第二話
―――「俺…」―――
―――「うんうん^^」
―――「フラれたんだ…」
―――「うんうn……え?」
―――「いや、俺フラれたんだよ…女の子に」―――
「はぁ…」
ぼくは思い出していた。さっき優也が告白してくれた事を。
ザーっと心地よい音と共に頭からつま先、そして排水溝へとお湯が流れている。
このシャワーで嫌な事も流れてくれないかなぁ。
目を瞑っていると気が滅入りそうになる。
ぼくはそっと目を開けた…。
「あぅっ!」
目にお湯が入った。とても痛い。
「シャンプーハット…だっけ、あれ欲しいなぁ」
高校2年生にもなってあんなもの着けてたら、優也に笑われるかなぁ。
――キュッキュッ――
シャワーを止めてお風呂に入る。おもむろに自分の下半身を見る。
「…はぁぁ~」
悲しくなってくる。
「勇也、フラれちゃったのかぁ~…女の子に」
あまりにも衝撃的な事実に、独り言が多くなる。
「やっぱり女の子のほうがいいよね、勇也も…」
だめだ、落ち込みモードになっちゃう。
「んぅ~~んっ!」と、思いっきり足を伸ばした。
うちのお風呂はそれなりにゆとりがあって、足をいっぱいに伸ばしてもまだ余裕がある。
まぁ、ぼくが小柄なだけかも知れないけど。
「勇也、あかりちゃんに相談できたかなぁ~」
丁字路で勇也達と別れてから、ぼくはまっすぐ家に帰ってきた。
いつもは重い荷物とかを勇也が持ってくれるんだけど、今日はがんばって自分で持ってきた。
「少し買いすぎたかなぁ」
あかりちゃんがぼくに似合う服をたくさん選んでくれた。女性ものばっかりだ。
あかりちゃんは「娘が生まれたらこんな感じで一緒に買い物したいなー」と言っていた。
「ぼく、男の子なのにな」
今日着て行った白いワンピースも、あかりちゃんが小学校の時に着ていた服だそうだ。
「・・・・・・」
ぼくは自分の胸に両手を当てた。
「ぼく、あかりちゃんより小さいんだなぁ」
勇也から言わせたらあかりちゃんは小柄な方らしいけど。
「はぁ~」と、またため息をついてしまった。いろいろ落ち込んじゃうよ。
湯船に口元を沈めブクブクをする。
悶々としていると、「おぉーい?翔太大丈夫かー?」パパの声が聞こえてきた。
「なっ、なにぃ~?」ぼくは思わず胸を両手で隠しながら返事した。
「い、いやー、ずいぶん長風呂だなーって思ってなー。心配したぞ?」
いつの間にか結構な時間が経っていたみたいだ。考え事してたからかな。
「大丈夫だよ、今あがるから~」とお風呂を出ようとしたら、
「い、いやあ。そ、それはいいんだが…たまにはお父さんと背中流しっこでも…し、しないか?」
やけに挙動不審な感じでそんな事を言ってきた。
「もう洗っちゃったから、大丈夫だよぉ~?」
「い、いやあでもなぁた。まには親子水入らずで…」とパパが言いかけて、
「お・と・う・さ・ん~?何してるんですか~ぁ?」と、ママの声が聞こえてきた。
「あ、いや、えっとですね。たまには翔太の背中でも、流そうかな…なんて」
「お父さんダメですよっ!息娘と裸の付き合いしようなんてっ!エロおやじがっ!」
「ち、違うんだよ母さんっ!オレは…オレはぁ~!!」
「・・・・・」
パパの声が遠ざかっていく。ママに引きずられて行ったみたいだ。なんだったんだろう?
「さぁってっとぉ~、上がろうかなぁ~」気づかないうちに結構時間経ってたみたいだし。
・・・・・・・・・・
あとママ、ぼくは息子だよ…息娘じゃないよ?変な言葉つくらないでね?
