第三幕 第一場
いまおれは、都心から離れた港近くにある廃倉庫にへとやってきた。その廃倉庫の周囲に建物らしい建物はないため、昼間だというのにあたりは静かだ。廃倉庫の中はがらんとしており、そのせいか空気がひんやりしているように感じた。
「みんな悪いな」おれはつとめて冷静さを装いながら言う。「こんな場所に集まってもらって。でも大事な話だから、こうして直接ちゃんと会って話がしたかったんだ。電話やネットなどでは第三者に傍受される危険があったから、それを考慮しての判断なんだ。だから大目に見てくれ」
目の前には青木ソウスケ、黄瀬エミ、赤松コウキの三人が立っている。みんなのその表情はけわしく、緊張している様子が見てとれる。三人の容疑者。このなかに犯人であるキャットマンがいる。だがいまでも、それがまちがいであってほしいと願いながら、おれは話をはじめる。
「じつはつい先日」おれはそこで長々と間を置く。「ようやく思い出したんだ」
その瞬間、三人の顔がこわばったように見えた。
「犯人がわかったのか!」赤松が声を荒らげた。「そいつはどんな顔だ、教えてくれ黒川!」
「落ち着け赤松。思い出したのはそのことじゃない。思い出したのは金のことだよ。あの日、おれたちが緑山ドリームワールドで見つけたあの札束の大金。そのことをおれは、いままでずっと忘れていた。どうやら記憶障害で思い出せないのは、事件当日のことだけではなかったようだ」
「ようやく思い出したのか」そう言って青木は眼鏡にかかる、長い前髪を後ろになでつける。「このままずっと忘れたままかと、ぼくは心配していたぞ」
「それなら教えてくれれば、よかったのに」おれは不満げな表情を作る。「おかげでずっと、何もわからないままだったんだぞ」
「言えるわけないじゃないのよ」黄瀬が強い口調で言う。「だって白石は殺され、黒川も死にかけた。あんなことがあったあとに、そんな話できるはずないでしょう。それに事件後、黒川はふさぎ込んでて、だれもそんな話できるような雰囲気じゃなかったのよ」
「……そうだよな」おれは気まずさから声の調子を落とす。「たしかに黄瀬の言うとおりだよ。おれは白石を救えなかった自分を恥じて、みんなのことを避けてたもんな。それはあやまるよ。みんな、ほんとうにごめんよ」
「それで黒川、どうしておれたちをここに集めた」赤松がきびしいまなざしでこちらを見つめる。「だいたいは察しているが、あの金とキャットマンのことだろ?」
「ああ、そうだ」おれはうなずいた。「あの日、おれと白石はみんなで山分けした金の残りを回収しに、緑山ドリームワールドに行ったんだ。そしてそこでキャットマンに襲われた。事件当日のことはまだ思い出せていないから、確実なことは言えないが、おそらくはあの金を盗られたんだと思う。そうじゃなきゃ、襲われる理由がないからな」
「やはりそうか……」青木が深刻そうな顔つきになる。「やっぱりまずいよ、これは。いまからでも遅くない、警察に相談しよう」
「いまさら警察に話して、どうなるんだ?」赤松が言った。「たとえその話をしたとしても、捜査は何も進展しない。それどころか、かえってややこしくなるだけだ。それともすべての罪を白石に押し付けて、自分たちはしかたなく受け取ったとでも言うつもりか」
「ぼくはそんなつもりで言ったわけじゃないよ、赤松」青木はおびえた様子だ。「ただ不安で不安で、しょうがないだけなんだ」
「落ち着いてくれ青木」おれはなだめるような口調になる。「おれはそんなことを相談したくて、みんなをここに集めたわけじゃない。あの日、おれと白石は金を回収しに緑山ドリームワールドに行った。そしてそのおれたちを待ち構えるかのように、キャットマンに襲われたんだ。つまりは待ち伏せだ」そこでことばを切ると、声をけわしくさせる。「みんな、あの金のことを外部の人間に漏らさなかったか? もしくはつい自慢してしまったりとか、してないよな?」
「おれはしていない」赤松が即答する。「だれにも話さないって、あのとき約束したはずだろ」
「わたしもだれかに、しゃべったりしていない」黄瀬が言った。
「ぼ、ぼくもだよ」青木は何度も首を横に振る。「話すわけないじゃないか」
全員否定か、とおれは思った。やはり予想どおりの展開になってきた。もしこのなかに犯人がいるのだとすれば、そう対応するのが当然のことだろう。
「……わかったよ」おれは言った。「すまない。みんなを疑うようなこと言って。やはりおれと白石はあの日、キャットマンに偶然にも目をつけられて、襲われたんだ。それがわかっただけでも、すっきりしたよ」
みんなが不安げな表情で、こちらを見つめてくる。
「きょうはこんなところに集まってもらって悪かった。だれも漏らしていない」おれはそこで微笑んだ。「おれはそれを信じるよ」
その後、おれたちは解散し、それぞれ帰路についた。




