第5話:最強魔王、試験を受ける
ギルスたち二人はピリーラ村を出発してから二日でコトー二の町に着いた。
コトーニの町はしっかりと管理が行き届いているようで、綺麗な街並みが広がっている。
規則正しく計画的に建てられた建物。町の中央には公園が設置され、大きな噴水がある。
「ここはつい最近できた町なんですよ。私も来たのは初めてなんです」
「ふむ、良い町だな」
ギルスはその綺麗な街並みを眺めた。
「これからどうするつもりなんですか?」
「しばらくはこの町に滞在するとしよう。食料はあるが金がないんじゃ話にならないからな」
ギルスが異世界から持ってきたのは一年分の食糧だけ。食うには困らないが、いい加減お金を稼がないと宿にすら泊まれない。
「私は少しお金を持っていますが……」
「どれくらい持っているのか知らぬが、稼ぐ術がなければすぐに底をつく。……それに、魔王が金を借りたり、ましてや養ってもらうなどありえん」
ギルスは説明すると、案内図を確認し、歩みを進めた。
「どこにいくのですか?」
「冒険者ギルドだ。おそらく依頼をこなせば金が手に入るのだろう?」
◇
冒険者ギルドに着いた。
人間たちはここで魔物を討伐する依頼を受け、それに従って倒しに行くという知識は持っている。
まさか魔物を相手に戦うことになるなど考えたこともなかったが、組織自体には興味があった。
冒険者ギルドの中は随分とすっきりしていた。
無駄なものが何もない。
奥に受付があり、その隣にはクエスト掲示板。
手前には何も置かれていなかった。
ギルスが不思議そうに見ていると、リーシアからの説明が入る。
「冒険者ギルドは早朝のクエスト掲示でたくさんの人が集まります。そのため、広い空間になっているんですよ」
ギルスはリーシアの説明に納得し、「そうなのか」と答えた。
「クエストを受けたいのだが」
ギルスは奥の受付に行き、受付嬢に相談を始める。
ギルスは並みの人間以上の巨体だが、受付嬢は驚くことなく説明を始めた。
冒険者の中にはギルスよりも凶悪そうな見た目をしている者や、見た目だけなら迫力のある者も多数いる。いちいち驚いているようでは務まらない。
「それでは、試験を受けていただきます」
「試験だと?」
「ええ、冒険者は危険を伴いますから、あらかじめ試験させてもらっています」
「ふむ、内容はどんなものだ?」
受付嬢はテーブルの下から資料を取り出し、広げる。
「ギルドの担当官と戦っていただきます。勝てなくても構いませんし、並みの冒険者では勝てません。ここで力を認められれば、Eランク冒険者になれます」
「ふむ、そのランクというのはなんだ?」
「ギルドにはEからAランクまで五段階の階級があります。階級が上がると受けられるクエストの種類も増えていきます」
ギルスにとっては、冒険者ギルドのシステムは新鮮だった。
このようにして配下の魔物は数を減らしていたのだ。異世界とまったく同じ仕組みなのかはわからないが、配下の魔族の会話が少し繋がる。
「試験はいつ受けますか?」
「俺はいつでもいい」
「では、今からにしますか?」
「ああ、そうしてくれ」
◇
ギルドの入会試験が始まった。入会を希望するギルスとリーシアは、冒険者ギルドの隣に設置されている訓練場に集められた。
今日相手をするのはスキンヘッドの男性担当官である。額に傷がついていて、その眼には闘志が宿る。歴戦の猛者なのであろうと推測できる。
ギルスは剣での試験を希望した。
試験は木刀で行われる。
「かかってこい!」
担当官はいつでも戦える態勢を整えていた。
――弱い。あまりにも弱すぎる。この程度の実力者が試験を担当するとは。ちゃんと評価できるんだろうな?
少し不安になりながらも、ギルスは剣を両手に持ち、担当官に向かって猛ダッシュする。
そのダッシュは踏み出すごとに加速し、光のように駆け抜ける。
木刀がぶつかり、ミシミシ……という音が鳴る。木刀が悲鳴を上げている。
ギルスはそのままの勢いで力いっぱいに剣と剣をぶつけると、耐久力の限界を超えた担当官の剣が真っ二つに折れてしまった。
折れた剣の先は宙を舞い、地面を転がる。
ころ……ころ……。
「そ、そんな馬鹿な!」
「これでいいのか?」
ギルスは木刀を担当官の肩にポンと当てる。
まったく本気は出していない。むしろサボっていた。
あまりにも担当官が弱すぎるものだから、少しでも実力を出せば殺してしまいかねない。
木刀が折れるのは想定外だった。普通は剣にはエンチャントを付与するものなのだ。いかに硬い素材で作られた剣でも、その素材自体の限界というものが存在する。
「降参だ……こんなにつよい受験者を見たのは初めてだ」
「そうか、それで、試験の結果はどうなった?」
「……言うまでもない。合格だよ」
当然の結果である。次の挑戦者であるリーシアに目を向けると、そのままギルスは見学席に座った。
その後、リーシアも担当官相手に容赦ない戦いを繰り広げたのだった。
いくら回復の勇者が戦闘に向いていないとは言っても、並みの人間には勝てない。
それが勇者というものだ。