第一幕 第五場
マンションの自室にもどったおれは、ソファーへと腰掛けると、ビデオカメラを手にする。そしてディスプレイ画面を開いて、動画ファイルを再生した。
「ちょっと急に撮らないでよ」画面では白石ヒカリが照れくさそうにはにかんでいる。「もう、いつもそうやって、人が油断しているときにカメラをまわすんだから」
「だいじょうぶだよ。ちゃんと美人に撮れているから、そんなに見栄えを気にしなくても平気だよ」
「またそうやって黒川はわたしをからかう」
「まさか、事実を言ったまでだよ。きみのきれいな姿を撮りたくて、こうしていつもビデオカメラを持ち歩いているぐらいさ」
「もう恥ずかしいからやめてよ。それよりもわたしなんかよりも、あれを撮ったらどうなの」
画面がスクロールし、キャンプ場にある展望台から見おろす景色を映し出した。撮影当時はあんなにも色あざやかで美しかった景色は、いまでは色あせている。虹でさえただのモノクロにしか感じられない。
おれは動画を止めると、べつの動画ファイルを再生する。こんどは白石といっしょに行った遊園地の映像が流れた。無邪気にはしゃぐその姿を見て、おれは懐かしさを感じると同時に切なくなる。
動画を見終えると、またべつの動画ファイルを再生した。そうやって白石と過ごした、過去の日々を振り返る。いつのまにか目には涙が浮かんでいた。
「ゆるせない」おれはつぶやいた。「どうして彼女が殺されなきゃいけないんだ」
心の底で怒りがふつふつと煮えたぎるのを感じた。悲しみと怒りが渾然とひとつになり、それがおれの顔をゆがめる。すると目から涙がこぼれ、ほほを伝い落ちていく。
もう白石はどこにもいない。その事実が胸をうがつ。おれはまるであいた穴を押さえるかのように、胸元の服を強く握りしめた。そしてそのこぶしを小刻みに震わせる。
「……キャットマン」おれは怨嗟のこもった声で言う。「おまえを見つけ出してやる。死んだ彼女のためにも、ぜったいに見つけ出してやるからな」
おれは白石の誕生日に誓いを立てる。連続通り魔強盗のキャットマンを見つけ出し、報いを受けさせることを胸に深く刻み込んだ。