【第一章】第五話
「歯垢獣が出るぐらい虫歯が進行しているのですから、痛さは半端ないのは当然ですわ。」
絵梨奈は勝ち誇ったように上級レベルの胸を張った。でもサイズ的には花子には及ばなかった。絵梨奈は花子の胸に目をやって、眉間にシワを寄せた。
「なんだかムカつきますわ。でもリリーズデンタル学園生徒としては、仕方ありませんわね。」
絵梨奈はさらに厳しい目つきになり、白髪歯医者を睨み付けた。
「インチキ商売をするのは勝手ですが、一般生徒に手を出すのはおやめくださいますかしら。」
「なんだと?治療の邪魔をしようっていうのか。俺は歯医者だぞ。患者を触ることの、どこが悪い?悪いことっていうのは、こういう行為のことだろうが!ぐにゅ。」
白髪歯医者の右手が、花子のワガママで柔らかい部分を握った。花子は何が起こったのか、一瞬わからなかったが、次の瞬間。
「きゃああああああ~!」
花子の悲鳴が、白髪歯医者の鼓膜を破った。
「痛~い!なんだ、コイツのバカでかい声は!たまらん!」
白髪歯医者は耳を覆ってそのまま逃げ去った。
呆気にとられて、白髪歯医者を見送る絵梨奈。
「びっくりしましたわ。いきなりセクハラが出てくるとは思いませんでしたし、その後にあんなことが起こるとは。」
「うわ~ん。あたし、もうお嫁にいけないよ~!」
「何をバカなことを言ってるんですの。たったそれぐらいのことで。アブに刺されたようなものですわ。」
「アブなら痛いよ!お、乙女のとっても大切なモノを失ったんだよ、それもあんなオヤジに奪われたんだよ!」
「山場さん。あれぐらいで、全財産を奪われたような顔をするんじゃありません。全然大したことありませんわ。」
「じゃ、じゃあ、牙狼院さんは、大したモノを奪われたことがあるんだ?」
「えっ?」
「あるんでしょ?」
「あ、あ、あ、ありま、おんせん。」
絵梨奈の顔は熱い温泉でのぼせたようになり、今にも血液が溢れ出しそうになっている。
「何を言ってるんだよ。あれれ?いったいどうしたのかなぁ?あん?」
いきなり攻守逆転の様相。