【第一章】第三十二話
「・・・。」
絵梨奈は前髪を垂らして、無言のまま、両腕を手前に突き出した。
「こ、この顔は!ヤマンバ、気を付けろじゃん!」
激しい緊張感に包まれた木憂華が大きな声を出した。
「えっ?どういうことだ?」
「すぐにわかるじゃん。」
『ガアアアア~!』
絵梨奈が野獣のような叫び声を上げて、口を開けた絵梨奈。そこから毒々しい紫色の鈍い光が発せられた。絵梨奈はハナゴンを掴んで、噛みつこうとした。
『ドカッ!』
木憂華が間一髪、ハナゴンを蹴り飛ばして、絵梨奈から引き離した。
「危ないじゃん!ガブリとやられたら、大変なことになるところだったじゃん。」
「なにしやがる。いてえじゃねえか。何にも知らないじゃん。」
「アレに噛まれたら、一巻の終わりじゃん。」
「どういうことだ?アレは歯周病モンスターじゃん。噛まれた病気が移るじゃん。」
「歯周病モンスターだと?それに移る?」
「そうじゃん。歯周病は感染病じゃん。歯周病モンスターに噛まれたら、歯周病モンスターになってしまうじゃん。」
「歯周病モンスターになるとどうなる?」
「今そんな説明をしてるヒマはないじゃん。早くコイツをなんとかしないと。」
木憂華は注射器を歯茎に刺して、痛そうな顔をする暇もなく巨大化させた。
それを見て、ハナゴンもナタを咥えて、顔を顰めながら、戦う準備を整えた。
『ガアアアア~!』
絵梨奈は唸り声と共にハナゴンにとびかかって来た。ハナゴンは大ドリルの胴の部分を盾に使った。それを見て、木憂華がハナゴンに声を浴びせた。
「その武器は防御用じゃないじゃん。先端部分を突き立てて反撃しないとじゃん。」
「そんなこと言ったって、相手は焼肉女だぜ。攻撃するなんてできないぞ。」
「そんな甘ちゃんなことを言ってる場合じゃないじゃん。」
「でもできないものはできないんだ。」
こういうところで、ハナゴンと花子は同一人物であることがよくわかる。
絵梨奈は一度後ろに下がって、勢いをつけて、ハナゴンに飛びついてきた。
「うあああ~。」