夕食を済ませた後、ぼくは自分の部屋で今日買ってきた服の整理をしていた。
「今日は楽しかったなぁ~」
一人つぶやいた。最近独り言の癖ついちゃったかなあ。
勇也と一日中一緒だったし、あかりちゃんの歌声も聞けた。
買ってきた服を次々にクローゼットにしまった。ふと「女性用ばっかり…」だと気づいた。
最近買った服はほとんどが女性用だ。そのどれもがあかりちゃんと遊んだ時に買ったものだった。
あかりちゃん曰く「勇也が好きそうな服だよ♪」だそうだ。
「あかりちゃんにはお見通し…なのかな」
あの娘はすごいと思う。おちゃらけているようで良く周りを見てる。
「でも、流行には疎いんだよねぇ~」そこがちょっと謎なところではある。
・・・・・・
「勇也、あかりちゃんに言えたのかなぁ~」
ふと勇也の家の方を見てみる。勇也の部屋は電気がついていた。帰ってきてるみたい。
ぼくと勇也の家はほとんど正面にある。少しだけ斜め向かいかな?
コロンとベッドに横になる。「明日、勇也に聞いてみよう」
あかりちゃんが勇也にどんなアドバイスとかしたのか、とっても気になる。
「勇也の恋、かぁ」
なんか、取り残された気分だ。
・・・・・・
・・・・
「勇也…勇也…」
シーンっとした部屋に、ぼくの声だけが微かに響いた。
「んぁ…んっ…勇也…勇也ぁ―――」
不意に
―――ブーブーブー―――
枕元においてあったスマホが鳴り出した。
「はぅ!!」びっくりして飛び上がってしまった。
ぼくは今なにしてた?何しようとしてたっ?
自分のしようとしていた事を思い返して、耳元が熱くなったのを感じた。
―――ブーブーブー―――
スマホは鳴り続いている。
「あうぅ~」慌ててディスプレイを見ると、見知った名前が表示されていた。
「はいっ!も、もしもし?」電話だった。慌てすぎて声がひっくりかえってしまった。
「あ、翔太くん?ごめんね、こんな時間に」
「あ、えーと、平気だよ?それで…どしたのかな?」
大体の察しはついていた。こんな時間に電話をくれる理由は、それしかなかった。
「綾香ちゃん、またやっちゃったのぉ?」「…うん、さっき…ね」
彼女の名前は須藤綾香。ぼくの親友かな。
「綾香ちゃんさぁ~、今年に入って何人目なのぉ?」
ぼくは少し呆れ口調で言った。
「うん、ごめんね。そのたびに電話しちゃってさ」
「いや、ぼくは良いんだけど…ね」
綾香ちゃんの声がだんだんとしょんぼりしていくのがわかる。
「そ、それで?今回はどんな人なのかなぁ?」いつもの流れで聞いてみる。
「うん、えっとね。格好良くて優しかった…かな」
「えーっとぉ~、それなのにだめだったの~?」
格好良くて優しいなら、申し分ないんじゃないかな…?
「うん、そうなんだけど…ね」どうも煮え切らない様子の綾香ちゃん。
「綾香ちゃん、つい最近もあったよね?」
その時も夜に電話くれていた。
「うん、その人も格好良かった…ね」
う~ん、なんだかなぁ~。
「綾香ちゃんさぁ~、誰とも付き合う気はないのぉ?」
確信に迫ってみた。
「え、いや…。そんな事はないんだけど…ね」と、綾香ちゃんはどうも歯切れが悪い。
「じゃぁ、なんで毎回フッちゃうのぉ?今までだって良さそうな人はいたとおもうよぉ?」
そう、彼女はモテるのだ。わずか半年で10人くらいには告白されている気がする。
顔立ちがすごく整っていて女の子っぽくて、男子からは憧れの的とされている。
別段として勉強が出来るわけでも、スポーツが得意なわけでもないのだが。
なによりも彼女の放つ柔らかいオーラが人気の秘訣だろう。
そんな彼女にも悩みがあった。それは…。
「例の好きな人かなぁ?」とズバリ聞いてみた。
「うん…、そうなの」申し訳なさそうな声が、受話器から聞こえてくる。
前に聞いた事がある。誰に告白されても断り続けているのは、ずっと好きな人がいるからだと。
「そっかぁ…どんな人なのぉ?」ぼくは幾度と無く聞いた質問をもう一度してみる。
