エピローグ:最強魔王、Sランクになる
ギルスたちがコトーニの町に帰還すると、町の前で重装備を来た男たちが整列していた。全員の表情が緊張に包まれている。
ただならぬ雰囲気を感じた。
「き、君! もしかして山の方に行っていたのか!?」
「ああ、確かに行ったぞ」
「ちなみに聞くが……ダ、ダンジョンができたというのは知っているのか!?」
彼の言うダンジョンというのはさきほど出来たばかりのダンジョンで、ギルスたちがすぐに潰したものだと理解した。
「ああ、あれか……」
「し、知っているのか!?」
「ああ、さっき潰したけどな」
ギルスが答えると、彼らは驚愕した。
「そ、それはどういうことで!?」
「ん? 普通にダンジョンに入って潰してきたんだ。ああいうのは早め対処が肝心だからな」
「なっ……! それは本当か!? ……見たところ二人しかいないようだが」
「ん、二人でダンジョンを潰してはいけないのか?」
「いや……いけないことはないが……そ、そんなこと……ありえん!」
ありえないと言われても事実としてギルスはダンジョンを潰してきたのだ。そういわれても困るというものである。
「まあそういうことだ。不安なら確認してくるといい」
ギルスは答えると、冒険者ギルドに向かった。
◇
冒険者ギルドは慌ただしくしていた。
多くの冒険者が集まり、受付から少し離れた場所では新ダンジョンの討伐パーティを募集していた。
「あっ! ギルスさん! 無事に戻られて本当に良かったです! ……実はあの後ダンジョンが出来てしまいまして」
「ああ、あれか。さっき潰したからもう大丈夫だぞ」
「つ、つぶ!? へっ?」
受付嬢は混乱した。
今まさに混乱中の状況なのだ。
「そ、それはどういうことですか!?」
「ん、町から出た直後に大きな揺れを感じたからな。行ってみたらダンジョンがあったから潰しておいた。放っておくと危険なんだろう?」
「そ、それは確かにそうですが……まさか……そんな!」
その時、受付嬢に連絡結晶を通じて声が聞こえてきた。
さっき町の前で整列させていた男のものだ。
「お、応答願います。……ただいまダンジョンを確認したのですが、完全に破壊されています。……先ほど帰還した男が潰したと言っていたのですが……と、とにかく隊員は全員無事です。今から現場の保存処理をした後帰還いたします!」
「え!? ど、どういうことですか!?」
連絡結晶の声が途絶えた。結晶の効果時間は短い。それなりに高価なのに、一個で三十秒ほどしか通話できないのだ。
「まさか……ギルスさんたちが!?」
「嘘をつく理由などないからな」
これは戦争でもなんでもない。普段の会話で嘘ばかりつくような者は人間であれ魔族であれ信用を失う。ギルスは基本的に嘘をつかない。それに、この程度のことで嘘をつくメリットもない。
「そんなことよりもリイネの草を持ってきた。鑑定してほしいのだが」
「え、えっと……わ、わかりました」
二人のギルド会員証を預かり、受付嬢は奥に引っ込むと、しばらくして戻ってきた。
「し、信じられません。……全部正真正銘のリイネの草です……」
驚きを隠せない表情で受付嬢は話す。
「リイネの草は似た見た目をしたものも多くあるので、駆け出しの冒険者は間違えて採集してしまうことも多いんです。……でも、ギルスさんたちの採集してきたものは全部リイネの草でした!」
リイネの草はポーションの作成にも使う。
この程度のことで間違えることはありえない。だからこれが凄いと言われてもピンとこなかったのが、面倒なので適当に流した。
「これがリイネの草の報酬になります。あ、あとこれから会議があります。もう少しだけここで待っていてもらえませんでしょうか? すぐに終わりますので」
「わかった。待とう」
特に先を急ぐ理由を持たないギルスとリーシアは、この場で待つことにした。
「リーシア、よく頑張ったな」
「ふぇっ?」
リーシアは目を丸くしていた。ギルスから褒められるとは思わなかったのだ。
「初めてのダンジョンで貴様ほど冷静に戦えた者は初めて見た。誇って良い」
ダンジョンに入る人間たちは、熟練の冒険者でも皆必要以上に警戒していたものだ。恐怖で足が竦み、魔物に殺される者も少なくなかった。
「そ、それはギルス様が一緒だったから」
「俺がいれば万に一つも死ぬ未来などないが、それでも本能的に恐怖するものだ。リーシアは強い」
「あ、ありがとうございます」
リーシアは照れを隠せない様子で感謝の意を示した。
それからニ十分が経った。
「お待たせしました! ギルスさん! リーシアさん!」
受付嬢の手には、金色に光るギルド会員証を乗せた台が載せられている。
「おめでとうございます! ……本部との協議との結果。ギルスさんたちはSランク冒険者への昇級が決定しました!」
「Sランク……? そんな階級はなかったはずだが」
「はい。近日発表予定だった新しい階級なんです。Aランク冒険者の中にも力量の差がかなりあります。……ギルドの事務としてもランクだけを見てクエストをお願いするのは無理があると報告しておりました。……そして、ついにAランク冒険者の中から特に優れた冒険者をSランクとして迎えることにしたのです」
「ふむ、まあランクは高くて困ることはないだろう」
ギルスとリーシアは受付嬢からギルド会員証を受け取った。
「ギルス様、リーシア様、お二人のこれからの活躍をギルド一同、心より期待しております。これからもどうぞよろしくお願いします」
ギルスは初のSランクということで、事務と他の冒険者から羨望の眼差しを受けた。
特に挨拶もなしにギルドを出ていく。
「リーシア」
ギルスの手がリーシアに触れる。
リーシアの顔が赤くなった。
「えっと……?」
「はぐれると良くないからな。嫌なら構わんが」
リーシアはぶんぶんと頭を振って、
「そんなことありません!」
二人はどこまでも行く。
具体像はまだ見えないが、きっとこの世界の魔王を倒したその先に何かがある。
そう信じて、昼間だというのに宿屋に入った――。
これにて完結です。ご愛読ありがとうございました!
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