第3話 森の中
「疲れたよ〜……」
未依がその場にへたり込み、瑜磨は隣に座る。
「仕方ないな……。少しだけここで休むか?」
瑜磨の問いかけに未依は大きな声で「うん!」と元気の良い返事をすると、その場に座り直した。
宿を出て、街から出てから約2週間たった。しかし、一向に森につかない
向かう途中で色々な人に『悲劇』や『魔女』について聞いてみるが情報がない。それどころか
「ワシが知りたいんじゃあぁ!」
と言う者が出てきた。他にも怯えた様子で逃げるように去っていく者が居たり「知らない」の一点張りなど、反応が様々だった。
「ま、あと数日かしたら着くだろ。……。」
「そうだね。……。」
「……。」
「……。」
二人の間に沈黙が流れたその時カザリと近くにあった木が揺れ、黒いモノが二人に襲いかかった!
「……!」
未依が持っていた彼女の3分の1ほどある大きな袋から弓を取り出し、構えた。それと同時に瑜磨は腰についてある鞘から刀を取り出し、切りかかる。
黒いモノ_魔物が怯んだ隙に未依が矢を放ち、心臓を打ち抜く。
「キィィイイィ……!!」
魔物は甲高い奇声を上げながら消えていった。
「はぁ…まさか出てくるとは思わなかったな……。」
「確かに……。」
街を出てから何かに後をつけられていたのはわかっていた。だがまさか魔物とは……。
「びっくりした……。」
「きゃあああああ!!!!」
未依がそう呟くと同時に突然悲鳴が聞こえた。
二人は顔を見合わせ、走り出す。勿論、物を盗まれる心配や何かあっては困るので荷物を持って。
「…おま……、そのガラクタ捨てていけ。動きが鈍るだろ!」
未依のバックから顔を覗かせているのは街で買った……ガラクタ。
「やだ!何かに役立つかもだし!ガラクタじゃない、記念物!!」
「……勝手にしろ。」
瑜磨は刀を持ちながら走り続ける。未依は顔を覗かせているガラクタ……もとい記念物をバックの奥へと押し込み、弓矢を持ち直す。その後に袖の下にあるものを忍ばせて。
走っていくと2人の目の前にわなわなと小刻みに震える老婆が見えた。未依が近づき、声をかける。
「どうしました!?」
「あ…あれ……!」
老婆が指差した先には多く茂っていた筈の木々が見事に一部分だけ消滅しる森。未依がそちらに視線を移すとそれを狙っていた化のように突如近くにいた老婆が姿を変えた。
「ククッ……。」
しかし未依は気づかない。遠目から2人を見ていた瑜磨が叫ぶ。
「未依!!」
「え……?」
老婆はあっという間に魔物に変わっていた。その魔物は未依に両手を挙げ、襲いかかる。
未依はかわし、袖の下にに忍ばせていた先の鋭いあるものを魔物に投げつけ、見事胸の位置に当たった。
魔物は甲高い声を出してすぐさま離れた。
魔物は森へ逃げ込むように歩いていたが、急に反対方向の街へと逃げて行った。追いかけようと瑜磨はしたが、未依に止められた。
「あれは対魔物用の魔封じがついた石を使ったストラップだよ。爆発して直に死ぬよ。」
説明が終わらないうちに軽い爆発音が響いたが、煙はたってないない。
「ね、ガラクタじゃなかったでしょ?」
「…まぁな。……いつの間にか噂の森がある迄来たんだな。数日かかると思ったが……。」
ニヤリと笑う未依に呆れながらも話を近くにある『魔女』がいる森へと変える。
「あ、忘れてた。」
未依がポケットから『ストーン』を取り出す。まさか……、と思う瑜磨に未依ははにかむ。
「使っちゃった☆」
「おいっ!?それ、消えてしまうんじゃないのか!?」
「大丈夫大丈夫!何個かおんなじの買ったしさ!」
未依の手の中には確かに使われたはずの『ストーン』が倍になってあった。
__ガラクタを買い漁っていたと思っていたが、考えを変えなくてはな。
「……じゃあ、行くぞ。」
「はーい。」
2人は仲良く一緒に森の中に入って行った。
方位磁石を持ちながら二人は歩く。
「はぁ……はぁ……うわっ!!」
歩き続けてどのくらい時間が経ったのだろうが。
この森は薄暗くて、足場が悪く未依は足を滑ってしまった。しかも最悪なことにこの森は磁力が強いらしく、方位磁石の針がくるくる回っていて使い物にならない。
「大丈夫か?……こんなんでこの森にいる『魔女』に会えるのか?」
「わかんない。けど取りあえず歩こうよ。」
二人は歩き続ける。
__シーン……。
人はおろか動物一匹もいない。そんなとき近くにあった茂みが動く。
「おいおい……。また魔物かよ……。」
「もしかしたらうさぎかも?」
未依を後ろに隠し、茂みを掻き分けて恐る恐る覗く。
「!」
瑜磨が覗き込んだまま暫く動かなくなり、未依が心配になる。
__魔物の中には見た者の人間の動きを止める奴もいるらしい。まさかそれに……!?
未依は焦った。咄嗟に固まっている兄の横に行き、あるものを見つけた。
「お兄ちゃん!…あれ……?」
瑜磨と未依が見つけたのは一人の少女だった。肌が透き通るように白く、赤に近い紫のフワフワな髪は肌の白さをより際立たせる。
二人が旅をした中で見たことのないワンピースを着ていて、長い睫毛は下を向いていた。
