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プロローグ
歯医者。これほど、世の中で嫌われている医者はない。
本来、痛い虫歯を治してくれる大恩人なのであるが、現実の虫歯治療では、患部をちょっと触れられるだけで、それまでの痛み以上の苦痛を強いられることになる。
治療時の痛みを抑えるための麻酔がひどく痛い。歯茎に当たる『チカッ』という痛みはスズメバチの毒針にも等しい。
さらに、虫歯を過酷に削るドリル。『ウイ~ン!』という音だけで卒倒してしまう者もいる。ドリルの先端が歯に接触した瞬間、シナプスが大脳中枢部に痛覚を、光を超える速度で伝達してくれる。歯科技工士が『沁ミテマスカ?』という全然役に立たない気休め鎮魂歌を歌うだけ。脳天を打ち砕く激痛にまみれた頭の中では、道路工事で掘られる地球の気持ちを理解しない人間たちの代わりに、地面に懺悔するだけとなる。
とにかく、歯医者はコワいモンスターである。
ただし、何物にも例外は存在する。ドMにとっては、これ以上ない至宝である。