜ちゃんと同じ目つき……」
「凜? 高山凜さんのことかしら。それがどうかした」
「なんでもないです……。ふ、冬姫さんのペットになりま――」
祐香が降参を宣言しようとした時。
誰かの悲鳴が祐香の声を掻き消した。
「きゃぁぁぁ! 風紀委員さん、露出狂が隣の教室に!」
「露出狂!? はぁ……。いいところだったのに。次こそはペットになってもらうから、あなた、スカートはそのままでいなさい」
「やだ! 長くします!」
ようやく顎から手が離され、押し当てられていた膨らみもなくなった。
次第に野次馬たちも露出狂とやらに気を取られて別の場所に散っていく。
「祐香、大丈夫?」
ただひとり、その場に留まっていたのは凜。
「うん……。さっき叫んだのって凜ちゃんだよね、ありがと」
「ううん。ぜんぜん」
(だってどこぞの馬の骨に祐香を取られたらたまったもんじゃねぇもん。なんだアイツ、許せねぇ! でも、顎クイされる祐香はかわいかったなぁ……)
「あ、そうだ凜ちゃん」
「何?」
「デートの練習、してくれない?」
―――――――――
12月24日。
ゆったりと雪が降る中、祐香は相手を待っていた。
周りはカップルが多く、きっと目的は自分たちと同じ。
クリスマスデートとしてイルミネーションを見に来たのだろう。
(でもみんなと違って、私には目的があるからね。今日こそ凜ちゃんを照れさせる!)
ただ二人でイルミネーションを見るだなんてベタだけれど、それでいいんだ。
キス事件のような失敗は絶対にしない。
「おまたせ、待った……?」
ポツリと聞こえた声には聞き覚えがあった。
顔を上げるとそこにいたのは凜。
「ま、待ってないよ。大丈夫」
(凜ちゃんカッコいい……。あ、見とれちゃダメだってば!)
「そう。……じゃあ行こっか」
(かわいい、かわいい、かわいい! 祐香のあったかフワフワコーデ、めっちゃかわいい!)
凜が進もうとすると、すかさず祐香は手を伸ばした。
「あの、手、つ、つ――」
(いつもの調子で言えばいいんだって! 男の子に言う感じで!)
しかし言葉が詰まっていく。
短い言葉であるはずなのに、言おうとすればするほど声が出てこない。
言葉が出てくる前に祐香の指が凜の手に触れる。
凜はフッと微笑み、その指を自分の指と絡めた。
「手、繋ごっか。暖かいしね」
(ふぉぉぉぉおお! 祐香の指細いし、すべっすべ! 大丈夫? 私の口角上がってないよね?)
「うん……」
(また先手打たれた……。他の男子よりもイケメンにならないでよ……)
モヤモヤした気持ちが心を乱す。
雪が目の前を通過するように、心にも斑点があって自分の気持ちがよく見えない。
(こんな優しい雪じゃなくて吹雪だよ、もう……! 調子狂うなぁ)
(あれ、祐香がうつむいてる……。もしかして照れてる? いや、まさか退屈してる!? なにか話しかけないと!)
「祐香はさ、どうして私とデートの練習がしたかったの?」
吐息が雪のように白い。
「どうしてって……。な、なんとなく」
(イタズラしたいからなんて言ったら怒られるよ!)
「なんとなく……。でも練習ってことは気になる男子がいるんでしょ」
(あ、なんでこんなこと聞いたんだろう私。あー、つらいつらい……)
祐香は少し考えた後に返事をした。
「いないよ……。でも、あれだけ人をからかっておいて人生経験がないのも恥ずかしいじゃん……」
「そう。いいよ、いつでも何回でも付き合ってあげるから。あ、じゃあ私は彼氏か」
(いよぉぉぉぉぉぉぅし! 私こそが祐香の彼氏だ! ヒャッハー!)
「彼!? ダメダメ、役作りしないでよ!」
(余計に意識してやりづらいってば! 凜ちゃんも乙女でいてほしいのに……)
「でも練習でしょ。ちゃんとやらなきゃ」
「うぅ……」
祐香は言い返せなかった。
そのまま時間は流れ、結局凜は男役としてイルミネーションを見ることに。
「祐香、ほらもっと寄って」
(今は彼氏だから好きなだけ積極的になれる! 役得!)
「凜……くん。男のくせに私より胸大きいね」
「ほら、そういうこと言わないの。ちゃんと練習してってば」
「むぅ……」
ベンチに座って煌めく光を一緒に眺めた。
寒い風も二人が寄れば相手の暖かさを引き立てるスパイスになる。
イルミネーションを見に来た人たちの中で一番の密着度を誇れるほどにくっつく。
(凜ちゃん、ムードの出し方上手すぎるよ……。もうイタズラできる雰囲気じゃないなぁ……)
(祐香の髪の匂い! あっはぁー! 彼氏って最高!)
