第一幕 第十場
おれは恋人の白石ヒカリとふたりで、雪山にキャンプに来ていた。だが道に迷い、さらには吹雪に見舞われ遭難しかけている。あたりは真っ白でどこへ進めばいいのか見当もつかない。そのため急いで雪でかまくらを作り、この状況をしのごうとしていた。
「できたぞ白石!」おれは吹雪の音に負けぬよう叫ぶ。「早く中にはいるんだ」
白石がかまくらの中に避難すると、つづいて自分も中にはいる。するとかまくらの中にはこたつが置いてあり、そこには黄瀬エミがすわっているではないか。おれは驚きのあまり目を見張る。
「黄瀬、何をしているんだこんなところで?」
「寒いからこたつにはいっているんだよ」
何を言っているのかわけがわからず、かまくらの中を見まわすと、白石の姿はない。はいったのを見たはずなのに、どういうことだ?
「おい黄瀬、白石はどこだ?」
「白石?」黄瀬は首をかしげる。「何を言っているの黒川。あなたはわたしといっしょに、ここに来たじゃないの」
「えっ?」おれはとまどう。「そうだった……けか?」
おれは困惑しながらも、白石の姿を探して外に目を向ける。あたりはいつの間にか真っ暗で何も見えない。探しに行こうかどうか、躊躇していると、後ろから腕を取られた。
「こんな時に外へ出たら危ないよ」黄瀬が言った。「こたつの中にはいってあたたまりなよ黒川」
「……ああ、そうだな」
おれは黄瀬のことばに従い、外に出るのをあきらめるとこたつの中にはいった。こたつの上にはいつのまにかランタンが置いてあり、それがかまくらの中をまぶしいほど明るく照らしている。
「あったかいな」おれはその居心地のよさに、思わずつぶやいた。
「そうでしょう」黄瀬が微笑んだ。
しばらくふたりでそうしていると、黄瀬があくびをはじめた。
「ねえ黒川、もう遅いから眠ろうか」
「ああ、そうだな。それならランタンの明かりを消してくれ」
「うん、わかった。そう言うなら、そうするね」
黄瀬はそう告げるとランタンの明かりを消した。そしてあたりは闇に包まれる。こたつの中で黄瀬の足がおれの足にぶつかり——
おれは目覚めると、ついさっきまで見ていた夢を思い返した。
「なんだったんだ、いまの奇妙な夢は……」