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第2話:最強魔王、勇者に復讐する

「その前にやっておくことがある。ちょっと脚触るぞ」


「え? ひゃっ!」


 ギルスはリーシアの脚に手を触れる。

 柔らかな白い光が煌めき、パチパチと音が鳴る。


「ん……あっ!」


 リーシアが手で制止しようとするが、ギルスは強引にその手を抑える。


「終わったぞ」


「な、何をしたんですか!?」


「必要なことだ」


 そう言って、ギルスはリーシアが抱える杖を奪う。

 立ち上がると数歩歩いて距離をとる。


「杖を返してください……お願いします……」


 涙目で訴えるリーシア。


「返してほしければ自分で取りに来い。できるはずだ」


「そんな……歩けないのに……」


 リーシアは地面に手を突き、四つん這いの姿勢でギルスに近づく。

 しかし、必死に近づいてもギルスは一歩後ろに下がるので、距離が縮まることはない。


「足を使えば追いつけるだろうに。なぜ使わない?」


「だって歩けないから……え?」


 リーシアは足が動くようになっていることに気づく。

 慎重に地面から手を放し、足だけで姿勢を保つこともできた。

 ゆっくりと立ち上がる。


「あれ……? どうして……?」


「どうした? 杖はここにあるぞ」


 リーシアは大急ぎでギルスに駆け寄ると、杖を取り返した。

 奪ったのではない。ギルスが返したのだ。


「たったいま呪いは解けたようだ。よかったな」


「もしかして……ギルス様が解呪してくださったのですか!?」


「ん? 俺は解呪などしていないぞ。その呪いが勝手に解けただけだ」


 ギルスは本当に『解呪』していなかった。リーシアにかけられた呪いは時間制のもので、千年の間足の動きを封じるというものだった。無理やり解呪することもできたが、ギルスは呪いの計測時間を千年経過させることで消滅させたのだ。罠が仕掛けられている可能性も無きにしも非ず。こちらの方がよりスマートである。


「これが偶然のはずがありません。本当にありがとうございます。……感謝してもしきれません」


「ふむ、そんなに感謝しているのなら対価を払ってもらおう」


「私にできることならなんでも致します」


 リーシアは覚悟を決めていた。

 文字通りどんなことでもすると決意した。この言葉に嘘はない。

 だから、ギルスの要求がどんなものでも驚かないつもりだった。


「リーシアの恨みを晴らした後、俺は村へ向かう。この世界に関する情報をできるだけたくさん教えてくれ」


 リーシアにとってギルスの要求は無欲なものに感じられた。

 目の前でなんでもすると言った少女に要求する内容にしては軽すぎる。確かに、勇者パーティに所属していた彼女はその辺の村人よりもたくさんの知識を持つことは明らかだ。しかしそれでも、対価に見合っていない――。


