【第一章】第四話
駅前にビルを借景にして、大きな噴水広場がある。
「スゴい。さすが都会だね。テレビで見てたような建物がたくさんあるよ。」
右手でおでこに庇を作り、睥睨する花子。田舎娘を無遠慮に演出している。
「あれ?白衣のオジサンたちがビラ配りしてるよ。やっぱり街の駅前ってこんな感じなのかな?」
たくさんの中年らしい男がビラやティッシュを、歩行者キャッチしては、配りまくっている。しかし、スルーする人間の方が多数派に見える。
「歯医者はいらんかえ~?歯医者はいらんかえ?」「うちの歯科クリニックは安いよ、お得だよ。」「なにを!ウチは今、初診料無料キャンペーン実施中だよ。」「なんの、当医院は、お試し治療で初回9割引だよ。もし治療に不満があれば、全額返品可能だよ。」
現物支給である治療の返品は困難と思われる。
「スゴい人数だね。牙狼院さん。これって、キャッチセールスってやつ?でも歯医者さんがそんなことするのかな?」
「当たり前ですわ。歯科医の数はコンビニよりも多いんですのよ。街の歯医者さんは競争激化で経営に苦しんでおり、倒産はごく普通にありますし、新装開店いや、新規開業も無数にあるという、弱肉強食、焼肉定食の世界ですわ。」
「ええ?そうなの?歯医者さんって、みんなお金持ちだと思ってたのに、そうじゃないんだ。意外過ぎる。」
「本当に脳天気低気圧ガールですわね。そんな調子でよくこの学園都市に来れたものですわ。」
「そうなのかなあ?よくわからないけど。」
「おっ!お嬢ちゃん、学園都市は初めてかな。ならば治療代安くしとくから、ウチへおいでよ。」
黒い毛が混じる程度の白髪で、分厚い黒縁メガネで瞳が見えない中年歯医者が、薄汚れた白衣を靡かせながら、花子のもとにやってきて、その腕を掴んだ。
「ええっ?あたし、歯なんて悪くないよ。」
「遠慮する必要なんてないよ。オジサンは、歯医者なんだから、虫歯患者はすぐにわかるんだよ。ツンツンつんく、と。」
白髪歯医者は、花子の口元を無許可でつついた。
「痛~い!」
「ほらほらビンゴ!」
患部を直撃された花子はあまりの痛さに飛び上がった。