「それは、内緒って言ったじゃない…」彼女の声がだんだん小さくなる。
「そ、そっかぁ;;」教えてくれない。
何度も聞いているのだが…、なかなか教えてくれない。
「そ、そうだよねぇ!いくら親友でも簡単に教えられないよねぇ」
取り繕うように慌てて言いった。
「ぼくにも、思うところがあるから…」
明かりのついた勇也の部屋を眺めながら、ボソッと呟いた。
「えっ?翔太くんも好きな人いるの?」
綾香ちゃんはしっかり聞いていたらしい。
「あぁ~、ちがうよぉ!友達の話だよっ!うん!」
慌てたように誤魔化した。誤魔化されていてほしい。
「そ、それで…、綾香ちゃんはどうするのぉ?その人に告白するのかなぁ?」
軽く咳払いをしたあとで仕切り直し、話の路線を戻した。
「・・・・・」綾香ちゃんは少し間をおいて「実はね…」と、話を続けた。
「わからないんだ…名前」
「えっ??」思わず声が裏返った。
「ううん…名前どころか、学校もどこかわからないし…どの辺に住んでるのかもわからないの」
なんか泣きそうな声になってる?綾香ちゃん。
「えっ?どぉゆぅ事なのぉ?」…でも、聞かずにはいられなかった。
「前にね、街で出会った事あるの」
好きな人とだろうか?それから綾香ちゃんは何も言わない。しばらく静寂が続いた。
「えっ??えっとぉ~、それだけ??」また声が裏返っちゃった。
「うん、それだけ…かな」
「えっとぉ~」なんて言えばいいのか思い浮かばない。
「中学校入る前だったかなぁ、街で助けてもらったの」
なんて言ってあげるべきか悩んでいると、綾香ちゃんがそう言ってきた。
「たしか、お母さんとはぐれて迷子になってた私を…その人が案内してくれたの」
それだけ聞くと良い人っぽいかな。
「えっとぉ、その人とは?」
「うん、それからは会えてないの」相変わらず声がしょんぼりしてる。
「え?それじゃぁ、その時の一目ぼれを今でも引きずってるってことぉ?」なんという純情だろうか。
「うん、そーゆう事になるの…かな」
うーん、でもそれじゃぁ…
「むずかしくないかなぁ~?今、その人どうしてるかわかんないんでしょ~?」
素直に思った事を口に出してみた。
「そう、なんだよ…ね」
「そうなんだよね、じゃないよぉ~。他に覚えてることないのぉ~?」
言い方は悪いが、そんな事では今までにフラれた人たちが可哀想である。
「うーん、そうだなぁ」と、彼女は少しだけ考えている様子。
そして、「たぶん歳は私たちより下か、同い年ぐらいだと思う…かな」
「ふむふむぅ~」それじゃあ、今ごろ高校生くらいかなぁ?
「あとは、二人組で歩いてた…かな」受話器の向こうで「うーん…」と、唸りながら彼女は言った。
「ふたりでねぇ~」友達同士だろうか?
「あとは、その二人が男の子と女の子だった…かも」あら、可愛らしい。
「ふむふむぅ~、デートかなぁ?」素直に口に出してしまった。
「もう~、やめてよ~。縁起でもないな~」
ちょっと元気を取り戻したような声でうったえてきた。
「そ、そうだよねっ!好きな人がデートしてたとか、いやだよねっ!ごめんね!」
ちょっとデリカシーが無かったかな?気をつけよう。
「そうだよー、もう~」
「ごめんごめん~、でも今頃その男の子も格好良くなってるんだろ~なぁ~。素敵だよねっ!」
わざとらしく話題を逸らした。
「えっ?あ、うん…そ、そうだよねっ。そうだと良いなぁー!…コホコホッ」
電話越しに綾香ちゃんが咳き込んだ。
「綾香ちゃん大丈夫?」
「あー、大丈夫っ!麦茶飲んだら変なところに入っちゃってっ!」
なんか慌ててる?
「あっ、もうこんな時間っ!寝なきゃっ、明日学校だもんねっ!」
「え、あ、うん。そうだねぇぼくも寝ないと」
「じゃあ翔太くんっ話聞いてくれてありがとっ!明日学校でねー!」
「うん、綾香ちゃんも話してくれてありがとうね~。また明日ね~」
―――プープープー―――
切れた…
なんだろう、最後の方やけに慌てていたような…?
