〜悪霊の噂〜
「なぁ、知ってるか?山奥によ、喫茶店があって、そこではよく不思議な事が起こるんだとーー」
ーー喫茶店・隠世ーー
朝の光を浴びながら、ヤマトは今日も庭の花に水をやっていた。
「おはよう、ヤマト。今日も早いのね」
水やりが終わるころ、後から声をかけられる。
「おはようございます、菊華様。もう開店時間ですか?」
「いえ、まだ少し早いわ。少し気になったからきたの」
そう言って菊華は庭の花を愛でる。その姿は朝の光を受けてとても神秘的だった。
「では、少し早いですが開店準備を始めてしまいましょうか」
「わかったわ。あとヤマト、村の人から気になる話を聞いたわ」
ーーとある夜道、女が一人で歩いていると、フラフラと前を歩く影があった。その影はゆっくりと近づいてきているような気がした。
女は気味悪く思い、早歩きにその影とすれ違った。その時、その影は急に肩を掴み、一言『呪ってやる』とだけ言って闇に解けるように消えてしまったーー
「ちなみにその女の人は数日間、体調を崩しているらしいわ。その人の話によれば影は男だったようね」
菊華はそう告げたあと、店に向かって歩く。店の中に入る直前、ヤマトの方に目を向け、
「村の人達は悪霊の仕業と思っているみたいよ」
と、一言だけ顔を歪ませて店内に入った。
その様子を見たヤマトは神妙な面持ちで花を眺めていた。
ーー数時間後ーー
「今日は人来ないわね」
「えぇ」
「今日は早く切り上げましょうか」
「えぇ」
菊華が話しかけるがヤマトは心ここに在らずといった感じの返事しか返ってこない。
「いい加減にしなさい」
そう言って背中を軽く叩く。
「…!菊華様、どうなさいました?」
さっきの話を全く聞いていないヤマトの様子を見て呆れる。
「やっぱり悪霊の話が気になっているの
かしら?」
「え、えぇ。どうしても気になってしまいまして…」
そういうヤマトはやはりずっと何か考え込んでいるようだ。
「はぁ…もういいわ。今日はお店閉めて村の方まで行きましょう」
菊華はそう言って閉店の準備を始めた。
「ですがまだ営業時間ですよ」
「あなたがその状態でちゃんと接客出来るとは思えないわ。それに、なんか村の方が騒がしくて人も来ないし」
そう言うとヤマトに文句あるか、と目線を送ってくる。
「わかりました」
文句など言えるはずもなく、2人は臨時休業して、村の方へ足を運ぶのだった。




