Ep. 1-5「いっすんさきにはあかのたにん」
見知らぬものに、呼びかける。
審判知りし者、深渊を覗くか。
「…まさか出てくるとは思ってなかったよ…何故か、ここが心地良かったものでね?」
門の目の前に立っていた、ちょび髭で長身の初老の男性。
青い線の入った、フードのついた白いローブを着ている。
フードののXXという模様が目を引く。
「貴方は何者ですか…?」
「まだ開いていない迷宮を眺めるなんて変わり者にも程がありやすゼ。」
「ああ、私は…」
言いかけたところで、後ろから特徴的な鎧を着た女性が出てくる。
背中の天秤と手に抱えている大きな笛が特徴的だ。
「主様。」
「ああ、頼むよ…。」
「我が主は我らが天命の一柱、[XX]と言います。」
「膨大な力を感じますゼ。彼等、只者では無いですゼ…。」
「そんな大層な目で見ないでおくれ、私は出来るだけ他の方々と同じ視点で居たいんだよ。」
「ザ・ジャッジメント…?」
「何処かで聞きやしたがなぁ…?」
「…私について知らないのなら、私にとっては好都合なんだけどね。」
彼は、グレイスに近づき肩を叩く。
「だって、彼の前なら同じ普通の迷宮の主の一人「ジャッジメント」として、ここにいられるんだ。私にとってこんなに嬉しい事はないよ…そういえば、名前を聞いていなかったね?」
「グレイス、です。」
「グレイス!良い名前じゃないか…少し、このジャッジメントめにも力にならせておくれよ。何か悩んでいるのだろう?」
彼はニコニコしている。かなりグレイスに好意的な様子であった。
「迷宮を開くのに、ある程度の使役者と“強者”が必要で…開けないので、周辺の迷宮の方々に要素を分けてもらおうと思って…僕の要素単体じゃ、戦闘には弱くて。」
「そうかそうか…じゃあ、私の要素と交換しようじゃないか!」
「正気でごぜぇやすか?」
「主様!?大丈夫なのですか?」
「大丈夫、そんなこともあろうかと沢山ストックしてあるから、ね…一人の主として、友としてよろしく頼むよ!また会おうじゃないか!」
と、グレイスにこれまで見たものとは異なる形の要素瓶を手渡し、帰ってしまった。
置いていかれた鎧の女性が主が去ったのを確認し、小声でグレイスに話しかけた。
「我が主が要素を渡す事は滅多に無いのです…同じ目線で話せる相手がさぞ嬉しかったのでしょう。」
「ジャッジメントさん…とてもいい人そうだったけどなぁ。」
「普段はもっと厳格なお方なのです。恐らく、特別扱いをされる事に疲れていたのでしょう…今後共よろしくお願い致します。
私は“ディカ・ス・ティース”といいます。」
そう言って、ジャッジメントの行った方向と同じ方向に走っていった。
「主殿ォ、とんでもない代物を手に入れてしまいやしたなぁ…。」
「[XX]…一体どのような“強者”が生み出されるのか…あっしら興奮が止まりませんゼ…!」
「とても強い力を感じるけど…これと[恩恵]だけじゃまだ足りない気がするんだよね。」
と、[XX]を仕切りのある鞄に入れる。
エルジストが「過去ノ主が使ッテいたモノです。丁度ノさいずノハズですヨ。」と渡してきたものだ。
「鞄に入れて、予定通りの迷宮に向かわれるんですな!良い返事を期待したいところですゼ!」
そして彼らは、周辺の迷宮に挨拶をしてまわった。
姑息な罠を敷き詰めた迷宮。
待ち伏せ型の者がたくさん待ち構えた迷宮。
様々な迷宮があったが、一人特に変わり者がいた。
その迷宮では、まるで言語にならない声がそこら中で響き渡っていた。
「オ……オオ………ォ………!」
「カ…………カカカカ………カミ……カミ……ミー………」
「RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAッ!」
そして、声を上げている者の姿も凄いものだった。
青く光る渦から手足が生えたような者。
嘴のついたマスクをかぶり、ナイフを片手に虚空を見つめている者。
壁の隙間から沢山口を見せている者。
その光景は、まさしく混沌そのものであった。
アーマー・ガイストが迷宮の前で待っていると震えていたのも頷ける。
「オ…オオ……?」
さっき見かけた渦が話しかけてきた。何を言っているのかはわからないが。
「僕らは…ここの主に挨拶に来たんだ。要素だってある、ほら。」
と、彼は[恩恵]をポケットから取り出す。
すると「オオオ……ォ………!」と、足として使っている四本を除いた十五本ある手で拍手してきた。周りも便乗して拍手している。
一本余っているが、器用に二つの手の間を左右させて音を出している。
「オ………」と、最奥の扉まで案内される。コンコン、とノックを二回…した途端、勢い良く扉が開き、喋り出した。
「汝が挨拶に来た主か。名をグレイス、要素は[恩恵]。使役者を作るため、協力してくれる主を探しに来たって所だろう。吾輩の要素、[混沌]を一つあげよう。だが、気をつけてくれ。[混沌]は導かれるままにしか要素を受け入れない。その意味は身を持って知ることになると思うぞ。いざって時に使ってみてくれ。ただし、同じ目的で二度は来ないでほしい。[混沌]はそれ程危険なものであり、心強い物なんだ。自己責任で頼むよ。」
「なんで全部分かってるんですか!?」
「汝が深淵を覗く時…深淵もまた、そちらを見ている。」
と、言いつつ中身が恐ろしい程濁った瓶を差し出して来た。
「汝には、教育係がいるのだろう?効果の程はその者に聞くといい。きっとひどい顔で教えてくれる。我らが神の導きのままに」
と、勢い良く扉を閉じられた。
「スミマ…スミマ…ミマミマミマミマ……セセセセセセ…セヌー…」
「ワガガガ…アルジアル……アルジハハハ……アノヨウナヨウヨウヨウナ………カタナノナナナナ……デゴザイマヒ」
「キヲツケツケツケツケツケツケテテテ…オカエカエリ…ククククク………ダサイ……マセマセマセマセ」
三人の嘴マスクに次々と言われた。何を言っているかは分かったが…狂っている…!
「主殿ォ、何も無かったですかィ?」
「うん…無事に要素は貰えたけど…。」
「…それ以上は言わなくて良いですゼ。もう帰りやしょう。」
「これ以上は恐らく身が持ちませんゼ、主殿ォ。」
「うん………。」
他にも行くところはあったのだが、帰ることにしたのであった…。
めるとめろんです!
まだまだ、いろんなことが思い浮かんでまいにちがたのしいです!
まだまだ、至らぬ点もあるかと思います!
感じることがあれば、ひとこといただければ~。