「ふぅ…」そんなため息が漏れた。
みんな恋してるんだなぁ~。
「・・・・・・」
ぼくは、どうなんだろう。どうしたいんだろう…。
―――「おせぇぞー翔ちゃんっ!はやくはやく~!」
――――「まってよぉ勇也くぅ~ん」
夢を見た。
―――「早くしないと観覧車乗れなくなっちゃうだろーっ」
――――「まってってばぁ~、勇也く~ん」
これはいつの頃だっただろう。
―――「ああーっ、こんなに並んじゃってるっ」
――――「はぁはぁ…はぁ、勇也くんひどいよぉ~おいてくなんてぇ~;;」
―――「翔ちゃんが足遅いからだろー?そんな格好してるからうまく走れないんじゃないかー?」
――――「だってぇ~、ママがぁ…」
―――「翔ちゃんのお母さんってそーゆーの好きだよなぁ」
――――「うん!ぼくも好きだよっ!おめかしなんだってさっ!」
―――「おめかしねぇ、それより」
――――「うぅん?」―――「さっきの…大丈夫かなってさっ!」
さっきの?『さっきの』ってなんだろう?
―――「さっ、順番きたぞっ!乗ろうぜーっ」
――――「うんっ!手離さないでね。ぜったいだよっ?」
―――「はいはいっとー」―――
――――
―――
――
――――キーンコーンカーンコーン――――
今朝の夢は、なんだったんだろう?
たしか…ぼくのママと勇也のお母さんが、ぼくたちを遊園地に連れて行ってくれたんだっけ。
「―――太…」
「いつだったかなぁ…」
夢では勇也の事を君付けで呼んでたし、勇也だってぼくの事を翔ちゃんって呼んでた。
それに…『さっきの』って、何の事だったんだろう?
「うーん…」思い出せないなぁ。
「翔太…?」
思い出せないって事は、それほど大事な事じゃないのかも知れないなぁ。
「うーん…」遊園地…観覧車…勇也君…、なんだっけぇ?
「おーいっ!翔太っ!」いきなり大声が聞こえてきた。
「ん…?うあぁ!!」
窓の外から目を離して正面に向き直ると、勇也の顔があった。
「返事ぐらいしろよなーったく…、飯食いにいこうぜっ」ニカッと勇也が笑った。
勇也は今日も素敵な笑顔だ。
「勇也っ!いたなら声かけてよぉ~、もぉぅ~!」
顔が近いよぉ~///ドキドキするじゃんかぁ。
「声かけたさー、でもなんかぼーっとしてさ。いくら声掛けても反応なかったぞ?」
何度も名前を呼んでくれてたらしい。勇也に名前を連呼されちゃった///
「あっ、そうだったんだぁ。ごめんね~、で…何か用事だったぁ?」
「だからー、飯食いに行こうぜーって!昼休みだぞ?」呆れ顔で言われた。
「あっ!そ、そうなんだ。よし食堂いこ?勇也はまた学食?」
ようやく今が昼休みだと言うことがわかった。そんなにぼーっとしてたかなぁ。
「おう、お前も学食だろ?何食うんだ?」
「ぼくは今日、お弁当だよぉ」へへ~ん、女子力アップだー!
「お?珍しいな。、なんだぁ~、彼女でもできたか~?」
勇也がにまにました顔で聞いてきた。
「ちっ、違うよぉ~!自分で作ったのぉ!」彼女持ちとは、ぜったい思われたくないっ!!
「へぇ~、どうして急に?」ぼくの机に軽く腰掛けながら勇也が言った。
もうぅ~、そんなにじろじろ見ないでよぉ~。
「今日さ、変な夢見ちゃって。それで、早くおきちゃったから作ってみたの」
べ、別に勇也のためじゃ…無くは無いんだからねっ!!
「それで寝不足だからぼーっとしてたのか。怖い夢でも見たのか?」
心配してくれてる…のかな?そうだといいなぁ。
「怖い夢じゃないんだけど、ちょっと気になる夢かなぁ」
机に深く座り直して「へぇー、どんなのだ?」と聞いてきた。ドキドキする。お尻が近い。
動揺しながら「え、えっとね…」と思い出してみる。……あれぇ?
