【第一章】第二十話
「はあ?よくわかりませんわ。もうおわかりだと思いますが、魔法を使うには自分の虫歯を痛めつける必要があります。山場さんは、その痛みに耐えないといけませんわ。」
「痛いのいやだよ!牙狼院さんはどうなのよ?」
「ワタクシの魔法は、土魔法。虫歯はありませんわ。」
「じゃあ、魔法を使う時、痛みと苦しみを味わう必要ないんだ。いいなあ。それに比べてあたしは、あたしは、痛いのなんていやだよ~。でも魔法使えないと、ここに来た意味がないし。ううう。」
両手で顔を覆い泣き出した花子。
「泣くぐらいなら、痛みに耐性をつけなさい。でもその顔、素敵かもですわ。」
「牙狼院さん、言ってることが変だよ。牙狼院さんのドS!」
「ドSですって!何とでも言いなさい。ワタクシを非難しても自分の心の窮地からは、避難できないのですから。」
反論する絵梨奈であったが、内心は花子を哀れと思う・・・ことはなく、別のことで頭がいっぱいだった。
(山場さんの涙の流れ方、絶品ですわ。まっすぐに川の字を描いてます。二本が直線、一番左の長い線がうまく頬の盛り上がりに乗って、いい具合にカーブしてますわ。これは萌えざるを得ません!)
絵梨奈は世にもレアな『泣き顔萌え』だったのである。
こうして花子の診療報酬稼ぎという学園生活が始まったが、一向に成果があがらず、一週間のリミット土曜日を迎えた。
「週に10万円なんて、ノルマじゃなかった、成績基準が厳し過ぎない?」
「そんなことありませんわ。山場さんの努力が足りないのです。この5日間、山場さんは一度も泣き顔を見せてなくて、ワタクシの萌え成績がどれだけ空き家に、いや、そういうことではなく、虫歯つつきを一度も行使してないではありませんか。」
「だって、だって、とてつもなく痛いんだよ。痛みの先に見えるものがないこともないけど、やっぱり痛いのはいやだよ!ぐすん、ぐすん。」
「萌え~!」
絵梨奈はふたつの頬を叩きながら、瞳は目の最上部に張り付いた。口はだらしなく開いている。ただのアホの娘状態。
「が、牙狼院さん?」
呆気に取られて絵梨奈を見つめる花子。その視線に気づいて、変身ヒロインのように一瞬で現状復帰した絵梨奈。
「い、今のは、な、何でもありませんわ。いわゆるひとつのアクビちゃんですわ。と、とにかく、今日、死に物狂いでやらないと、退学なんですから。」
「わ、わかったよ。」
不満げに返事した花子は真剣さに欠けて、なんら結果が出せないまま、夕日の沈む時間を迎えた。




