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第三幕 第三場

「それにしても危ないことするのね」アリスが不安げな表情で言った。「容疑者三人を一度に全員集めて、事件の核心をつく話をするなんて、正気とは思えないわね」


「いや、犯人がだれなのかわからない以上、事件の話をするのは、三人がそろっているときがベストだ」おれは言った。「万が一にも、犯人がこちらの意図に気づき、口止めしようと強行に出ても、ほかのふたりが味方になって止めてくれるはずだし、そうでなくても、犯人に対する牽制になる。あの場で安全に話をするには、この手段しかなかったんだ」


 おれは夢の報告をするために、夢占いの館に来ていた。そしていま、現実と夢での出来事を話し終えたところだ。


「なるほどね」アリスはあごに手を添えた。「ちゃんと考えがあっての行動ならいいわ。そのおかげで、夢にも影響が現れているし」


「それで、いま話した夢の話をどう解釈する?」


「まずあなたは夢を見る前の前日、三人の容疑者を集めて、事件について問いただした。その結果、何も手がかりらしいものは得られなかった。あなたはそれを不満に感じ、ふたたび夢のなかで三人に問いただす夢を見たと考えるべきね。夢のなかで容疑者が、おまえがここに連れてきた、というセリフから、そう解釈できるわ」


「たしかにそうかもしれない。でもどうして廃倉庫ではなく、緑山ドリームワールドに変わっていた」


「まず夢の舞台が緑山ドリームワールドなのは、そこが事件現場だったからと、考えられる。事件の話から現場を連想して、廃倉庫と緑山ドリームワールドを同一化したのよ」


「だったら夜ではなく、昼間の緑山ドリームワールドになっていた理由はなんだ? 事件の話から現場を連想するのなら、そこは夜の緑山ドリームワールドであるべきじゃないか?」


「まず考えられる理由は、あなたが現実で容疑者たちを集めたのが、昼間だった。同一化の際にその要素を取り込んだ。さらに緑山ドリームワールドを照らす光から、亡くなった恋人のヒカリを連想することができる。あなたは以前の夢でも、光から恋人を連想していたから、その可能性は高い。さらには恋人との思い出に登場する虹が登場していることから、さらにその可能性は高まる。つまりは自分が犯人を探す姿を恋人に見てほしかった、と解釈できるわね」


「恋人に見てほしかったか」おれはそこで間を置く。「そうかもしれない。犯人を捕まえないと顔向けできない、とずっと思っていたから、そのがんばっている姿を見守ってほしかったのかも」


 だがしかし、犯人を特定することはできなかった。これではまだ白石ヒカリに顔向けはできそうない。だからこそ、こうしてアリスに夢を解釈してもらって、手がかりを探らなければ。


「そうだアリス」おれは言った。「夢のなかでおれたちが観覧車に乗っていた理由は何?」


「あなたたちが観覧車に乗っていたのは、いま現在自分が置かれている現実の危うい状況を、ゴンドラに乗ることでそれを表しているのよ。実際夢のなかで、容疑者たちがぼろぼろになったゴンドラに乗せられてこわいとか、落ちたらどうしようとか発言しているでしょう。それはあなたにとっても容疑者たちにとっても、危険な状況に置かれていることを意味している。事実あなたはそう思っているでしょう」


「ああ、そうだな」おれは同意する。「たしかに自分でも危険なことをしていると、自覚している。それに犯人に対してもぼろをだすようプレッシャーをかけているつもりだ。どっちにとっても危険な状況だな」そこでため息をつく。「けど、現実でも夢でも手がかりは見つからなかった。せっかく危険を冒しているのに……」


「そうでもないわよ。あなたは最後にだれかが落としたと思われる、ライターを拾った。あなたの話だと、容疑者のなかにだれも喫煙者はいないということだけど、だとしたら落ちていることが不自然。何かしらの検閲がはいったと考えるべきね」


「でもライターと言っても、特に連想する出来事なんかはないし、キャンプで使うのは細長いタイプのチャッカマンとかだぞ」


「なら言語的表現の取り換えで考えてみて。ライターということばを聞いて、似ていることばは何か考えてみてちょうだい」


「ライター……」おれは思案気な顔つきになる。「ライター……、ライター……ライヤー?」そこではっとする。「ライヤー!」


「ライヤー」アリスが復唱する。「この場合は英語でのライヤーと見るべきだわ。ライターの落とした人物がライヤーである、つまりは嘘つきであるという意味ね。これは夢のなかで容疑者たちは殺人を否定したが、だれかが嘘をついていると解釈できるわ」


「それはほんとうなのか?」


「現にあなたはライターということばを思い浮かべて、すぐにライヤーということばを口にした。その意味でまちがいないわ」


「だとすると、やっぱりあの三人のなかに犯人がいるのか……」


 気落ちしていると、スマートフォンがビープ音を告げる。そのためおれはスマートフォンを手にすると、その画面をたしかめる。


「……悪いアリス」おれは立ちあがる。「きょうはもう行くよ」


「何か用事でもできたのかしら?」


「ああ、ちょっと友人に会ってくるよ」

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