「どんな夢か忘れちゃったぁ」どんな夢だったっけ?あれぇ?
「なんだそりゃ、気になるんじゃなかったのか?」軽く勇也がこける。
「そうなんだけどぉ…、あれぇ?」
「まぁ、夢ってのはそんなもんだよなぁ。それより早く行こうぜ?時間なくなっちまう」
また勇也がニカッと笑った。この笑顔がぼくは大好きだ。
「そうだね、いこうか~勇也(ハート」語尾にハートを付けるのは妻の役目だと思う。
「…お、おう」勇也が机から飛び降りた。ちょっと残念。
大事な事なら、またすぐに思い出すよね!今は気にしないでおこうっとぉ。
・・・・・・
「ねぇ、勇也?」後ろから声をかける。
「ん、どした?」振り返らずに、勇也が返事する。
「なんかぁ…歩くの早くないかなぁ?」
どんどん前に進んで行っちゃう勇也。
「そんな事ないぞ?お前が遅いだけだ」
「そうかなぁ?」ぼくなんか軽く走ってるんだけど、勇也に追いつけない。
ぼくたちは早々にお昼ご飯を切り上げていた。
今は二人で教室に向かってる…んだけど。
「勇也、どうしたのぉ?何か急いでる感じがするんだけどぉ?」
勇也はいつもより早足で歩いてる気がした。それに…
「ご飯も急いで食べてたよね?ぼくのお弁当にまで手をつけて」
早々に自分のご飯を食べたかと思うと、ぼくのお弁当も半分まで減らしていた。
「ん~?ああ、悪い悪い。翔太が食べるの遅すぎたからさ」
「勇也が早すぎるだけでしょぉ~?」良い子はちゃんと噛んで味わって食べようね。
「お前の分まで食べたのは悪かったって。から揚げがウマかったからさ、ついな」
恥ずかしげもなさそうに、淡々とそんな事を言ってきた。
「もぉう~、照れるよぉ~。今度は勇也の分もちゃんと作ってあげるからね」
顔が赤くなっていくのがわかった。喜んでもらえて嬉しい。
「ん~?なんかいったかぁ?」相変わらず振り返りもしないで話しかけてくる勇也。
「もうっ!なんでもないよぉ~だっ」勇也は難聴系男子なのだろうか。
から揚げ好きなのかぁ~、覚えておこっとぉ~♪
「それより勇也~?これから用事?どこか行くところあるのぉ?」
勇也はやっぱり急いでるような気がする。
「ああ~、ちょっと行くところがあってなー…あ、やべっ」ハッとした様子でこちらを振り返る勇也。
あ、やべっ…って言ったよね?言ったよね?
「なにぃ~?どこいくのぉ~?ぼくもいきたーいっ!」ぼくは勇也の腰に抱きついた。
「あっ!こらっ、離せっ!歩きづらいだろうがっ!!」
ぼくの額に手を当てて押し戻そうとしてくる。
「ぼくも行きたいぃ~、つれてってぇ~><」
でも何故か、勇也の力はそれほど強くはない。力ありそうなのに。
「あぁ~、うっとうしい!は・な・れ・ろー!!」
でも本人は本気で嫌がってるみたいだ。
「やだーっ、どこいくのぉ~?隠し事よくないよぉ~」
引き離す事を諦めた勇也は、ぼくを引きずるようにして一歩ずつ歩いていく。
「良い子だから、まってなさいっっての!」
ぼくはずるずる引きずられていく。周りの生徒がそんなぼく達を不思議そうに見ている。
「えぇ~、ぼくも行くぅ~!連れてってぇ~><」勇也と昼休みを一緒に過ごすんだっ。
「あら?」と、ふいに知ってる声がした。
「翔太くん…何してるの?」
勇也がぼくを腰から引き離そうとしていると、見知った人が目の前でこの光景を見ていた。
「あっ、綾香ちゃんっ!」ぼくは彼女に声を掛けた。腰にしがみついたまま。
「え?」勇也はそれに反応して少し戸惑っていた。顔を彼女に向けようとしない。
彼女は不思議そうにこっちを見て、「仲が良いんですね」とクスッて笑った。
「そうなんだよぉ~、ぼくと勇也は仲良いんだよぉ~!」
勇也の腰から離れて、エッヘンってポーズをした。
「勇也…くん…?」綾香ちゃんは驚いたように勇也の方を見た。
「・・・・・・」
勇也も綾香ちゃんからは目を背けている。
「勇也、綾香ちゃんと知り合いなのぉ?」初めて知った。
「あ、あぁ…。まぁな」勇也は下を向いて答えた。
「そうなんだぁ~?あっ、でも綾香ちゃんモテるからねっ。変な事しちゃだめだよぉ?」
「ああ、そうだな…」なんか勇也の言葉に元気がない。
ん~???
