〜来客〜
「いらっしゃいませ。ようこそ、喫茶店・隠世へーー」
ヤマトは丁寧にお辞儀をして席に案内する。
「こんな所にホントに喫茶店あるんだな〜」
「そうだな。でもよ〜妖怪だとか幽霊だとか言ってたけどいそうもないぜ」
「だよなぁ。すげー綺麗だし、山奥にあるのが不思議なくらいオシャレだし」
入ってきた男達は口々に感想を述べる。
「ありがとうございます。当店は自然との融和をコンセプトとして設計しましたので」
ヤマトが嬉しそうにお辞儀をしながらコーヒーを出す。
「えっ、設計ってお兄さんがやったんですか?」
驚いて、ガタッと椅子から立ち上がる。その拍子に先程置いた熱々のコーヒーがこぼれた。
「あっ!やっちゃった…すみません、お兄さん」
心底申し訳なさそうにこちらに頭を下げる。
「気になさらないでください。それより、お怪我や火傷はありませんか?」
「えぇ、大丈夫です。ホントにすみません」
もう一度頭を下げたタイミングで菊華がカウンターから出てくる。
「菊華様?どうなさいました?」
「ヤマト、ちょっと耳貸して…」
そう言われたヤマトは腰をかがめて菊華の話を聞く。
「そうでしたか…なるほど。今夜は忙しくなりそうですね」
聞き終えたヤマトは神妙な面持ちでそんなことを呟く。
「あ、もしかしておれ、やばいことしちゃいました?」
こぼした男は高いものを汚してしまったとこもったのだろう。顔が引き攣っていた。
「いえ、問題ありません。すぐ変えのコーヒーをお持ちします。それから席はこちらに移動をお願いします」
にこやかな笑顔を向けて安心させるとコーヒーを入れに戻っていった。
「ありがとうございました。またぜひ、お越しくださいませ」
コーヒがこぼれるアクシデントはあったものの、初めての客をもてなすことが出来た2人は満足そうに微笑んでいた。
「さて、あの汚れをどうにかしなくては…」
そう言うとヤマトは真剣な眼差しでコーヒーのこぼれたテーブルに向き合う。
すると頭からは耳が、そしてお尻には9本の尻尾が現れた。
「やはり、この姿の方が楽ですね」
そういって手を振りかざす。すると、テーブルクロスに付いたコーヒーの汚れが一瞬のうちに消えてなくなってしまった。
「ヤマト。まだ営業時間中よ。それに、夜は大変なんだから、我慢して」
「申し訳ありません、菊華様。久しぶりにこの姿に戻れたので、つい」
「まあ、分からなくはないわ。さぁ、この調子で今日は頑張りましょうか」
菊華はそういってまたカウンターに戻ってしまった。
「はい」
ヤマトは笑顔で返事をするとまたお客が入るのを掃除や整頓をしながら待つのだった。




