第一幕 第二場
午後になり、おれは街中を歩いていた。視界にはいる何もかもが色あせて見える。物悲しい気分だ。
そんなことを考えならが道を進んでいると横断歩道に差しかかり、ほかの歩行者とともに信号待ちをすることになった。だがおれは、信号機を見ずに、まわりの歩行者に注意を払う。
やがて歩行者が歩き出すと、それに少し出遅れる形でおれは横断歩道を渡る。そしてしばらく歩いていると、行く先に街頭テレビが見えてきた。自然と視線がそちらに向く。
画面ではニュース番組が流れており、たくさんの鯉のぼりが映し出されていた。どうやらどこかの川に架けられた大量の鯉のぼりを特集しているようだ。だがその鯉のぼりはすべて白黒で、ちがいがあるとすればその色の濃さぐらいだ。
おれは視線を前にもどすと歩きつづける。そしてしばらくしたのち、花屋へとはいっていく。
店内にある花を適当に見ていき、ひととおり見終えると、近くにいた店員に声をかけることにした。
「すみません、ちょっといいですか」
店員がこちらに向き直る。「なんでしょうかお客さん?」
おれは自分の目の前にある花を指差した。「このバラは赤い色でしょうか?」
「えっ?」店員はこちらのことばに困惑している様子だ。「それはどういう意味でしょうか?」
「えっと……すみません」おれは気まずさからほほを掻いた。「あまり花の種類とかくわしくないもので。ただこのバラが赤いかどうか教えてほしんです」
「……はあ、そうですか」店員は眉をひそめる。「えっとですね、そのバラは紫色でして、赤いバラをお探しなら、そのとなりのものになりますね」
「そうですか。ありがとうございます」
おれは店員に礼を言うと、赤いバラの花束を購入し、店の外へと出た。そして何気なしに空を見あげる。すると空には虹がかかっていた。
「虹だ」おれはつぶやくようにして言う。「でも、いったいなんの虹なんだろうな……」
いまのおれには目に見えている虹が主虹なのか副虹なのか、その判断ができなかった。なぜならば、おれは灰色の世界の住人なのだから。