第二幕 第十場
気がつくとおれは真っ暗闇のなか、ひとり立ち尽くしていた。なぜ自分がここにいるのか、その理由もよくわからない。
しばらくすると雲に隠れていた月が現れ、周囲を照らしだした。すると目の前には観覧車の輪郭が現れる。その姿を見て、自分がいま緑山ドリームワールドの廃墟にいたことを思い出した。
おれは手にしていた懐中電灯で前方を照らすと、観覧車のゴンドラが虹色のグラデーションカラーとなっているのを知る。それを目にして、何かデジャブなようなものを感じた。
「……虹?」おれはつぶやいた。「何か大事なことがあったような気がする」
しばらくのあいだ、観覧車を見あげていると、悲鳴が聞こえてきた。その声は白石ヒカリのものだ。
「白石!」おれは叫んだ。「また殺される……えっ?」
何かがおかしい、とおれは思った。また殺される、とおれは自然とそう言ってしまった。これはどういうことだ?
ふたたび悲鳴が聞こえて、おれははっとすると、すぐさま声のした方向へと走り出した。すぐに行く先に人影が見えてきた。だからそこへ懐中電灯を向ける。すると白石がハンマーを持った何者かに襲われていた。そいつは黒い雨合羽を着てフードをかぶっている。
早く助けなければまた殺される、と思った。だがその瞬間、おれの足は止まる。後ろを振り返り、観覧車へと懐中電灯を向けた。そしてその錆び付いていてもわかる、ゴンドラの虹色グラデーションに目を向ける。
「色づいている」おれはようやく気づいた。「ここは夢のなかだ」
おれはふたたび前に向き直ると、キャットマンは白石に馬乗りになり、何度もハンマーを振りおろしているではないか。
「ひどいことしやがる」
おれは相手に悟られないよう、忍び足でその背後に近づく。そして背後からハンマーを掲げるその腕をつかむと、そのままキャットマンを後ろへと引き倒した。
「何度も何度も同じことしやがって!」
おれは怒りの声をあげると、キャットマンに馬乗りになり、その顔から猫のアニマルマスクを引きはがした。おれはその顔を——
おれは目覚めると、勢いよくがばっと上体を起こした。そしていましがた夢で見たであろうその顔を思い返し、目を丸くする。
「なんであいつが白石を殺しているんだ?」