【第一章】第二十三話
次の日。駅近くの『歯医者ストーンヘンジ』と呼ばれる公園に花子と絵梨奈はいた。
「ここが学園の発祥の地なの?」
古臭い歯医者用の椅子が円を描くように並べられている。色やデザインが様々であるが、付随するアームライトや機械がいかにもレトロである。サビや汚れはついておらず、誰かが手入れをきちんとしているようである。
「そうですわ。この椅子こそが学園の歴史を表現するもの。伝統そのものですわ。これに座ると」
絵梨奈が言いかけた瞬間。
「これって座り心地、すごく悪いよ。」
「なんて大それたことを!それは触れてはなりませんわ。バチが当たってますわ。」
「当たってます?過去形?・・・痛~~~い!」
「その椅子は歯医者治療の苦難の歴史。患者に痛みを感じさせながら治療した、古きよき時代の遺産なのです。そこに座れば昔ながらの治療が脳内体験できるのですが、激痛を伴うので誰も座りませんわ。」
「それを先に言ってよ!今の痛みはメガトン級だったよ。ウエ~ン。」
雨に打たれたような大粒の涙が花子の頬を光らせた。
「も、萌へ、萌へ~!萌へ~!」
絵梨奈の泣き顔萌えは、進化を遂げた。
「くっそー、本当に痛かったんだからな。俺のこの怒りオーラをどこにぶつけてやるかだな。」
「ハア、ハア、ハア。ハナゴンさんの登場ですわね。いいでしょう。そのなりなら、ワタクシといい勝負ができそうですわ。」
こうしてふたりは手当たり次第に、歯垢獣や歯石獣を倒して、診療報酬を荒稼ぎして、付近には患者がいなくなった。
しばらく待っているうちに、ひとりの女子高生が歩いてきた。頬を触っており、虫歯で苦しんでいるように見える。
「あの獲物は俺だ!」
「患者をモノ呼ばわりしてはいけませんわ。」
「モノじゃねえ、エモノだ!」
「人間扱いしていない段階で、すでに同じようなものですわ。でもワタクシも負けてはいられませんわ。倒すは獲物ですわ!」
「焼肉女、お前モカ?」
「言い間違えただけですわ。それにコーヒーみたいに呼ばないで、ですわ!お待ちなさい~、獲物さん!」
「さん付けしても、獲物扱いは変わらないぞ。」
ふたりからロックオンされたそばかす顔の女子高生は、虫歯のほっぺたに手を当てながら逃げていった。




