第2話 『魔女』
瑜磨と未依は≪ブラッティ≫を出て街中をブラブラしていた。
「せっかくここまで来たんだし、何か買ってこ〜♪」
未依ははしゃいで屋台を見ていくが、瑜磨は後についていくだけだ。
「はしゃいで買いすぎるなよ。」
「わかってますよ〜だっ!」
と言いながらもたくさん買っていく未依。中には理解できないアクセサリーも。
何がいいのやら……と思いながらも瑜磨は街を見渡した。騒がしくても賑わっていて、ユーカリ村とは全く違う。
この街の方が便利なのだろうが自然と人々が共存し、静かだった村の方がいいと思う瑜磨だった。
「お兄ちゃん。助けて……」
その声の方へ振り向くといつの間にか両手一杯に買った物がたくさんある未依。その中には先程見た理解しがたいアクセサリーもある。瑜磨は顔をしかめる妹が哀れに見えてしまい、仕方なく半分持つことにした。
「次からは気を付けろよ」
「は〜い♪」
全く……呑気な奴だ、と呟けば聞こえていたらしく未依は「悪うございました!」と言う。
とりあえず数日間はここにいる事にした二人は街のやや外れにある宿を借り、部屋に向かう。いくら兄妹ととはいえお年頃の二人だ、別々の部屋にした。とはいっても隣なのだが。
「何かあったら呼べよ?」
「はーい!」
二人は各々の部屋に入った。この宿は安い料金だが設備はとても良い。
「テレビもついているのか。こっちにはキッチンか」
各部屋にお風呂場がついていて、のんびりとできる。
「風呂にでも入るか」
荷物を床に起き、伸びをする。
するとコンコンと部屋のノック音が響き、元気が声がした。
「お兄ちゃん、いる?」
瑜磨はチェーンを外し、鍵を開けて中に入れた。防犯の為にそのあとすぐに鍵を閉めた。
「何だよ。これから風呂にでも入ろうかとしてたんだぞ?」
「ごめん……。でもさ、ここの宿の人に教えてもらった話が気になって。お兄ちゃんに聞かせてやろうと思って!」
「ありがとうな。だがその話はまた今度。さっさと部屋戻って早く寝ろ」
腕を引っ張り、部屋の外に追い出そうとする。兄のその態度に未依は慌てた。
「いい情報なんだって!!」
「……何だと?」
「いい情報」という手掛かりに気がいってつい手を離してしまうと、未依が部屋に入り込む。いくら部屋へ戻らせようとも言うことを聞かない妹の話を結局今聞くことになった瑜磨はロングコートを脱ぎ、ベッドに座る。それを確認すると未依が近くにあった椅子に座る。
「じゃあ、私が聞いた話ね!それは昔……。」
未依の話が長くて途中から飽きて手を動かしていた瑜磨。だが、要点はきっちり聞いていたために要点はわかっている。
この街から数十キロメートル先にある森には何でも知っている『魔女』がいるらしい。しかもその『魔女』は『ストーン』をたくさん持っていて、つかも作り出せるらしい事。
「ふーん…『魔女』、ね……。」
「で、その噂を聞いたコレクター達が行ったんだってさ。だけど会えなくて……。」
その森の中にいる『魔女』を探してさ迷っている人が気づいた時には森を抜けている、と言う事らしい。
バックの中には食べ物と『ストーン』があったらしいとも。
「……面白いな、それ。」
「でしょ?でも『魔女』の姿を見た者はいないんだって言うから驚きだよ。」
瑜磨の瞳がキラリと光る。
「その『魔女』は恐らく『悲劇』について知ってるだろうな。だから明日は街で『悲劇』について聞きながら、一緒に『魔女』について聞くぞ。」
「ラジャー!」
未依は指先を揃え、敬礼をする。そんな未依を瑜磨は立たせ、また部屋から追い出そうとする。
「明日は早くから聞くぞ。だから早く寝ろ。」
「……はーい。」
渋々ながらも未依は部屋に戻った。それを見届けると瑜磨はお風呂場へ行って服を脱ぎ、湯槽へと浸かる。包み込むように全身を温かくしてくれ、気が緩む。
そのままのんびりと浸かっていたらあっという間に一時間過ぎた。寝間着に着替えるとベッドに横になり、目を瞑った。
*****
『えへへ♪』
何処からか懐かしい声がする。小さな女の子の声だ。
『ねーね、どうしてここに来るの?ここに来ちゃダメって言われないの?』
『言われるよ。けど、――ちゃんに会いたいんだもん!』
幼い瑜磨はそう言って彼女の手を掴む。小さくて、氷のように冷たかった。しかし、嬉しそうに笑ってくれるあの子の笑顔が好きだと思う瑜磨。
ーー名前、何て言うんだっけ?教えてくれたのに。小さな声でだったけど。教えてくれたあの子の名前は……。
『ありがとう、瑜磨くん。私はここから出られなくて寂しかった。でも瑜磨くんが来てくれて寂しくないよ!』
はにかみ笑いをする閉じ込められた目の前にいる少女。
ーー名前、呼んであげなくちゃ。『魔女』や『化け物』と呼ばれているあの子の本当の名前を__!