これだけを聞けばただ寝ている美少女に聞こえるだろう。しかし、少女は頬や腕など身体中に傷を負っていた。所々には痛々しい怪我の跡。
未依が辺りを見渡せばここは外から見た木々が消滅していた場所だったと思えるほど何もない。少し先には木々が生い茂っているというのに。
いつの間にか日が昇っていた景色から夕焼けに変わっていた。
「……おい、大丈夫か?」
瑜磨は少女に声をかける。しかし反応はない。
__まさか死んでいる!?
と慌てて体を見れば上下に肩が動いている。ほっ……と一息つき、まだ生きていたことを確認する。それとも同時にある疑惑も思い浮かぶ。
「お兄ちゃん、早く助けなきゃ……。え……!?」
未依がバックから回復薬を取り出す。回復薬を少女に飲ませようとするのを瑜磨が止める。
「な、何で!?」
「もしかしたらさっきみたいに魔物が人に化けて油断させているのかも知れないぞ」
「そっ……!」
未依は「そんなことない!」と言いたいが、数時間前に人に化けた魔物に襲われた。言いかけた言葉を飲み込む。
「それに…、この髪の色の人を見たことが…ない…はず…だ……?」
「確かに……。しかもかなり可愛いもん。まるで人ではないみたいにね。」
「ああ…、だろ……?」
瑜磨は自ら魔物かもしれないと言っていたのに戸惑っていた。何故なら少女の髪を何処かで見たことがある気がするためだ。
このとき瑜磨は前、夜中に見た少女が出てきた夢を覚えていなかった。
「んん…っ……!」
少女が苦しそうに声を漏らす。そして一言。
「ゆ…ま…く……。」
「え?今のって……」
未依が瑜磨の顔と少女の顔を交互に見る。
「俺の…名前……?」
紛れもなく傷を負った美少女は瑜磨の名前を呟いたのだった。
「……で、何でこうなった?」
瑜磨は少女をおんぶして歩いていた。ちなみに荷物は自分で持っている。
『持とうか?』
『俺の荷物は俺が持つからいらん。』
瑜磨は自分で持つことを選んだのだ。妹に負担をかけたくないからだった。
「だってこのままにしとけないじゃん。一応回復薬を飲ませたけど意識が戻らない限り危ないし。」
瑜磨は『悲劇』後、幼い頃から体を鍛えていたために少女一人背負いながら荷物を持つくらいどうってことはなかった。
瑜磨は「荷物の重さは未依が二・五人分の重さだ」と大変失礼なことを思っていたが、当の本人は気づいていない。
「大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫だ。それよりも安静に出来るところを探さないと。」
後ろからついてくる未依を見ながらそう言い、前を向くと驚くべき事が起きた。
木々が動き、一つの整備された道を表した。しかも満月の光に照らさせ、幻想的な世界となっている。
「マジか……。」
二人は恐る恐るその道へと歩きだすと背後からガサリと音がした。音のした方を向けば木々が隠すように道の上に覆い被さる。
「と、閉じ込められた!?」
「いや待て。前は道が続いてる。行くぞ。」
未依は小さく頷き、歩きだした。しばらくそうしていたら目の前に木で出来た小さくて暖かみのある可愛らしい家が見えた。家の近くには花畑があり、蝶や小鳥たちが家の回りに群がっていた。いつの間にか出ていた月の明かりが家を照らし、とてもメルヘン。ただ畑があり、野菜や果物が植えられていることを除いて。
「まさか、ここが『魔女』のすんでいる家……?」
「だろうな。こんな森に『魔女』以外誰が住むって言うんだ?」
瑜磨がぼやきながら家の前に立つと、ギギィ……と扉が開いた。まるで自動ドアのようだが、誘っているようにも見えるのだ。彼らを『魔女』の元へと。しかし背負っている少女の事を思うと迷ってはいられなかった。
「……行くか。」
瑜磨と未依、少女が入るとバタン!と勢いよく扉が閉まる。閉じ込められたのだろうか。
瑜磨の頭の中には逃げようにも逃げられなくなったかと考えがよぎる。
しかし、瑜磨と未依は逃げようとすれば今すぐにでも逃げられる。
……だが少女はどうなる?このままほっといて『魔女』に喰われたり実験台にされてもいいのか?と瑜磨は思った。
__仕方ない。彼女が起きるまで待つことにしよう。その間は俺が守る。
瑜磨は少女をベッドに寝かせ、料理をしようと体を起こす。が、未依に止められた。
「お兄ちゃん、これから料理をするの禁止!僕だったら免疫ついていいけど怪我した人にお兄ちゃんの料理を食べさせられないから!僕が作る!!」
「あ、おい!未依!」
瑜磨が止めようと声をかけるが時すでに遅く、キッチンに行ってしまった後だった。「少女の様子を見てて欲しかったのだが……。」と呟く。
「…俺と気を失っている奴を一緒にして置いていくなよ……。俺だって一応男なんだぞ?」
間違いを犯す気はさらさらない瑜磨だが少女には何か不思議な魅力を感じてしまう。
椅子に座って足を組み、その姿勢から少女を見つめる。
少女は相変わらず目覚める気配が無く、ただ呼吸をしていた。
瑜磨はじっと少女に懐かしい誰かの
面影を感じながら起きるのを待った。どうして瑜磨の名前を知っているかを聞くために。