ぼくが頭にいくつかハテナを浮かべていると「あっ、私これから友達と宿題の答え合わせする約束があるのっ」
と、綾香ちゃんが切り出してきた。
「じゃ、じゃあね。翔太くんと…勇也…くん」綾香ちゃんもなんか変だ。
なんか、友達って感じとは…、違うのかなぁ?
「うんっ!じゃ~ね~、綾香ちゃんまたねぇ~!!」
疑問はあったけど、いつもどおり手を振ってバイバイした。
「・・・・・・」
勇也は最後まで彼女と目を合わせなかった。
「ねぇ、勇也~?綾香ちゃんと何かあった?」小さな声で勇也に聞いてみた。
・・・・・・
ほんの数秒だけ間が空いてから「いや、なんもねー。、俺はお前みたいに誰彼問わず懐かないからな」
勇也はそう言ってニカッて笑うけど、どこか元気が無いような気がした。
「知り合って間もないから、人見知りってやつだよ」
「勇也って人見知り激しいっけぇ?」人懐っこくない方ではあるけど。
「激しいんだって。お前が知らないだけだ…よっと!」「あいたっ!」
そういうと額めがけてデコピンされた;;
「もうっ!なにするのぉ~?」涙目になった。
「お前がいらん詮索するからだよ」
ニシシッと勇也が笑った。いつもの勇也に戻った…のかなぁ?
「だってぇ~、綾香ちゃんがぁ…」と言いかけて「お?それより拘束解いてくれてありがとなっ!じゃあ、俺いくわっ!」
と言って勇也はビューンって走って行ってしまった。
「もぉ~、廊下は走ったらだめなんだよぉ~!」
走り去って行く背中に向かってそう叫ぶと、勇也は片腕を軽く上げて角を曲がって行った。
「あれは…部室棟の方?」何の用だろ、勇也って部活してないよね。友達でもいるのかなぁ?
「ま、いっかぁ~」何してたかは後で聞こうっとっ。
勇也と一緒じゃないお昼休みなんて久々だなぁ~。
「…なにしよう」することがない。
とりあえず、昼休みの喧騒とした雰囲気の中を散歩してみる。
ぼーっとしながらいろんなクラスを覗いて歩く。
体育館の方からは、バスケットボールをしているような、ボールが板張りの床にぶつかって跳ね返る音がリズム良く響いている。
とても遠くで聞こえている。そして、ある事に気付いた。
「この学校、こんなに広かったっけ…?」
いつもより廊下がやけに長い感じがする。廊下の端から端がとても遠い。
「一人…だからかなぁ。いつもなら…」
いつもだったら勇也と歩いていて、話しながらだから短く感じてるのかも知れない。
そんなことを考えていたら「安田くんっ安田くんっ!」と、後ろから声をかけられた。
振り返ると一人の少女がいた。
「安田くんっあのねっ、聞いて欲しい事があるのっ!」
ぼくと同じくらいの背丈をしていて、髪をヘアゴムをちょこんと結んでる。
「ん~?さゆちゃんどうしたのぉ~?」
大きくて赤いアメ玉が二つ付いたようなヘアゴムが、彼女曰く「さゆのトレードマーク!」らしい。
彼女の名前は宮島沙由子ちゃん。ぼくのクラスの隣、2年6組の娘だ。
あかりちゃんと同じ女子バスケットボール部。少し小柄でバスケをするには少し不利な身長である。
あかりちゃんとは仲が良いらしくて、師弟関係(あかりちゃんは否定してる)らしい。
ぼくに妹がいたらこんな妹が欲しかったかもしれない。
そんな可愛らしさもあって、周りからは「さゆちゃん」と親しみを込めて呼ばれている。
ちなみに彼氏持ちで、いつもは彼氏さんと一緒にいる時間のはず…なんだけど…。
「あれ、さゆちゃん?今日はだーりんさんは?一緒じゃないの?」
