〜喫茶店・隠世〜
『なぁ、こんな噂知ってるか?あそこの山にはよ、奥に喫茶店があるんだってよ。そこには妖怪やら幽霊やらが集まってて、人間が行くと食べられちまうらしいぜーー』
五月中旬、何もない辺境の村に不思議な噂が流れてきた。どこから流れてきたのか、誰が言い始めたのか。
ただ、一つ言えるのは誰もまだその場所には行っていないということだ。
ーー山の中の喫茶店ーー
「今日は誰かきますかね?」
背が高く、どこか浮世離れしたような端正な顔立ちの若い男がポツリと呟く。
「こんな山奥に人は来ないでしょう」
カウンターの奥から人形のような可愛らしい少女が返答しながら出てきた。
「菊華様、起きていらっしゃいましたか」
その返事を聞いた男は背筋を伸ばして挨拶をする。
「おはようございます、菊華様」
菊華は無表情に男の方を見て、おはよう、とだけ返した。
「私が少しだけ噂を流して来ましたので、もうじき1人くらいは来るかと思いますよ」
男は微笑んでテーブルを拭き始めた。
「まさか貴方、人間の世界に行ってきたの?」
菊華の表情は相変わらず無表情のままだ。
「ええ。ですが、安心してください。ちゃんと変装しておきました」
そう言って男は作業をやめると、一瞬で姿を変えてしまった。
「まぁ、こんな感じで農夫になって行ってきました」
得意そうに微笑む男に菊華は歩み寄り、足に蹴りを入れた。
「なんで私に内緒で?」
声の感じからどうやら怒っているようだ。
「そ、それは…」
口ごもった時、外から人の話し声が聞こえてきた。
「ヤマト、ホントに人来たわよ」
菊華は驚いたように口にする。怒りはどうやら鎮まったようだ。
ヤマトと呼ばれた男はまた先程の青年の姿に戻ると出していた清掃用具を片付け、身だしなみを確認する。
確認が終わると同時に数名の男が店内に入ってくる。
「いらっしゃいませ。ようこそ、喫茶店・隠世へーー」




