第一話②
「勇也ぁ~!はやくはやくぅ~^^」
勢い良く前を走ってたかと思うと、急に振り返ってこちらに手を振ってくる。
白いワンピース姿の美少女…もとい俺の『男』友達である翔太。
「なぁあかり、翔太にあの格好させるのは…さすがにまずくないか?」
「あらそう?似合ってて可愛いじゃない」
平然と言ってのけるあかりさん。そこに痺れたりはしないんだがな。
「いや…似合う似合わないの問題じゃないと思うんだが…」
どちらかと聞かれたら…似合っている!とてもっ!
「勇也はあーゆう服装の子は嫌い?今度は勇也好みにおばちゃんがこーでねーとしてあげよっか?」
昔はよく女の格好ばっかしてたなぁ翔太は。あとな、あかり…、
「コーディネートだからな?お前本当に女子高生か?」
ババくさいというか、すでにおばあちゃんである。
「あらやだっ!こんなピチピチでナウなギャルをつかまえて何言ってんのさー」
あかりが講義した。とは言ってもだなぁ。
あかりは『あらやだモーション』で、しかも死語連発である。
―――説明しよう。あらやだモーションとは、奥様方が井戸端会議などで『あらやだぁ、もう~奥さんったらっ』などと言う時に、
良く使用している手首のスナップを活用した『あの』モーションの事である。―――
「それよりほらっ、翔太ちゃんがお呼びよ?行ってあげなくていいの?」
「そうだな、一人で突っ走られたら危ないもんなぁ翔太のやつ。あの容姿でドジっ子とは…」
実に反則的である。誠に遺憾である。
「ほらあかりっ、いくぞ!俺らが両サイドにいないと不安だからな」
あかりにも少しは翔太の事を見習って欲しいものだ。
とか思いつつ翔太の側に駆け寄ろうとすると、「あんた今失礼な事考えてない?」とか言いってあかりも駆け足になった。
こいつ能力者かっ!!何系の能力者だ?
今日は日曜日で、俺と翔太とあかりは中心街に遊びに来ている。
俺の隣では翔太とあかりが「あのお店かわいい」だの「こっちの服かわいい」だのと、
いろんな店を物色しながら仲睦まじくキャッキャしながら歩いてる。
実は最近元気がない俺を気遣って、翔太とあかりが俺を遊びに誘ってくれたのだ。
翔太ならともかくあかりにも気遣われるとは…そんなにわかりやすいかなぁ。
「勇也ーこっちー、この服どうー?」
呼ばれたのであかりの方に駆け寄ると、あかりが可愛らしい向日葵をあしらったワンピースを手に取っていた。
「勇也これ可愛くない?イケてない?似合うよねー?」
あかりには少し可愛すぎると思う。あかりはスポーティーだからなぁ。
「うーん…あかりには…ほら、こっちのボーイッシュなほうが…」
こっちはあかりに似合いそうなワンポイントに朝顔をあしらったシャツだ。
「ちがうー、わたしがこんな可愛いの着るわけないでしょー?」
自分が何系女子かは把握してるみたいだ。え?じゃあ誰?プレゼント?
「翔太ちゃんよー翔太ちゃんっ、似合うかな?」
「あー、翔太には似合いそう……。いやまて、男に似合うも何もあるかっ」
ナチュラルに肯定するところだった。あぶないあぶない。
「えーっ、似合うと思うけどなぁ。ねー?翔太ちゃん?」
「うん~ぼくこれ気に入ったかもぉ~」ん?翔太の声がするけど…何処だ?
俺が翔太の声の出所を探っていると…
「翔太ちゃんできた?あけるよ~」と、あかりがニヤニヤしながら言った。
「うんいいよ~、あかりちゃん」それに返事する翔太の声。そして、
あかりの調度後ろにあった試着室のカーテンがガバッと開かれた。
・・・・・・
「ど、どうかな勇也?似合ってるかなぁ?」
翔太があかりの持っているものと同じワンピース姿で現れた。
俺があかりと一悶着してる間に翔太は着替えていたようだ。
「へん…かな?;;」俺が呆気にとられていると不安そうに翔太が言った。
顔が少しずつしょんぼりしていくのがわかる。
「す、すっごく似合ってるよ翔太!可愛いよ」
勢いで言ってしまった。若干の本音を…。
「ほんと?ぼくこれ買うよぉ♪」顔がぱぁっと明るくなる翔太。
ハッ…!!俺は今何を口走った?
俺が焦っている隣では、あかりはニヤニヤしてる。このやろう。
と、不意に翔太が上目遣いで…とんでもない事を頼んできた。
「あのね勇也ぁ、うしろのチャックがしめられないの><しめてくれる?」
だから上目遣いをや・め・ろ!俺の理性よ、がんばれっ!
