第6話 泊まる用テント
今回はノホホンとしてます。戦いの場面はありません。
「こっちです。」
瑜磨、未依、梦羽の三人は森の中を歩いていた。
先程梦羽が加わり、三人での旅をすることになった。その為、この森に初めて入った二人よりも住んでいた梦羽の方が道をわかっているだろう、と思った瑜磨は道案内を頼んだ。
ーー家を出てからどのくらい経ったのだろうか。
そんなことを思いながら目の前にいるウキウキでわくわくしていて今にも飛べそうな少女を見つめる瑜磨。
「まだですか?」と視線を鋭くして伝える。
すると視線を受けた梦羽の足がピタリと止まり、続いて止まる瑜磨と未依。
「どうしましたか?」
「……ごめんなさい。私、迷ってしまったらしいのです。」
「……。」
「……。」
その場に数分の沈黙が流れる。瑜磨は道に迷ってしまったと言うことを、後少し早ければ家に戻ってまた再出発出来ただろうにと思った。
「…はぁ……。」
「溜め息つかないで下さい……!」
「誰のせいですか?」
「うぐっ……!!」
そんな二人を見て、未依はその場にあった切り株に座り、一言。
「もう遅いからここで寝よーよ!」
場違いのような明るい声のトーンで、リラックスしたようで欠伸をする未依。それを見た途端に梦羽は顔を明るくして未依の隣に行き、座る。
「そうですよ!ここで寝ましょう !初めてのキャンプです~♪」
ウキウキしている梦羽に同意するように未依もウキウキし始めた。
__ダメだこの二人……。マイペース過ぎる。
瑜磨は一人そう思うと荷物の中から小さなテントのような白い三角のものを取り出す。掌サイズでやっと小指の先が入るくらいの小ささだった。
「テント?小さくない?」
「……、手、繋げ。」
瑜磨は未依と梦羽に手を繋ぐように促した。それに従い、二人が手を繋いだことを確認するとテントの入り口らしき場所を指で触る。そしてすぐに未依の手を掴む。
「えぇ!?」
「わわっ!?」
三人は小さなテントの中に入り込んでしまった。
「着いたぞ。」
目を開ければそこには今まで見ていた暗い森の景色ではなく、オーロラがかかったように空は輝き、出ていないのに太陽の光に照らされているかのように明るい景色が広がっていた。
「……。」
「どうした?」
「……す、凄い!」
未依は目の前に広がる景色に手を伸ばすが、何処までも広がっているために手が障害にぶつからない。前へと体重をかけながら伸ばし続け、ついにはバランスを崩して倒れた。
「大丈夫ですか……?」
「痛た……。はい、大丈夫です……。ありがとうございます……。」
「はっ……。馬鹿か。」
梦羽の伸ばした手を借り、起き上がった未依は自身を貶してくる兄を睨んだ。兄もお返しと言わんばかりに睨みつける。
「あはは……落ち着いてください。お二人とも。」
「梦羽さん……ってあ~ッ!」
未依が突然叫ぶと近くにいた梦羽は目をパチパチさせる。先程までの嫌な雰囲気は何処へやら。
梦羽の手をとり、未依は片膝をついた。そのまま梦羽の手の甲に軽く唇を落とし、見上げた。
「梦羽。」
「はいっ!?」
「って呼んでもいいかな?」
にっこりと笑う未依に梦羽は「も、勿論です!」と少し焦って話す。
「おま……。何してんの?」
「え?挨拶だよ?普通の挨拶!」
鋭い眼光からいつもの落ち着いた瞳に戻り、そう質問すると未依は「ね!」と言いながら梦羽と肩を組むと梦羽は少し照れながら頷く。
「あのさ。お兄ちゃん、お風呂ある?」
「その先にある。男と女に別れてるぞ。間違えるなよ?」
はーい、と聞いてい方が気の抜けそうな返事をして未依はお風呂へ向かった。
残った瑜磨と梦羽。瑜磨はチラリと隣にいる少女を見つめると梦羽はまだ頬を少し赤くしていた。
「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫でする!ちょっとビックリしただけです……!…慣れてなくて……。」
梦羽ははにかむ。そして周りを見渡して「ここは何処ですか?」と問いかけに瑜磨は「テントの中です」と答えた。
「え?」
瑜磨は丁寧に説明し始める。
「ここはあの森がある世界とは別の世界なんです。」
「つまり異次元なのですか?」