学校でさゆちゃんが一人でいる事は珍しい。登下校も休み時間も、二人でいる事がほとんどだ。
「そうっ!そのことで安田くんに相談があって…!」
相談事というわりには、いつもと同じように元気いっぱいだなぁ。
「ん、ぼくに?クラスの娘とかじゃだめなの?」
女子の相談事は女子にするべきだと思うんだけどな。
「そうなんだけど、だーりんの事で相談があってさっ!だーりんは男でしょ?男の事は男に相談したほうがいいかなぁってっ!」
「あぁ~、なるほどぉ」何がなるほどなのか、自分でもよくわからないけど。
「うんっ!それでねっ、最近だーりんが怪しくてさっ!」
両足で軽くぴょんぴょんしながら喋るさゆちゃん。彼女はじっとしていられない性格らしい。
「あやしいって、何があやしいのぉ?」揺れている彼女の髪の束が気になる。
「うん、それがねっ!浮気してるんじゃないかってにらんでるのっ!」
何のためらいも無く、元気いっぱいに彼女は言った。
「え、う、浮気っ?」彼女よりぼくの方がオドオドしてる。
そのだーりんさんってのが、ひとつ年上の三年生。
なんでも…ぼくたちが入学した時にさゆちゃんを見て一目惚れをして、それ以来ずっと恋人同士って事らしい。
もちろん告白したのはだーりんさんの方から。
入学したばかりで、不安な気持ちいっぱいなさゆちゃんの懐につけこんだ…って言えば聞こえは悪いけど…。
そんなさゆちゃんの面倒を、いろいろと見てあげてたって感じかなぁ。
恋人っていうよりは、優しいお兄ちゃんって感じかな?どっちかって言うと。
「信じられないよぉ~。だって、だーりんさんってさゆちゃんにメロメロだって聞いてるよぉ?」
「そ、そうかな?そんな風にみえるのかなっ!」少し嬉しそうなさゆちゃん。
「そうだよぉ~?それに、だーりんさんの変な噂なんて聞いたことないよぉ?」
さゆちゃんとだーりんさんは、校内で1、2を争うラブラブカップルとして有名なのだった。
「そうなんだけどさっ!この前ねっ?」と、さゆちゃんが言いかけてから「その前にっ!場所移ろっか、立ち話もなんだし」
さゆちゃんが提案してきた。さゆちゃんの元気な声は良く通る。廊下だと全校に聞こえるレベルじゃないかな。
「そうだねぇ~、じゃあぼくの教室くるぅ~?自分の教室じゃちょっとあれでしょ?」
廊下よりは教室の方がいいだろう。
本当はあかりちゃんにも聞いてもらいたいんだけど、お昼休み始まった途端に何処か行っちゃったしなぁ。
さゆちゃんとあかりちゃんは小学校からの幼馴染らしい。ぼくと勇也みたいなもんかな。
「そうだね、お邪魔しようかなっ!」ぼくの提案に片手を挙げて賛同するさゆちゃん。
「じゃあ、いこっ。早くしないと休み時間おわっちゃう~」
ぼくは自分の教室に歩きだした。
「うんっ!」
さゆちゃんもトテトテと効果音が付きそうな感じでついてきた。
ヘアゴムで結んでる髪の毛が小刻みに揺れていて、とっても可愛い。
だーりんさん…どうしたんだろ?こんな可愛い娘が彼女なのに、浮気とかどーゆー事だろ?
――――
―――
――
こうしてこの日のお昼休みは過ぎて行った。
結局、あれから勇也には会えずに帰宅。電話をしても出てはもらえなかった。
「勇也ぁ…どうしちゃったんだろぉ?」
夕食後に自室のベッドで横になってそんな事を考えながら、だんだん意識が薄れて行った。
各キャラの立て方がむずかしいです。あとは文章力あげないとだめですねー。
次回もよろしくです。