二人はただ黙って同じものを見るだけだったが、それだけで謎の充足感があった。
たとえそれがイルミネーションだろうと夜景だろうと、寒い中に抱き合っていれば同じ気持ちになるはずだ。
(これが、デートなんだね)
(これが彼氏の特権……!)
寒さがなければ暖かさは感じられない。
冬の、しかもクリスマスにデートをすることの意味を二人は痛感したのだった。
―――――――――
「祐香、ウチに泊まらない?」
そろそろ家に帰るような時間だが、そんな時に凜から提案があった。
「いいの?」
「いいよ。親、いないんだ」
(これこそクリスマスデートの醍醐味! 据え膳食わぬは彼氏の恥ぃ!)
「じゃあ、泊まる」
(やった! 今日こそ私からキスでもして、決定的瞬間を見てやるんだから)
クリスマスに彼氏の家へ行くとはどういうことか。
恋愛をしたことのない祐香にはわからなかった。
ずっと手を繋いだまま凜の家に向かう。
他愛もない話をしていると、家はすぐに見えた。
「ほら、入って」
(はぁ! 祐香が入るよ! 我が家に踏み入るよ!)
「ありがとう……」
(あれ、誰かの靴あるけど?)
「じゃあまずお風呂入ろ! 一緒に!」
「い、一緒に!?」
祐香の手を引き、凜は脱衣所の扉を開けた。
「――お姉ちゃん、何?」
中には髪の濡れた半裸の先客がいた。
凜の妹――沙菜。
凜は祐香のことが好きではあるが、極度のシスコンでもあった。
むしろ少女のかわいさについて目覚めたのは妹からな気もする。
「もしかしてお姉ちゃん、また一緒にお風呂入る気?」
「沙菜がいるの忘れてた……! 沙菜、今日はお客さんがいるからあまり変なことは言わないで……」
凜の目つきはキリッとしたものだが、妹も鋭さを秘めていた。
そんな視線が祐香と合う。
「あ、はじめまして。祐香です」
「どうも……。お姉ちゃんから話は聞いてます。ご愁傷様です」
なぜか鋭かった目つきから労るような目に変わり、祐香は困惑する。
「沙菜、お願いだから協力して! これ以上は言わないで!」
「まぁ、言ったら後が怖いし……。祐香さん、頑張ってください」
沙菜は上の服を着てその場を去った。
(危ないなぁ! 祐香に私の下心がバレるところだった……!)
普段から妹に対してセクハラ紛いなことをしているのが仇になるとは。
(なんかよくわからないけれど、姉妹で仲がいいんだね)
祐香にはバレていない様子だ。
さて、脱衣所に二人っきり。
一時はヒヤヒヤした凜だったが、邪魔者がいなくなると自分の欲望を隠しつつも内心はウキウキ気分。
「脱ごう、祐香!」
凜はおもむろに服を脱ぎ、早く風呂に入ろうと急かす。
「よ、よくそんな堂々と……。恥ずかしくない?」
「ふぅーん、祐香は恥ずかしいんだ」
「あ、いや、恥ずかしくなんかないよ!」
(だからなんで私がからかわれちゃうの! 凜はすまし顔のくせに……!)
祐香は服の端をつまんで、ゆっくりと持ち上げた。
「……見すぎ」
「あ、ごめん……」
(やっべー! 祐香の脱ぎっぷりがエロすぎてついガン見してた!)
下着も脱ぎ、生まれたままの姿をさらけ出す。
まだ湯に浸かっていないのに、どことなく体が熱かった。
「そ、そんなに凜ちゃんが見るなら私だって見ちゃうもん――」
(って、でっか! え、もしかしてブラで小さく抑えてるの? なにこれ、メロン?)
