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【第一章】第十九話

「助けたかったわけじゃないじゃん。たまたま通りかかったから、やっただけじゃん。Qは、牙狼院のお嬢様が大嫌いじゃん。顔も見たくないじゃん。」


木憂華の言う通り、ここに現れてから、木憂華は絵梨奈の顔に一度も視線を向けていない。


「どうしてワタクシを嫌うんですの?」


「牙狼院家と茎宮家の歴史を思い出せばすぐにわかるじゃん。自分の胸に聞いてみろじゃん。」


木憂華はチラリと絵梨奈の豊胸部に目をやった。『豊胸』とはあくまで、絵梨奈の木憂華に対する比較級での評価である、念のため。


「やっぱりムカつくじゃん!おっと、怒りで仕事を思い出したじゃん。」


木憂華はハナゴンから注射器を抜いて、中身を出したあと、もう一度プスリと刺して、吸引した。


「これはキレイな血液じゃん。あとでじっくり味わうかなじゃん。バイバイじゃん。」


「ちょっとお待ちになって。命令っていったい誰の?」


「説明なんかしたくないじゃん。」


こう言い残して、歯ブラシに乗っていずこかへ消えた木憂華。


倒れていた花子に少々異変が生じていた。


『ぐにゅ、ぐにゅ。』


「あっあっあっ。胸がなんだか、気持ち・・・!?あたし、胸を触られてる?」


「山場さん、山場さん。ぐにゅ、ぐにゅ。あら、目覚めましたか?」


「牙狼院さん、あたしの胸に何か?」


「い、いや、こ、これは、じ、人工マッサージですわ。」


「あっ、そういうこと?あたしが気を失っていたから、起こしてくれたんだ?ありがとう。」


「き、気持ち、い、いや、お目覚めになって良かったですわ。元に戻ったようですし。泣き顔が終わったのは残念ですが。」


「あたしの泣き顔?」


「何でもありませんわ。」


「あれ?どうしてあたし、気を失ったんだっけ?そう言えば、虫歯をつついて、その痛みで強気になって、自分のことをハナゴンって名乗って。」


「暴君ハナゴン時代を覚えているんですの?」


「壮大な歴史ロマンみたいに言わないでよ。」


「虫歯を触ったことで何かお感じになりましたか?」


「今まで、痛くて虫歯を触ったことなどなかったので、わからないよ。でも痛いのがなぜか、気持ちよかったような。なんだか、心が超解放されて、すがすがしくて、大草原になったようだったね。」


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