奇跡を願った神様
もっと続きを書こうかなって思ったんですけど、僕に彼女達を活かせられるほどの文才がないもんですから。
「ウーちゃん…アー君…生きてる?」
「おはようございます神様…」
「…ハハッ…元気ないな神様も」
身体に力が入らない。どれだけ動こうとしても、思うように体が動かせないのだ。まるで、身体が石になったかのように。社から辛うじて見える狛犬も…汚れていた。千鶴さんがたまに狛犬の身体を拭いてくれていたから、今まで汚れ知らずだったはずなのに……
「千鶴さん…死んじゃったのかな」
思い知らされる千鶴さんの死。今、私達が生きていられるのは…千鶴さんが誰かに私たちの話をしてくれたからかもしれない。誰かの記憶に残っていれば、私達は消えることがない。しかし、人の記憶は脆い。私達はもういつ死んでもおかしくないのだ。
「おい…誰かが来るぞ?」
アー君がダルそうな声で言う。
「千鶴さん⁉︎」
私は床に這いつくばり、重たい腕を動かして社の戸に急ぐ。
「いえ…あれは男2人です」
ウーちゃんの声に力が抜けそうになった。でも、なぜか動き続けた。きっと、私もどこか死ぬことを恐れているのかもしれない。
「多部っち、本当にここであってる?」
「白ちゃんは本当にビビリだね。ここであってるよ」
戸の隙間から見える来訪者達は、見たこともない2人組だった。
「ここ、心霊写真でも撮れるんじゃない?」
「多部っちやめようぜ」
「何?白ちゃん怖いの?」
どうやら彼らは私達を知らないらしい。たまに肝試しとかいうので来る若者もいたが、その類の人間なのだろう。
「それにしてもボロいね…」
「お賽銭入れとく?」
「いや、白ちゃんは入れたら?」
「ちょ…えぇ?……五円玉あったかな…」
ひょろ長い男が木箱に近づいて来る。
「おい、俺の声が聞こえるか?」
「私の声、聞こえる?」
彼はアー君の声にもウーちゃんの声にも反応を示さず、千鶴さんがやったように参拝し…足早に連れの元へ戻る。
「何お願いした?」
「多部っちに彼女ができますようにって」
「え?ここって恋愛の神様がいるの?」
「さぁ?」
「え?」
「…え?」
私は戸の前でへたり込む。やはり覚悟を決めなければならないのか。
「嫌だよ…死にたくない」
…あれ、私は今なんて…
「神様、俺らも同じ気持ちだよ」
「誰からも忘れられて死ぬのは辛すぎますから…」
「アー君、ウーちゃん…」
私達は死という事実も与えられぬままに消滅する。それはあまりにも寂しく、残酷なことなのかもしれない。アー君もウーちゃんも、表に出さなかっただけで、そのことを恐れていたのだ。
「でももう…身体が動かないの…」
もし神様が奇跡を起こせる存在だというのであれば、私は生まれてこの方…神様ではなかったのだろう。なぜなら、私自身が奇跡を望んでいるのだから。
「ねぇ白ちゃん、ちょっといいこと思いついた」
「何?」
「小暮君をビックリさせよう」
「どこで?」
「もちろんここで」
急に意識が遠のいていく。人の記憶は脆く、私達はいつ消えてもおかしくない。
「さすがに神社でやるのはまずいって」
「じゃあ、この階段降りたところで」
「小暮さん、ビックリするかな」
「いいから行くよ」
来訪者がいなくなった。
「神様…聞こえるか?」
「……アー君?」
瞼が重たい。私の世界が黒で染まる。
「何か、感じないか?」
「な…………?」
声が出なくなった。
「確かにこれは……………」
ウーちゃんの声が聞こえない。無の世界が訪れた。
「………!」
無の世界、もはや私は生きているのか、死んでいるのかさえもわからない。
「………!」
恐怖が私の周りに舞い降りる。
「………!」
嫌だ。死にたくない!千鶴さんの話は面白かった。もっともっと、多くの人と話がしたい!こんな…こんな死に方は嫌だ!
「誰か…助けて!」
最後の力を振り絞って叫ぶ。耳が聞こえない以上、本当に叫べたのかは疑問だ。それに…私の声は誰1人として…
「はい?あの…大丈夫ですか!」
急に耳に飛び込んできたのは青年の声。それから戸が蹴破られる音が聞こえ、私は誰かに抱えられる。
「なんでこんなところに女の子が…もし!しっかりしろ!もし!」
肩を揺さぶられる。すると、なぜか瞼が軽くなった。
「まずは警察…!ここ圏外じゃなかったっけ⁉︎あーもう!多部も白柳もどこに行った!」
目を開ける。そこにいたのは…初めて見る顔の青年だった。しかし、私はこの青年が誰なのか、知っているような気がした。
「あなたは…誰?」
私はゆっくりと右手で青年の頬を触る。
「へ…⁉︎…あ、僕かい?えっと…小暮敏夫っていうもんです。婆ちゃんの言伝通りにここに来たんですけど…あなたは?」
あぁそうか…千鶴さんの…
「私は……神様」
奇跡は本当に起きるものなのか。
「神様?婆ちゃんの言っていた子かな…それにしても色白で痩せてる…病院?ならば、まずはここから出よう」
小暮敏夫は私を抱えて…社を出る。
「おーい多部!白柳!緊急事態!」
数百年ぶりに社の外に出た。優しい風が私の頰を撫でる。
「神様、良かったな」
「ええ…本当に」
「ちょ…え?はい?…狛犬が話した?」
「おいおい、オババの孫は俺らの声も聞こえるのか」
「アー君…ウーちゃん…」
これは私が神様ではなくなり、不思議な力を持つ彼との出会いの物語。
非常に雑な終わり方だったでしょうか。すみません。最初はプロット通りだったんですけど、どこからか道を間違えたみたいで…
尚、こちらで登場する小暮君は「転移した世界より」で活躍中なので、よろしければ、そちらもよろしくお願いします。
感想や評価をもらえたら、大変嬉しく思います。




