第5話 『魔女』の正体(後編)
今回は何か会話文が多くなりました……。ごめんなさい……!
「「え……?」」
瑜磨と未依は茫然とするのに対して梦羽はただ黙っていた。
「ほんとうに…『魔女』…?」
梦羽は頷き、小さな声で「はい」と肯定した。
梦羽はおもむろに立ち上がり、首にかかっていたネックレスを見せる
そのネックレスは小さな桜の形をした輝くピンクような色の石がついていた
。
「それは…まさか……!」
「はい。『ストーン』の『ローズクオーツ』です。これから私が『魔女』と言われる理由を話します。」
梦羽は『ローズクオーツ』を両手で包み込むと小さな声で唱える。
「『ローズクオーツ』よ、我の真の力を__。」
梦羽は声を突然変な箇所で途切らせると同時に玄関へ走り出す。
「ど、どうしたんですか!?」
「ごめんなさい、外に急用が!!」
梦羽は外に飛び出す。その時扉が開いた一瞬に夥しい叫び声が部屋にいた兄妹に聞こえた。
「まさか、魔物!?」
「どうしよう、梦羽さんまだ完全に治った訳じゃないのにっ……!」
兄妹は顔を見合わせて後を追った。
「くっ……!数が多すぎますっ……!!」
梦羽は攻撃を交わしながら『ローズクオーツ』を握り締め、唱えた。
「『ローズクオーツ』よ、我に真の力を授けたまえ!!」
すると『ローズクオーツ』が光輝き、梦羽の手には大きな本が現れた。その本のページが勝手にペラペラと捲め、真っ白だった場所に文字が浮かび上がる。
「我にあらがう全てのモノよ!消え失せろ!!」
手を上へと挙げ、一気に下へ下ろすと梦羽の周りに群がっていた魔物達は塵となり消え去った。
「すげ……。」
「!家に入ってて下さい!」
梦羽がいつの間にか家を出てきた兄妹に気をとられている隙に先程の術が当たらなかった魔物達が梦羽を襲いかかる。そして瑜磨と未依にも襲いかかった。
「危ないですっ!…くっ……!」
そう言う梦羽の額から魔物によって血が流れ出した。
「……じゃらくせぇ!!俺に危ないも何もねぇよッ!!」
瑜磨の突然の叫びに呆気にとられる梦羽に対して「はぁ……また始まった。」と溜め息を吐く未依。
瑜磨は腰にある黒い鞘から刀を抜き、魔物に斬りかかった。刀を抜いてから一秒も掛からずに魔物を消し、その体勢のまま足先を変える。そして体を回転させるとその動きで魔物が何体か消え去る。
「まだだぁッ!てめぇらブッ殺す!!」
瑜磨の動きは止まらず、次々と倒して行く。獰猛と化した彼が元に戻るまのは魔物が全部霧になって消えていくまで続いた。
何体もいた魔物を瑜磨が消すのにかかった時間は約4分だった。
「ゆ…瑜磨くん……?」
何が起きたのかわからなくなっている梦羽は瑜磨に近づく。
刀を納め、パタリと倒れる瑜磨。
「きゃあぁぁっ!?瑜磨くんっ!どどど、どうしましょう!?ゆ、ゆゆゆ瑜磨くんが……死んでしまいましたっ!?」
「あ、いやお兄ちゃんは「…勝手に…殺すさないで…ください……。」」
パニックになっている梦羽に瑜磨が声を上げる。梦羽は安心してと胸を撫で下ろした。
「お兄ちゃんはたまにああなるんですよ……。で、敵をやったら即倒れる。」
瑜磨は肯定の意味で小さく手を挙げた。
その光景を見た梦羽は本のページを捲る。そうするとまたも真っ白だった箇所に文字が浮かぶ。
「ちょっと待ってて下さいね。消費した体力を回復します。」
梦羽は術を唱えながら瑜磨の体に触れる。すると『ローズクオーツ』から淡い光が出てくる。それは梦羽の手を伝って瑜磨の体をしばらく包み込んだ。
「ん……?あれ、もう平気……。」
瑜磨が勢いよく起き上がる。梦羽はニッコリと微笑むと、一瞬で本が消えた。
「あの…、今『ストーン』が光りませんでしたか……?」
未依が小さく『ストーン』を指差すと、梦羽は頷く。
「片付きましたが、また来るかも知れないので家で詳しい話をしましょうか。」
未依は先に家に入と瑜磨も後に続き、最後に梦羽が入った。部屋に戻ると三人とも椅子に座る。
「……話してくれませんか?『魔女』とその『ストーン』について」
「はい。」