瑜磨は頷き、説明するためにポケットから紙とペンを取り出そうとして止めた。出すのが面倒くさくなったのだが、言葉だけで話すとなると余計にわからなくなりそうで、その代わりに指先を空中に動かす。
「ふぇ!?せ、線が……!」
「ああ、それはここにいると、こういうことかできるからです。貴女も出来ますよ?……で、ここが俺らのいる世界です。そしてこっちが今いるここ。」
空中に赤い線が瑜磨の指先の動きに合わせて浮かび上がる。瑜磨によって出された線は空中に丸を2つ作り、1つには«世界»、もう1つには«ここ»と書かれていた。
「«ここ»は«世界»からは隔離されていて、«世界»から攻撃出来ない。勿論、«ここ»からも出来ない。だが……。」
赤い線で書いた図を使って教えていく。瑜磨の教え方は上手く、すぐに梦羽は理解した。
「つまりは«ここ»は«世界»との時間の流れは一緒。空間が違うから«世界»からの干渉は出来ない。もちろん、«ここ»からも。«ここ»に入ったり出たりするにはあのテントが必要……と言うことですか?」
「正解!」
瑜磨は嬉しそうに無邪気に笑う。梦羽はそんな瑜磨を見て頬をますます赤く染めた。
「……どうしました?」
「え、いや大丈夫でぇ……!?」
瑜磨が梦羽の顔色を伺うように顔を近づけると、梦羽は慌てて後ずさる。そのとき瑜磨の瞳の奥には冷たい光が宿っていたのを彼女は知らない。
「あ、の!顔近いですっ!」
「あ……。ごめんなさい。」
瑜磨はすぐ離れた。
「……あのですね。瑜磨くん。」
「はい?」
「タメで話して欲しいです。」
瑜磨は手を顎に当てて、少し考えるような素振りをした後頷く。
「……わかった。……よろしくな梦羽。俺もタメでいいから。」
瑜磨はニッと笑うと梦羽は答えるように小さく頷く。
「よ、よろしく…お願いしますっ……!わ…私から言っておいてあれですが、タメは無理そうです……!」
梦羽はすぐさま「お風呂入って来ますっ!」と話すと駆け足でお風呂向かった。
「…梦羽……、か……。」
瑜磨は今日会ったばかりなのに仲間となった少女の姿が見えなくなると冷ややかな目付き少女が行った方を見ていた。
「び、びっくりした……!」
梦羽は胸元に手をあて、息を切らしていた。その顔は先程よりも真っ赤になっていてまるで熟した甘いリンゴのようだ。
「お風呂に入って落ち着こう……!うん、それがいい!」
梦羽は服を脱ぎ、お風呂場の引き戸を開けた。そこには周りが丸い石で囲まれている大きな湯槽があり、温かいことを意味する湯気が上がっていた。
「わぁ……!」
「あ、梦羽さん!」
湯槽の奥にはタオルを頭に乗せ、肘を石の上に置いて、のんびりしていた未依がいた。
「ご一緒に良いですか?」
「どーぞどーぞ!」
梦羽は湯槽に入ったお湯に浸かる。お湯は人肌より温度はやや高く、熱めの梦羽にとって丁度良かった。
「ふー……。落ち着きました……。」
「大丈夫ですか?」
未依は心配そうな顔をした。梦羽が何故そう言われるのかわからずに首をかしげると未依は小さく笑う。
「顔が赤いので。」
ザプン!と音をたてて立ち上がった梦羽。お湯は大きめな波紋を作り、ゆらゆら揺れていた。それを作った本人は顔を両手で隠し、恥ずかしさで体が震えていた。
「え?本当に大丈夫ですか!?」
「大丈夫です……。」
「声震えてますよ?」
梦羽は「大丈夫です!」と言い、一気に口元まで浸かった。その時に一際大きくできた波紋が未依にかかった。
「わっ。無理しないでくださいね。」
未依は苦笑いして湯槽から出ていった。その時に梦羽はいつもは服に隠されている未依のナイスバディの体を見ると、つい幼児体型な自身の身体を見てしまい、大きなショックが走った梦羽だった。
梦羽が湯槽から出たのはそれから2時間後で、すっかり逆上せてしまったが、急いで二人の元へ行った。
瑜磨ももう入っていたらしく、烏の羽のような髪から水が垂れていた。
それから3人は男女に別れて部屋の中にあるベッドの中で梦羽はこの2人の中で心臓が持つかどうかを心配していた。
……あともうひとつ。瑜磨の髪に関しても先程とは別の心配をしていた。
そんな心配をされている兄を持つ妹はこそれをつゆ知らない妹はぐっすり寝ていた。
__ごめんなさい。私のせいで……。
貴方はそんな風になってしまったのですよね?