表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

第6話:最強魔王、ダンジョンを潰す

 ギルスとリーシアは訓練場を後にし、冒険者ギルドへと戻ってきた。

 奥の受付でギルド会員証を受け取るためだ。


「おめでとうございます! まさか試験官を瞬殺なんて……凄いです!」


 羨望の眼差しで迎えられたのだった。

 二人にとっては取るに足らない相手だったが、受付嬢の反応を見る限り、一筋縄ではいかない相手だったのだろう。


「では、ギルド会員証をお渡ししますね」


 受付嬢はカードタイプの会員証を二人に手渡した。

 会員証には名前とランクが印字されている。

 ランクとはギルドにおける階級である。五段階に分けられるが、もちろん二人のランクはEである。


「さっそくクエストを受けたいのだが、適当に見繕ってくれるか?」


「そうですねえ……ギルスさんたちなら最初から討伐系のクエストも受けられそうなんですけど、めぼしいのは上のランクの冒険者が取って行っちゃってて、採集クエストなんてどうですか? これなんて実入りは良いと思いますよ!」


 受付嬢が持ってきたのは【リイネの草】の採集クエストだった。リイネの草は森に入ればいくらでも手に入るような、基本的な薬草である。ポーションの作成に使われる。しかし、必要量も多く常に枯渇しているという状況で、難易度のわりに報酬はいい。難易度が低いとはいえ、森に入れば魔物が出現する可能性もあるため、冒険者以外は採集しないのだ。


「うむ、ではそれを受けよう」


 ◇


 ギルスたちパーティは【リイネの草】採集クエストを受けると、すぐに出発した。

 町を出ると、地響きがする。


 ゴゴゴゴゴ……。


「ギ、ギルス様!? これって!?」


「ここからそう遠くない場所で地殻変動が起こっているようだ」


 ギルスは耳を澄ませていた。

 なにが起こってるのか正確な判断はできないが、そう結論付けた。

 何らかの地殻変動。


「向かうぞ」


 二人は全速力で山を駆け上っていく。

 その途中には【リイネの草】も生えていたが、一旦無視して突き進む。

 山の開けた場所に地殻変動の正体はあった。

 開けた場所というよりは、今の地殻変動により、強引に草木が薙ぎ倒されたような感じだ。


「これはまさか……」


 リーシアが口を両手で覆う。


「間違いないな……その兆候はあったが」


 ダンジョンだった。

 ピリーラ村で井戸に魔素が紛れ込んでいたことで予測していたことだが、まさかここまで早いとは想像もできなかった。


「ど、どうしましょう……ギルドに伝えた方が」


「いや、潰してしまおう」


「え?」


 リーシアは耳を疑った。ダンジョンにたった二人で乗り込むなど、死にに行くのも同然。勇者パーティでもしっかりと準備してから乗り込むものなのだ。


「このダンジョンは今できたばかりだ。今ならすぐにつぶせる」


「し、しかし……」


 ダンジョンは時間を経過するごとに成長する。まるで生き物のように。

 成長しきったダンジョンは成熟期を迎え、しばらくすると衰退期に入る。衰退したダンジョンの魔物は消えるが、数百年レベルのスパンのため、その間に起こる人間への被害は計り知れない。


「ついてこなくてもいいぞ。俺一人でもどうにかするつもりだ」


「つ、ついていきます!」


「そうか、好きにしろ」


 ◇


 ダンジョンの中は暗かった。

 松明を火魔法で燃やし、炎の頼りない光だけで前に前にと進んでいく。


 キイィィィィィ!


「よっと」


 コウモリのような魔物が飛び出してきたので、ギルスは素手で殴って倒してしまう。


「魔物を素手で倒す人なんて初めて見ました……」


「そうか? 武器がないと魔物を倒せないようでは魔王なんて夢のまた夢だと思うがな」


 勇者たちの未来を心配し、ギルスはさらに進んでいく。


「宝箱か。開けてみよう」


「だ、だめです! トラップの可能性が!?」


 構わずギルスは宝箱を開けた。

 次の瞬間、大量の魔物が発生する。見た目はさっきと同じくコウモリのような姿をしていた。


「だから言ったじゃないですかあ!」


「まあそうカリカリするな、町へ帰ったら牛乳を飲むがいい」


 牛乳に含まれる成分の一つに精神を安定させるものが含まれていると言われている。

 一説には牛乳に含まれるその成分が足りていないとカリカリしてしまうとも言われているが、どちらにせよカリカリしている人間に牛乳を飲めというのは煽り文句になっていた。


「わ、私はカリカリなんてしてません!」


「そうか、まあいい」


 ギルスは【暗黒炎】の魔法を使い、炎のブレスで魔物を焼き払う。九割近くの魔物を殲滅すると、後は殴って倒した。


「もうほんと……規格外すぎます!」


 そんなことを繰り返すと、最奥の部屋に辿り着いた。

 出来立てほやほやで成長途上のダンジョンはまだ小さく部屋数も少ない。

 すぐに最奥までたどり着けるのだ。


 ダンジョンのボスを倒すことで、ダンジョンの成長は止まる。

 ダンジョンのボスはコウモリ型の巨大な魔物だった。全長三メートルはある魔物が羽ばたき、襲い掛かってくる――。


 狙いはリーシア。

 頭の良い魔物は戦闘力の差を見極め、弱い者を狙って攻撃する。

 リーシアも決して弱くはないのだが、ギルスに比べれば弱い。


「これはちょうどいい。リーシア、少し囮に使わせてもらうぞ」


 リーシアに目掛けて飛んでくる魔物。

 その爪が当たる寸前で、横からのキックを浴びせる。

 ただのキックでも、ギルスの攻撃だととんでもない威力を発揮する。

 しかも不意の横からの蹴りだ。

 猛烈な勢いで吹っ飛び、ダンジョンの壁に激突する。

 【暗黒炎】で焼き尽くし、討伐完了だ。


「これでダンジョン攻略完了だな」


 十分ほどだった。途中に宝箱を開ける等、少し時間を無駄にしてしまったが、概ね満足のいくスコアだ。

 ギルスはリーシアを連れてダンジョンの外へ出ると、ダンジョンを土魔法で破壊した。

 魔物を生き埋めにすることで根絶やしにするのだ。そうしなければ稀に残った魔物がボス化し、成長を再開してしまうことがある。


 二人は本来のクエストである【リイネの草】を必要な分収穫すると、ギルドに戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