〜仕事〜
ーーその日の夜ーー
山から村に降りてくる2つの影があった。
「さぁ、今日は少し大変なお仕事ですね」
「ええ。ヤマト、気をつけてね」
2人は何気ない会話をしながら山道を歩く。あまり口数は多くない2人だが、2人の間に流れる雰囲気はピリピリとしたものだった。
「ここの人ですね?」
「ええ。間違いないわ」
2人は村の端の方にある一軒家の前にたちどまる。
「では、行きましょうか」
真剣な面持ちでその家へ足を踏み入れる2人。するとーー
「おい、ここは俺の家だぞ!何勝手に入ってんだ!泥棒か!?」
扉を開ける音に気づいたのだろう、奥から男が走ってきた。
「いえ、実は少しばかり用事がありまして…」
ヤマトがそう口を開くと男は目を見開く。
「あ、あんたは喫茶店の!」
そう口を開く男は今日の昼に初めて来店し、コーヒーをこぼしてしまった男だった。
「も、もしかして弁償か!?いま、俺は金は持ってねぇんだよ!」
「いえ、そうではなくあの時、これを落として行かれたので、届けに来ただけです」
そう言ってヤマトは男が落としたお守りを手渡す。
「これは…!一日中探し回っていたのに見つからなかったんだ!良かった…失くしたわけじゃなかったのか…」
そう言って大事そうにそのお守りを受け取る。
「ありがとうございます!」
男が頭を下げる。
「………」
その様子をヤマトと菊華はただ真剣に見つめるだけだった。
「本当にこの方で間違いありませんか?」
しばらく見つめた後、ヤマトが口を開く。
「ええ。あの人の隣にいるわ」
そう言って菊華は男の横を指さす。
「な、なんの話だ?」
何を話しているのか分からない男はただ困惑するだけだった。
「すみません。少々私たちの仕事に付き合っていただきますーー」
ヤマトが一歩前に出る。すると、この時期咲いているはずのない桜吹雪が舞い上がり、男の視界を奪った。
「…ここは!」
あたり一面の花畑に青い空。まるで絵に書いたような世界が3人の前に広がっていた。
「なるほど、ここがあなたの未練ですか」
「は?何を言って…!?」
ヤマトは狐の耳を生やし、9本の尻尾を優雅に風になびかせ、立っていた。
「申し遅れました。私、妖狐のヤマトと申します。大切なものを無くしてしまった方のために今は喫茶店を営んでおります」
深々と一礼するヤマト。その動作はとても優雅で美しく、背景とも相まってとても絵になっていた。
「わたしは、鬼の菊華。この姿は好きじゃないのだけれど、仕事の時はこれじゃないとね…」
そう言って菊華も一礼した。その額には小さな角が2つ、ひょっこりと出ていた。
「ここは、あなたの大切な場所。無くしたくなかったもの。しかし、無くしてしまった、いいえ、なくなってしまったもの、ですね」
「な、何のことだ!?」
男は何がなんだか分からないというふうに叫ぶ。
「では、あなたの名前をお聞かせ願えますか?」
そこで男はヤマトが自分を見ていないことに気がついた。
男はゆっくりと振り向く。そこにはーー
「私は、寧々と申します。ここは以前、私が大好きだった場所。しかし、ここはもうダムになってしまいました…」
「そうでしたか。では、あなたの未練、お晴らし致しますーー」