梦羽は『ストーン』を見せたが先程の戦いのように光ってはいない。
ごく一般にあるといってもいい『宝石』の輝きだ。
「まずは何故私が『魔女』なのか、ですね。それは先程お二人が見た本が
そう言わせているのです。」
梦羽はまた術を唱え、本を取り出した。その本を机の上におき、ページを捲る。
「真っ白……。」
未依が触ってもいいかと許可を得て、触る。すると触ったヶ所から黒くなっていく。
「熱っ!」
「未依!!」
未依の手に炎に焼かれたかのような痛みが走り、咄嗟に手を離す。そうすると本はたちまち白い色に戻っていく。
「え……?戻った……」
「はい。この本は普通の紙で出来ているのではなく、特殊な紙でできています。」
梦羽が紙に触れるが先程のようにはならず、何も起きない。
「これは私の力を奪っているはずでしたが、いつの間にか逆になっていました。」
梦羽は寂しそうに本を撫でると本はパラパラとページが捲れた。そしてそのまま本が閉じられ、消えてしまった。
「逆?……今、本が消えましたよ。」
「いえ、帰ったのです。私の中に。」
梦羽は自身の胸に手をあてた。
「私は幼い頃から不思議な力を持っていました。それだけなのに両親は殺され、私は神社に閉じ込められました。あの本と一緒に。」
唾を飲み込む兄妹を一旦見て、続けて話す梦羽。
「私は本に1日中、数年間も力を奪われ続けてました。力が全て本に奪われた時に……。自由になりました。」
「……どうして自由に…?」
「それは……。」と途中で梦羽は首を横に振って黙ってしまった。
「……わかりました。貴女はその本の性で『魔女』と呼ばれているのですか?なら消してしまえば?」
梦羽は『ローズクオーツ』をきつく握りしめるめ、本を出そうとはしない。ただ顔を横に振るだけで、それは否定の合図だ。
「……わかりました。本、大切なのですね。」
「……わかってもらえて良かったです。」
梦羽は小さな笑みを浮かべた。
「あ、『ローズクオーツ』が光ったのは何故ですか?」
未依が身を乗り出して『ローズクオーツ』のネックレスを見つめる。
「あ、それは『宝石』のもう一つの力です。己の『ストーン』を出したとき、力を得ます。」
「そうですか……。なら、『悲劇』についての何かに役にたちますか?僕達にも出せますか?」
「……ええ、そう願うなら。」
梦羽はそう言うと自分の部屋に戻ってしまった。そしてその場に取り残された二人は黙って座っていた。
「……行くか。あの人は『悲劇』について何も知らないらしいしな。」
「噂ほど怖い人じゃなかったね。」
二人は頷き合って立ち上がり、家を出ようとドアノブを捻った。
「わっ!ちょっと待っててくださいっ!」
後ろを振り返るとパタパタとこちらへ走ってくる梦羽。手には大きなバッグが。
「私もっ…一緒に旅をさせて下さい!」
「「え?」」
「私、気づいたんです。このまま閉じ籠っているよりもお二人と一緒に旅をすれば何かが。私に何か、生き甲斐に思えるものがわかるのではないかと、私のこの力で役にたてないかと!」
瑜磨と未依は顔を見合わせる。
「でも、危険ですよ?それに傷も完治していませんし。」
「大丈夫です。自分の身は自分で守ります!それに役にたって見せますからっ!」
梦羽は紫の髪が床についてしまうほどに頭を下げる。未依は小さく笑う。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね、梦羽さん。」
「はぁ……全く仕方ないな。未依が言うなら。……よろしくお願いします、梦羽さん。」
「それじゃあ……!」
梦羽は嬉しそうに笑い、ジャンプして家を出た。鍵を取りだし、家の鍵を閉める。
「行ってきます!」
梦羽は木々に挨拶をして二人の後を追って行った。
▽▽▽▽▽
「……そう、旅に出たのね?」
__………。
「そう言わないの、時期にわかるのよ。『ここ』に居なければいけないことをあの子はね。」
__……ハ、…ヅキ……ノ……。
「そう。貴方の言う通りよ。“……”。」
「ワタシの大切な可愛い天使、梦羽。貴女はいつそれに気づくのかしら?」
△△△△△