【第一章】第二話
「・・・。う、う、う。こ、ここは、どこ?ま、まぶしいよ!」
花子の顔を照らす長方形のライト。花子はそれを手で動かした。
『ガタン、ガタン、ガタン。』
「これは、列車の中?それにこの座り心地、リクライニングでいいのに、スゴくイヤな感触なんだけど。それに車内なのに、まぶしいよ。」
車内には大きく傾いた椅子が2脚ずつ並んでおり、かなりゆったりな配置である。椅子には、大きな長方形のライトが付いており、椅子を照らしている。
この車両に座っているのは花子だけであり、ひどくがらんとしている印象である。他の車両の様子はわからない。
「あたし、どうしてこんなところにいるんだっけ?」
車内が茶色の列車の窓から見える風景は、緑色が多かった。
「って、ひとりごちても、ごちそうは出ないよね。売られたんだもんね。この列車は魔法歯医者学園都市に向かってるんだし。窓の外に走る風景が変わってきたから、そろそろかな。」
すでに風景は、山と田園の緑から建物主体の灰色に変わっていた。
「あれ?外の灰色が車内に混ざってきてるみたいだよ。床が灰色になってる。それになんだか、ゴミが腐ったような匂いがするけど。」
花子の視線の先1メートルの床には、モールド状に盛り上がっているものが見える。
「これなに?床に何か張り付いてるみたいだよ。それにスライムみたいにウニウニと蠢いているよ。気持ち悪い!」
灰色スライムはゆっくりと波打つように移動し始めて、花子に近づいていく。
「ちょっと、なによ、これ。生きてるみたいじゃない!ニオイもどんどんクサくなってくるよ。これじゃ、鼻が曲玉になっちゃうよ。」
灰色スライムの真ん中は、東京スカイツリーのように盛り上がって、そのままジャンプし、花子に飛びついた!
「きゃあああ~!!クサイ!苦しい!誰か助けて!」
「お待ちなさい!」
凛とした高い女性の声で、灰色スライムの動きが止まった。
白衣のようなシャツに、白いプリーツスカート。その裾を優雅に翻す女子。ネックレスが
白く輝いている。黒い髪は腰まで伸びていいて、艶やかである。
エレガントな姿だがひとつだけ違和感がある。頭の左右に、けもの耳がついていた。眼も
切れ長で、鋭い雰囲気を醸し出している。
「だ、誰?姿は見えないけど。モゴモゴ。」
灰色スライムを被ってお化けになったまま、口を動かす花子。
「そんな説明をしてるヒマはありませんわ。あなた、その歯垢獣の動きが止まってるうちに、薙ぎ払いなさい。」
「そ、そうだね。うわーっ!」
頭を左右に振って、動いた灰色スライムを手で掴んで飛ばした花子。
灰色スライムは列車の床に落ちて、ぐにゅぐにゅと蠢いている。
けもの耳女子は、口の中に手をやって、そのまま何かを灰色スライムに投げつけた。
『シューシューシュー』
湯気を伴いながら灰色スライムは、床に水分を残して消滅した。