「そんなことで本当によろしいのですか?」


「今の俺に必要なのはそれだけだ。いまさら欲しいものなど他にない」


「そういうことなら……わかりました。私の持つ全てを差し上げます」


 リーシアの含みを持った言い回しに、ギルスは気づかなかった。


 ポツ……ポツ……。

 雨が降り出した。厚い雲がかかっていて空模様はもとよりあまりよくなかったが、ついに降り出してしまった。


「雨か。……これから動き出そうという時に降り出すとはな」


「止むまで待ちますか?」


「いや、問題ない。雨ごときどうにかできずに魔王は務まらん」


 雨は自然現象である。普通の人間が自然を相手にどうにかするなど不可能なのだが、魔王にかかればこの程度に抗うなど造作もないことだ。


「一分ほど待つがいい」


 ギルスは手ごろな木の棒を拾うと、地面に突き刺し、魔法陣を描いていく。

 星形の魔法陣にすらすらと魔法式を記述していく。

 三十秒ほどで魔法陣の構築を終えた。


 ちょうど雨粒は大きくなり、『ポツポツ』から『ザーザー』と雨脚を強くしている。

 ギルスが魔力を送り込み魔法陣を起動させる。地面に描かれた魔法陣が煌めく。


「これで行く手を阻むものはなくなった。……行くぞ」


「は、はい!」


 遥か上空では、突如魔法による強風が発生していた。

 ギルスたち一帯を取り巻く雨雲は風に散らされ、遠くへと行ってしまう。

 雲の去った森には、太陽が力強く照っていた。


 ◇


 早足で歩みを進めてしばらくすると、再びあの教会が見えてきた。リーシアによればここに勇者パーティがいるとのことらしい。


「勇者は全員揃っているのか?」


「はい……勇者は全員で行動するので今日はまだ動いてないと思います」


「そうか、ならいい」


 ギルスは乱暴に教会の扉を開けると、中に入った。

 扉の先には七人の勇者がちょうど集まっていた。


「な、何者だ!」


 いきなり剣を向ける勇者の一人がいる。……召喚の間にはいなかった勇者だ。


「俺の素性はそいつらの方が詳しいだろう」


 固めっていた三人の勇者……フェデリカ、ミケル、アムニスの方を見ながら答える。


「ギルス・アイズベル……先ほど僕たちが召喚した勇者候補です」


「こいつが……初の勇者不適格者か」


 興味深そうにギルスを舐めまわすように見る。


「そんなことより確認したいことがあるのだが……リーシア・シュディットを追放したというのは本当か?」


「なぜお前にそれを教える必要がある!」


 ギルスの眉がピクっと動く。


「言葉には気をつけろ。俺の機嫌が悪ければお前はもう死んでいる」


「な……なにを……」


 ギルスの迫力に少し気圧される勇者。


「それで、どうなんだ? 早く答えろ」


「ふん、まあいい。リーシアを追放したのは本当だ。まったく……パーティになんの貢献もしないクズだったぜ。魔物の一匹も殺したことがねえ勇者……ゴミだったよ」


「回復魔法の使い手なら魔物を攻撃しないのは当然のことだろう。違うのか?」


「はっ! 回復魔法なんて今どき要らねえんだよ! 魔物に足やられてざまあみろってんだ! いい気味だぜ」


「ふむ、それでリーシアをハメたのか」


 ギルスの確認に、勇者たちは言葉を詰まらせた。

 心なしか顔も少し青くなっている。


「な、なんでそう思うんだ……?」


「簡単なことだ。魔王や魔族と戦うならば回復職は最後の砦になる。なんとしてでも守らなければならない存在だ。リーシアだけが呪いをうけて貴様らだけがノコノコと帰ってこられる時点で、違和感がある。それに、魔族が呪いをかけたにしては色々と抜けすぎている。欠陥だらけ……こんな代物を使うわけがないだろう」


 前半の推理にはハラハラとしていた勇者たちだったが、後半には疑問符を浮かべていた。


 ――ん? 勇者が呪いをかけたのだと思ったのだが、違うのか? 魔族が作ったにしてはゴミだと思ったのだが。


「いや……リーシアに呪いをかけたのは魔族だが、なにはともあれこれでまともな勇者を召喚できる許可が下りたのだ。……そして召喚されたのが貴様! この不適格者が!」


「つまり、リーシアをハメたのは事実だということか」


「ああそうだよ! それがどうした? 言いたいのはそれだけか?」


「いや、ただ愚かな貴様らに見せたいものがあってな。……来ていいぞ」


 ギルスに呼ばれたリーシアが歩いて勇者たちの前に姿を現す。

 勇者たちは絶句した。


「一日ぶりですね。……勇者の皆さん」


「な、なぜ……呪いがかかっていたはず……!」


「……そんなことはどうでもいい。俺が貴様らに制裁を下す」


 ギルスは炎魔法【灼熱地獄(ヒート・ヘル)】を発動する。長細い矢のようになった炎が放たれ、口の減らない勇者の胸を貫通する。


「ぐはあぁっ……」


 口から血を吐き、そのまま倒れた。

 その有様を見た勇者たちは血の気が引いたように顔が引きつっている。


「ど、どうか命だけは……」


「悪気はなかったんです……」


 命乞いを始めたのである。


「リーシアを殺そうとした者どもが命だけは助けてくださいと乞うのか?」


 【灼熱地獄】を放ち、二人目の勇者を殺す。


「そんなことがまかり通るわけがないだろう。己の命をもって償え」


 【灼熱地獄】を五発同時に発動し、残り五人の勇者の命を刈り取った。

 勇者の死体が転がる教会で、ギルスはリーシアを確認する。

 彼女は顔が真っ青になり、吐き気を抑えるようにうずくまっていた。


「不愉快なものを見せてすまなかった。だが、馬鹿は死ぬまで馬鹿なのだ。最も効率よく教えるにはこれが手っ取り早かったのだ」


「でも……殺さなくても」


「俺は確認した。死ぬほどの苦しみを味わわせるというのはどうだ? とな。安心しろ。一度殺しただけだ」


 ギルスは【生命再起(リザレクション)】をかけ、死んだ勇者の命を復活させる。


「いた……くない……だと?」


 茫然とする勇者。


「復活させたのはリーシアの慈悲があったからだ。いいか、よく覚えておけ。魔王を敵に回すというのはそういうことだ。次はない。……返事は?」


 返事を促されてぼーっとしていた勇者たちの意識がはっきりする。


「す、すみませんでしたぁ!」


 次々と謝罪を口にする勇者たち。初めからそうしておけば痛い死に方をしなくて済んだものを……と、ギルスは心中で呆れた。


 ギルスはリーシアを抱えると、教会を後にした。

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