勇者は走る
俺は起きた。
自分の脈がいつもより早いのを感じる。
何か胸騒ぎがする。
「蟲」の知らせが俺に聞こえる。
俺は飛び起き、ダンジョン内を魔法で調べる。
異常は...
特にない...
それじゃあダンジョンの外か?
俺はフォルとともにダンジョンの入り口に行く。
やはりここもいつも通りだ。
あと俺が行った場所...
他のダンジョン...
冒険者ギルド...
商業ギルド...
孤児院...
孤児院!
何か嫌な感じがする。
俺は走って孤児院に向かう。
転移はダンジョンの中に向かう時にしか使えない。かろうじて入り口が限界だ。
孤児院が見えた。孤児院の前に院長とガタイの良い、いかにも悪そうな男が立っていた。
俺は聞き耳をたてる。
「院長さんよう。早く金返さねえと利子がついちまうぜ?」
「わ、わかっています。明日!明日までには返しますから!」
「そうかい。じゃあ俺はこれで失礼するぜ。明日払えなかったら...わかってるな?」
「はい...」
男は去って行った。
今の話だと、俺があげたルビーとサファイアはどうなったのか。
院長が横流しをした?
いや、そんな性格ではない。
足りなかったのか?
とりあえず俺は院長に顔を見せに行く。
「院長、こんにちは!この前のでお金は足りた?」
率直に聞く。
「じ、実は...」
院長の話によると、俺に嘘で、あまりお金を借りていないと言ったが、本当はかなり借金をしていたようだ。
見ず知らずの俺に遠慮していたのだろう。
「そうか。じゃあ俺、その借金分の金、持ってくるよ。」
「い、いえ、でも、それは...」
「じゃあ、払えるの?」
「いえ...」
俺はずるいと思いながら聞くと、やはり払えないようだ。
「俺が明日に持ってくるから。心配しないでよ。」
「で、でも良いんでしょうか?勇者様に払わせてしまって...」
院長もなかなかしつこい。
「いいんだよ。だって俺は勇者なんだから。」
「はい...わかりました。よろしく、お願いします!」
割り切ってくれたようだ。
「じゃあまた明日。」
「はい、また、明日...」
俺はダンジョンのマスタールームに転移した。