自分のは超小ぶりな肉まん。
この差は遺伝子なのだろうか。
それとも生活環境か。
「祐香、顔赤いよ。のぼせるの早いって」
勝ち誇るように凜は笑った。
レアな凜の笑顔を見ることができて嬉しい祐香だったが、それよりも悔しさや恥ずかしさが上回ってしまう。
「ほら、もうお風呂入ろうよ!」
「はいはい。じゃあ、まず私が祐香のこと洗ったげるね」
「え!? じ、自分で洗うってば!」
祐香が断っても凜は聞く耳を持たなかった。
すでにボディーソープを手に馴染ませ、洗う気満々だ。
「ほら、座って」
「うぅ……」
ひんやりとした液体が自分の背中で伸ばされる。
少しずつその手つきは滑らかになり、背中全体があっという間に泡立った。
「ほら祐香、バンザイ」
「ば、ばんざーい……」
てっきり腕を洗われるのだと思いこんでいた祐香。
しかし凜の狙いは――。
「おぉ……。控えめだけどちゃんと柔らかいね……」
「凜のエッチ! スケベ!」
泡だらけの手で突然触られ、驚きを隠せなかった。
しかしそれが一瞬だけでなく祐香が抵抗を見せても続いた。
「なにしてるの! ちょっと!」
「入念に洗ってるんだってば。じっとしてて」
彼氏の家に行くことは危険だと、祐香は学ぶことになった。
―――――――――
ひとつの布団に女子高生二人が入るのはあまりにも窮屈だ。
でも人肌はどんな暖房器具よりも優しく包み込んでくれるものだった。
「祐香、本当に枕なくていいの?」
「うん。誰かさんの胸がいい仕事してるから」
後頭部に当たる柔らかいメロンのおかげで安眠できそうだ。
もはや祐香は当初の目的を忘れかけてお泊りデートを楽しんでいたが、眠りにつく前になんとか思い出す。
(そもそも凜ちゃんって恥ずかしい経験したことあるのかな)
単純に気になり、祐香は不意に投げかけた。
「凜ちゃんってさ、いつもクールでカッコいいけど恥ずかしい思いとかしたことないの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「あ、いや……。私も動じないようになりたいなって」
「ふーん、また誰かをからかうため? 風紀委員にも返り討ちにされてたのに?」
「も、もう大丈夫だって!」
凜は軽く間を開けてから祐香に言った。
「ねぇ、こっち向いて」
「なに、凜ちゃ――」
凜と目を合わせようと思ったが、それはできなかった。
それができないほどに凜の顔は近くて、唇だってすでに重なっていたのだ。
「ぷはっ! な、な、なに!?」
「ほら、動じないようにしてみてよ」
まただ。
またキス事件と同じだ。
だが祐香の予想に反し、今回はキス事件以上だった。
祐香が感じたのは自分の口内に異物が入る感覚。
「んんー!」
(これって、ディープなやつじゃない!? 待って、やり方もよくわからないのに!)
やり方がわからないというのは防ぎ方もわからないということで、やられっぱなし。
さんざん口内を弄られた後にようやくお互いの口が離れる。
祐香はキスに必死だったが口が離れた後、凜が馬乗りになっていたことにはじめて気づいた。
なぜか体の力加減がうまくコントロールできず、体が勝手に震えてしまう。
「祐香、見せてあげるよ。本当の私を――」
凜の手が祐香の服の中に伸びた。
(そっか、凜ちゃんは最初からこれを狙って……。やっぱり、私よりイタズラ上手だね……)
もう相手に委ねよう――。
祐香はついに覚悟を決めた。
バン――と扉が開いた。
「あ、やっぱり変なことしてる! お姉ちゃん、このままじゃいつか訴えられるよ!」
「沙菜! 今、いいところだったのに!」
「あっそ。じゃあいいもん。祐香さんと一晩中イチャイチャしてなよ。私は警察呼んでくるから」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ……あの、これは、練習だから!」
「わかったなら寝て。サンタさん来なくなっちゃうじゃん」
「……あんた、まだサンタさん信じてるの?」
「バっ――! ああもう、今度から添い寝も耳かきもしてあげないんだから!」
乱暴に部屋の扉が閉められた。
しん、と静寂が部屋を埋めていく。
「あ、あの、祐香。ほ、本当に練習だからね。別に私が祐香を性的な目で見てるわけじゃ――」
尊い純愛でもなんでもなく、例えるなら『萌え』に近い感情。
無表情の裏にそれがあるとバレてしまったら、今後のような学校生活は送れないはずだ。
急いで弁解せねば。
「って、あれ、祐香?」
祐香は穏やかに寝息を立てていた。
とても幸せそうに。
(そうだ、夢ってことにしよ。もー、そんな夢を見ちゃうなんて祐香はエッチだなぁ)
祐香の横に横たわった凜はそっと体を寄せる。
やはり人肌の暖かさは格別だ。
「メリークリスマス、祐香」
小さく呟いてから、凜も今日を手放した。
―――――――――
「昨日、変な夢見た」
祐香はそんなことを言った。
凜は一瞬ビクリとしたが、無表情で隠すのは得意だ。
「どんな夢を見たの?」
「そ、それが……。凜ちゃんと何をされても動じない練習をして――」
「練習、ねぇ。じゃあいつかしよっか、その『練習』を」
(あの風紀委員ちゃんに負けてほしくないし)
「う、うん……」
(凜ちゃんが夢と同じくらい積極的だったらどうしよう……。そんなわけないか……)
朝も夜と同じように澄んだ寒さがある。
寒さ以外すべてを排除したような外気。
でも、だからこそ、やはり二人でくっつけば暖かい気がした。
まだ少し眠たそうな凜の頬に、前触れなくキスをする。
「り、凜ちゃんにクリスマスプレゼント……」
照れさせるためにやったはずの行為で自分が照れてしまい、凜の表情はやはり変化なし。
今回も完全に空振りだ。
(まだ『練習』が必要かな……)
クリスマスが終わっても、祐香のイタズラに対する気持ちは留まることがなかった。
お読みいただきありがとうございます!
これは次なる『練習』があるのかも……?
今のところ続編については未定ですが、決定したらここに書き込みます!
追記:すべてのはじまりとなった1作目、「それでもあの子とキスがしたい」にレビューをいただきました!
これを記念して、続編を2作書こうと思います!
1作目の公開は元旦!
1年のはじまりは百合から!