【第一章】第七話
「山場さん、うしろ、危ないですわ!」
歯石獣に気づいた絵梨奈が大きな声を出し、花子が振り向いた。目の前には歯石獣の巨大な四角い拳が迫っていた。
「あっ!」
花子の意識は体と共に飛んでしまった。
「ううう。あ~、なんだか、よく寝たなあ。」
ベッドの中で、両手を伸ばして、気持ち良さそうな花子。
「やっと、お目覚めですわね。」
「あら、牙狼院さん。ここは牙狼院さんの家なのかな?」
「やっぱり自分の置かれた状況が見えない方ですわね。ここは、リリーズデンタル学園女子寮ですわ。」
「ええっ?ここが女子寮なの?けっこう広い二人部屋みたいだけど。」
白い壁と大きな窓を眺めた花子。ベッド、机が二台ずつある。女子寮らしく茶色のドレッサー、クローゼットも二組見えた。
「あたし、どうしてここにいるんだっけ?」
ふと絵梨奈を見ると、不機嫌な顔つきで会話したくないオーラが出ており、意識を失う前の記憶が自然と蘇ってきた花子。
(そうだ。学校、校舎がないことを話してたんだ。校舎は見る限りなかった。でも牙狼院さんは生徒なんだから、学校はあるはず。でも校舎はない。つまり、この学園都市自体が学校であり、校舎ってこと?それなら牙狼院さんの話がしっくりくるよ!)
歯石獣に殴られたショックで、花子のニブい頭がフル回転したらしい。
「あ、あの、牙狼院さん。」
「山場さんと話すことなどありませんけど。」
「あたしを助けてくれたんだね。ありがとう!」
「べ、別にそんなつもりはありませんわ。山場さんの防御力が想像以上に強かっただけですわ。ワタクシは、歯石獣に飛ばされた山場さんを拾っただけですわ。ゴミを街に放置するのはリリーズデンタル学園生徒としてできないことですから。」
鉄仮面のようだった絵梨奈の頬の筋肉が、わりあい緩んだ。
「ああ!初めて笑った!牙狼院さんって、意外に笑顔がかわいい!」
「意外は余計ですわ。とにかくケガがなくてよかったですわ。」
「あたし、体の頑丈さには自信があるんだ。ヤマンバ族はそういう体質だけどね。ほらね。」
花子はベッドから起き上がり、屈伸運動を繰り返して、元気さをアピールした。
「それぐらいであれば体には問題なさそうですわね。それでは食事に行きましょうか。」
「えっ?ここで食べてもいいの?」
「ここは部屋のパートナーが連れていく分には大丈夫ですわ。」