*****
ふと、目が覚めた瑜磨は時計を見る。もともと備えてあった茶色のデジタル時計に出された時刻は夜中の2時でもう一度寝ようと寝返りをうつ。
「……眠れねぇ」
眠れないのは幼い頃の夢を見てしまったから?もしかしたらあの子が出てこられて……?と思う瑜磨。
__まさか。そんなわけない。
でも何故そんなわけないと解るのだろうかわからない。
瑜磨は思い出そうと頭を捻る。しかし……、
「っ…痛てぇ……」
頭が叩かれた時のように痛み始めた。
数分間、痛みが無くなるようにと深呼吸を繰り返すと痛みが和らぎ、ほっとする。そうしている内にまた眠気が襲ってきて眠りについた。
「ゆ……」
閉じ込められていた少女の名を無意識に呼んで。
『はっ…はぁっ……!』
一人の少女が息も切れ切れで走っていた。細い足や腕には何かで引っ掻いたような怪我をし、服は至る箇所が切れて、泥がついている。
__もう少しで、もう少しで逃げ切れる……!
「あ……!」
少女は後ろをチラリと見てしまう。後ろには煙のようなモノが追いかけていた。人ではないモノ、力を欲するモノ、『ストーン』を狙うモノ。
「っ……!きゃっ!?」
注意を後ろにとられていたせいで木々の根に足を取られ、地面に倒れ込む。顔を上げればすぐそこにモノ、いや魔物がいた。
少女は首にかけていた『ストーン』のついたネックレスを服の中から取り出して唱えた。
鋭く神々しいほどの明るい光が魔物を切り刻む。光によって魔物の青い血が少女の頬や服についていく。
そのついた部分から魔物の血の中にある毒が気化して、吸い込んでしまう。
「くっ……!」
少女はそれを吸い込み、毒に侵されながらも立ち上がり、ノロノロとした足取りで歩く。
『あの子に…瑜磨くんに…会わなくちゃ……!呼ばれた…んだもん…今度こそ……!』
『力に…ならなくちゃ……!』
少女の意識はそこでパタリと消えた。
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夜が明け午前10時。瑜磨は未依を起こし、荷物をまとめるように促す。
「しばらくここにいるって言ってたのに!」
文句を言う未依。瑜磨は彼女の脳天をかくばった指でグリグリして一言。
「『魔女』が気になるから先そっちを確かめる。」
瑜磨は朝食を食べさせようとキッチンへ向かった。この旅館は泊まる事専用で、食事はついていないからだ。
瑜磨がいるキッチンでは関係無さげな鈍い音がしていた。その音は慌てて支度をしている未依の耳に届いていなかった。
「ほら、朝飯だ」
30分後の瑜磨の手には美味しそうな朝食が……なかった。あるのは焦げた何かで見るからに不味そうだ。
「お兄ちゃん……、何……コレ?」
「何とは何だ。目玉焼きとほうれん草のソテーとポテト、後は……」
「もういいっ!」
未依はいつも通りに原形を留めていない焦げた目玉焼きを食べる。瑜磨はそんな妹の反応に眉間にシワを寄せながらも食べた。
その途中で「うわ、何コレ……。不味い。」と作った本人が呟けば「今やっとわかったか!?」とつっこんでしまう未依だった。
朝食を食べ終わり、片付けをする瑜磨。未依はその間、髪をとかして縛る等、身支度をした。
「……お兄ちゃん。髪、大丈夫?」
「ああ。さっきとかしたからな」
「そうじゃなくてさ……」と未依は呟く。
「どうした?」
未依は気まずそうに視線を落とし一言。
「髪の色」
「ああ……そっちか。大丈夫だ、この髪色は気に入っている。あまり目立たなくて。」
瑜磨は優しく微笑む。
「でもさ!元々は僕と同じ金の髪だったって言ってたよね!?」
……それが『悲劇』のせいで髪が黒く染まってしまった。瑜磨は最初は驚いていたが、体に害が無いと分かると何事もなかったかのように生活している。
「…お前の方が重症だろうが……。」
「え?何?」
「なんでもねぇ。さ、少ししたらすぐ森へ向かうぞ。」
瑜磨は片付けを終わらせ、手を拭く。部屋を見渡し、荷物の確認をするのは忘れ物があったら大変だからだ。
「忘れ物は……無いな。未依は大丈夫か?」
「大丈夫!ちゃんと調べたし!……ぁ。」
元気よく返事をしたが、短い声を出した。どうやら忘れ物があったらしい。
「と、取ってくる!」
未依はドタドタと走って部屋を出ていく。
毎回1つは忘れ物をしてしまう抜けている妹に呆れながらもふと脳裏に浮かぶのは夢の中の少女。今はもうはっきりとはしていなく、霧がかかったようによく思い出せないが。
「……赤に近い紫のフワフワな髪。」
それしか少女の見た目について覚えていなかった。
「お待たせ…!ごめんね、お兄…ちゃ…ん……?」
兄がぼんやりしていることに気づき、不思議そうに未首を傾げる。
「ん?そうか、以後気を付けるように。」
そう言って未依の額にデコピンをする。見事ヒットし、受けた少女は額を両手でさする。
「いっ……!?」
「ほら行くぞ」
瑜磨は自分の荷物を持ち上げ、部屋を出る。兄の後を追いかけて未依も部屋を出た。
「瑜磨…くん……。」
森の中、少女は木に寄りかかって気を失っていた。小さな体は木の影にすっぽりと隠されている。
昔会った少年の名前を囁きながら、フワフワな髪を風になびかせる。赤に近い紫の髪の『魔女』がそこにはいた。