【第一章】第二十四話
「「待て~!」」
鬼の形相で追いかけるふたりは獲物を追い詰める。
「た、助けて~!」
そばかす女子高生は、古びたドーム型の建物の中に入っていった。絵梨奈はその建物の前で急停止した。
「ここは!し、進入禁止区域ですわ。」
「おい、焼肉女。いったいどうしたんだ?」
「この中に入ってはいけないと言ってるんですわ。ここは、『歯科医ターヘルアナトミア』、通称『歯医者の穴』と呼ばれる施設です。ここには入ってはいけないとの校則がありますわ。」
「獲物はここに逃げ込んだんだから、入るしかないだろう。」
「校則違反になると言ったでしょう。お止めなさい。」
「いやだ。目の前にいる獲物を見逃すなんて俺にはできない。湧き上がるヤマンバの狩猟本能が、俺を突き動かしやがるんだ。それはお前も同じだろう。ぐぐぐ。」
「そ、それは。ぐぐぐ。」
ふたりとも歯を食いしばり、口の端から赤くなった唾液が垂れている。狩りたいという気持ちをガマンしているようだ。
「こういう場合って、何か学園の決めごとってないのか?」
「あ、ありますわ。歯医者として、診断にかかる意見が相違した場合、『針ボッター』で決定してよい、という校則がありますわ。」
「針ポッターだと?すごくイヤな予感しかしないぞ。」
「そうですわ。だから、このやり方を取る生徒はごく少数ですわ。それもほとんどがドMの方ばかりですわ。」
「ぐっ。さらにやりたくないノルアドレナリンが出てきやがった。」
「それでもよろしくて?」
「痛いぐらいなんだ!俺はヤマンバ族だぞ!痛いの、欲しいし。じゅる。あれ?俺の気持ちがなんだか揺れているような。」
「それでこそ、ハナゴンさんですわ。覚悟ができたなら、すぐに始めますわよ。さあ、これでお互いの患部を突つき回すのですわ。じゃ~ん、ですわ。」
「そ、それは反則だろう!」
絵梨奈が取り出したのは、長さ10センチの針。金色に輝いている。
「もう賽は投げられましたわ。突っつきっこしましょ、泣いたら負けよ、あっぷっぷー!」
『プスリ、プスリ、プスリ、ドクドク。』
毒々しく、紫色の血液がふたりの口の端から流れ出ている。絵梨奈には虫歯はないが、魔法を使う時に突つく部分はかなり傷んでいた。
「すごくイタいですわ!ああああ~!」
「超絶いて~!グガガガ~。で、でもなんだか気持ちいい~!」
お互いに悲鳴を上げながらも、勝利への執念なのか、針への力のモーメント伝達を怠らない。脈打つように夥しく流血は続いている。血液はお互いの顔に飛び散っている。




