〜過去〜
「あなたの未練、お晴らしします」
ヤマトはそう言って丁寧にお辞儀をする。
しかし、男は寧々の顔をみて怯えていた。
「寧々…?誰だ?俺はそんな人知らねぇ」
「それもそのはずです。この方は既にお亡くなりになられております」
「えぇ。私は50年前に死んだわ。つまり幽霊ってものかしら」
ヤマトと寧々はさも当然というように説明する。
「そ、そんなの信じられるか!」
男は信じたくないとばかりに頭を振る。
「そうですねぇ…では、これは夢です。そう思ってくださって構いませんよ」
ヤマトはそう言って寧々に向き合う。
「まずは簡単にあなたが亡くなった原因と心残りをお聞かせ願えますか?」
「分かったわ」
寧々が頷く強い風が吹き、周りの景色が変わる。
今まで綺麗な花畑だったが、そこに重機や作業服を来た人間が沢山いた。
「ここは…」
男が呟く。
「知っているんですか?」
「あぁ、ここは確か50年くらい前にダムになった場所だ。俺が生まれた頃にはダムだったが…」
そこで男の話が途切れる。
「どうしました?」
ヤマトが尋ねる。
「いや、実は工事中に事故があって1人民間人が亡くなったってじいちゃんに聞いたんだ。だからあそこでは毎年祭りをするんだって…もしかして、と思って…」
そう言って男は寧々をみる。
「ええ、そうよ。あの人、私は講義をしに行ったの。ダムにしないでって」
また情景が変わる。
今度は大雨が振っている森の中だった。1人の女が走っていた。
「あの走ってるのが私。何とかあの花畑を守ろうと必死だったのよ」
この近くが工事現場なのだろう。
周りからは工事の音が鳴り響いていた。
寧々の表情が哀しそうなものに変わる。
「約束の場所だったの。大切な人との。あの場所でまた会おうって」
ポツリポツリと話しているあいだにも過去の寧々は森の中を駆け抜けていく。
工事の音も次第に大きなものになっていた。
「そうですね…少し音が大きいので工事の音を無くしましょうか」
ヤマトはそう言って菊華をみる。菊華は泣きそうな顔になっていたが、ヤマトに見られるとすぐに頷き、手をかざす。
するとみるみる工事の音が小さなものに変わっていく。
「ありがとうございます、菊華様。ではまたお願いします」
そう言って寧々に向き直る。
「運が悪かったんです。私が現場についた時、ちょうど強風が吹いて…上にあった鉄骨が落ちてきたんです。それで、私はその下敷きに…」
寧々の顔が歪む。
恐らく事故当時の痛みや苦痛を思い出してしまったのだろう。
「なるほど、わかりました。あなたが亡くなった理由は事故だった。それもこの場所で…」
ヤマトは顔を伏せる。
「そうですね…その花畑の件ですが、今の時代まで残っていますよ。かなり規模は小さく、そして場所も変わってしまいましたが」
そう言ってヤマトは男の方を見る。
「あなたなら分かりますよね、あの花の場所が」
「えっ?俺?」
困惑して挙動不審になる男。
「落ち着いて思い出してください。あなたはあの花に見覚えがあるはずです。」
ヤマトに言われ真剣に考え込む男。
「………あっ!」
「思い出しましたか?」
「ああ。俺の村とダムとの中間にある山のなか…」
そうって男は寧々の方を向く。
「案内するから付いてきてくれ」
男はそう言って歩き出す。
「その前に、現実に戻りましょう。そうでないといくら探しても見つかりません」
ヤマトがそう言うと、いつの間にかあの喫茶店に来ていた。
「あれ?ここは…」
「喫茶店・隠世です。こちらからの方が近いと思いますので」
「あれ?あの幽霊さんは?」
「ちゃんとそばにいますよ。さぁ、いきましょうかーー」




