第五幕 第一場
いまおれは、アリスが運転する車で、キャットマンに指定された場所へと向かっている。あたりま真っ暗で、見通しは悪い。
「この先の港近くの廃倉庫でいいのね?」アリスが訊いた。
「ああ、そうだ。そのままこの道をまっすぐ行ってくれ」
キャットマンに指定された場所は、よりにもよっておれが容疑者三人を一度に集めて、事件について話した場所だ。都心から離れたその場所は、昼間でさえ人はほとんど見かけないというのに、それが夜になると人の存在は皆無だろう。
「指定された廃倉庫には、明かりなんてないんでしょう?」アリスが言った。
おれはうなずいた。「廃倉庫だからな」
「だとしたらキャットマンは、暗視ゴールグを使用してくるとみて、まちがいないわね」
「たぶんおそらくそうだろう」
「だとしたら、さっき話した作戦がうまくいくはずよ」
そう言うと、アリスは交差点で車を止めた。おそらく赤信号だったのだろう。だれもいないのに律儀だな、とおれは思った。
信号待ちしているあいだ、アリスは持ってきた鞄の中から、小袋とハンマーをおれに手渡す。
おれはそれを受けとると、小袋の中からルビーとつまみだして、それをまじまじと見つめた。
「犯人の狙いがそのルビーなら」アリスが言う。「逆にそれを利用して脅せるわ」
「ルビーを破壊するぞ、と脅せばいいんだろ?」おれは持っていたハンマーを掲げる。「こいつを使って」
「ええ、そうよ」信号が変わったのか、アリスはふたたび車を走らせた。「落としてなくしたら大変だから、ルビーは大事にしまっておいて」
「ああ、わかったよ」
おれはルビーを小袋の中へともどした。視線を前へと向けると、目的の場所である廃倉庫が遠くに見えてきた。
「あれだよ」おれはそう言って指差す。
「あの建物ね。わかったわ」
廃倉庫に近づくにつれ、緊張感が高まるのをひしと感じてしまう。黄瀬エミがキャットマンに誘拐されてしまった。だとすると犯人は青木ソウスケか赤松コウキのどちらかになる。はたしてどっちなのだろうか……。