Ep. 1-1「はじまりのものがたり」
グレース・ストーリア、始まりの物語。
待ち続けた者は、新たなる主に何を思うか。
ここはどこか遠くの世界。
人によく似た生物(住人に敬意を払い、以後「人」と呼ぶ)や動物、そして迷宮が生きる世界。
少なくともこの世界の人々は様々な研究の結果、迷宮を「生きている」と断定している。
生物の遺体を喰らい、自らを拡張する為…と言うのが大きな理由とされている。
―ここでは仮に…そうだ、この世界を「ラビリム」と呼んでおくとしよう。
かつて息絶えかけた迷宮が、今新たなる主を呼び出し再興しようとしている。
迷宮は、一体では生きていくことが出来ない。
外部からある程度管理し、生物を討伐するなどしないとすぐに荒廃してしまう。
なので、周囲一定距離から最も知性があるであろう生物の中の一体を無作為に複製する。
自身に関する知識を与え、管理させるのだ。
(と、いう説が人々の間では濃厚である。)
そのため、迷宮によっては怪物の類が管理している迷宮もあるのだ。
幸い、この迷宮から人が文明を築く街は近いため、間違いなく人が複製されるだろう。
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迷宮の一角が唐突に輝きを放つ。
非常にまばゆい光だ。まともに見れば失明は免れないだろう。
…光が収まった頃、そこには黒髪碧眼の青年が一人、座り込んでいた。
「…ハッ…!?」
周囲を見回しているが、取り乱してはいない。
複製された瞬間から迷宮の知識はインプットされているのだ。
文書を印刷する時に白紙で印刷を終えるコピー機がないように。
ただし、すべきことをインプットしてくれるわけではない。
役割は何か、この迷宮はどんな構造になっているか、どのような者を使役して迷宮を守らせられるかを教えてくれるだけであり、迷宮は余程無茶をさせない限り、あとは投げやりなのだ。
迷宮とはなんと身勝手で不親切な生物なのだ。
当然、青年にそれ以上の知識はない。
故に、困惑していた。
「僕は何をどうすれば良いんだ…?」
迷宮から「入口を開いても問題ないように、再興しろ。」…と言われたような気がした。
迷宮としての形はもうある程度出来ているらしい。
把握していなければ少し迷いそうな、そんな感じの少し複雑な迷宮だ。
直後、静かながらもしっかりと存在感を感じさせる歩行音が聞こえた。
そして、それは角から姿を現す。
2mを超える装甲に覆われた人型の体躯。
純白の体に紫にぼんやりと光るライン。
三つの怪しく紫に光る目。
螺旋状の構成物でできた有機的な二の腕。
よもや伝承くらいにしか残っていない存在。
ゴーレム系防衛派生、「エルダー・クレニウム」である。
数万の兵相手に一人で軽々と完璧に防衛をこなしたという逸話を持つ、守りにおいて最高のゴーレム。
反面、手足での攻撃以外に攻撃手段がなく、攻めに転じることは出来ない。
その区画を守る為のみに作られた、知性ある守護者。
青年は、本能的に身構えた。
何となくだが、自分よりも巨大な存在を目の前にして思わず警戒したのだ。
管理する者として呼ばれただけであり、彼には戦う力などは一切与えられていない。
このゴーレムと彼が戦うと後者が負ける。それは知性ある生物であれば誰もが一瞬で理解できる状況であった。
しかし、それは杞憂に終わる。
ゴーレムは跪きただ一言、言った。
「…貴方ガ、この迷宮ノ新たナル主ですネ?」
どうも、めるとめろんです。
いろいろ思いついて、めるとめろんは楽しいです。
しかし、至らぬ点があるかもしれません!
何か感じたことがあれば、一言くれればうれしいです〜。