「はいはい、後ろ向いてみ?しめてやるから」しめてやる俺でありました。ちくせう。
その光景を見ていたであろう店員やら客やらの声が、俺に襲い掛かってきた。
「やだあの子可愛い、彼氏におねだりしちゃってる~」
「こんなところでイチャつくなっての」
「あの二人かわいい~、付き合いたてかな?ねぇ今度わたしのもしめてよダーリン?」
「そうかい?ハニーのためなら喜んでしめるよっ!あの彼氏に負けない手つきでねっ」
「いやんっ、ダーリンったらぁ~」などといろいろ聞こえる…何プレイだこれはっ!
第一あかりが隣に…あれ?いねぇ!!あいつ計ったなっ!!
絶対面白がってるに違いないあかりさんでした。ってかそこのダーリンとハニー!お前らこそよそでやれっ!!
「もう昼かー腹へったー」
買い物も一段落ついたところで、近くあった公園のベンチで休憩していた。
時計を見ると、もう昼の12時を回っている。
「翔太ーあかりー?何食べる?」俺が二人に昼食どうするかを尋ねてみた。
「えっと・・・このワンピースが1980円・・・このシャツが・・・」
なにやら翔太は自分の買ったものをチェックして手帳に何か書き込んでいた。
「おい翔太何やってんだ?」ってか荷物ありすぎじゃね?
「ん~?これぇ?へへぇ^^お小遣い帳だよ♪」エッヘンとドヤ顔だった。
お前は良い主婦になるよ!男じゃなければな!
あかりは隣にある自動販売機で飲み物を選んでいた。
「お前ら飯どうするー?」もう一度聞いてみる。
「ん~、ぼくはなんでもいいかなぁ~勇也といっsy」
「そ!そうかっ!あかりはなにがいい!?」
その先は言わせはせんぞ翔太!言わせはせんぞっ!!
「むぅう~>3<」翔太がムスっとなっている。
「もうお昼かー、そうだなー…あっ!」
緑茶を飲みながら何かを閃いたご様子のあかり。
「カラオケいこうよっ!私、新曲歌いたいのよねー」
あかりはエアマイクを持って、歌っているようなポーズをした。そのコブシ…演歌か?
「カラオケ?飯はどうするんだ?」余計に腹減るんじゃないか?
「カラオケるーむで食べればいいじゃない。おばちゃんポテトくらいならおごっちゃうぞ♪」
と人差し指を口に当てて見せるあかり。
そのポーズも何か古い気がする。そしてカラオケルームぐらいカタカナで全部言おうよ。
まぁでも良いかも知れない。最近行ってなかったからな。
「じゃあ、そうするかっ!翔太もそれでいいか?」
「ぼくもそれでいいよぉ~!勇也といっsy」
「よしっ!!決まり!じゃあ行くか!!」言わせねーよ?
「・・・>3<」翔太が頬を膨らました。あら可愛い。
「ふぅー、歌った歌ったー」
近くのカラオケ店に入ってから一時間くらいが経った。
「あかりちゃん歌うまいね~!いいなぁ~!」
「そう?翔太ちゃんも上手よ?翔太ちゃんの歌声初めて聞いたかもね」
「そういえばそうだね~、ぼくあまりカラオケこないからぁ~」
「それにしてはラブバラードとかすごい上手だと思うなー、何かコツでもあるの?」
「そうだなぁ~、好きな人を思って歌うことかなぁ~///」チラッ
おいっ!今俺の方見なかったか?気のせいか?
「そうなんだー……ん?翔太ちゃん好きな人いるの?どんな人?ほれっ話してみそ?ほれほれっ」
「えぇ~やだよぉ~、今度じゃだめぇ~><」
「うーむー仕方ないなぁ、じゃあ今度教えてね?」
「うんっ、がんばるっ><」
一段落したら女子トークが始まる…何処のグループもそうなのかね~。
そして俺はおいてけぼりっと…本来なら翔太はこっちサイドなんだがなぁ~。
仲良いのは良いことなんだが、なんか腑に落ちない。
「俺トイレ行ってくるわ、食べ物テキトーに注文しといて」とおもむろに立ち上がった。
「あいよーいってらっしゃーい」
あかりが返事してきたので部屋を出ようとすると「あっ!ぼくもいくよぉ~、まってぇ~」
トテトテと翔太もついて来た。その瞬間をあかりは見逃すはずがなかった。
「おーおー、二人でふけちゃうんですかー?ごゆっくり~」
あかりがにやにや声で茶化してきた。勝手にいってろ…ったく。
トイレの前までくるとごく自然に…それが普通と言わんばかりに、翔太が女子トイレに入ろうとした。
「おいまてっ、何処行く気だこのやろー」翔太の首に後ろから軽く腕をまわす。
「うぇっ…もう~、なにするのぉ~」涙声で抗議してきた。
翔太以外の男なら思いっきり首を絞めにかかるのだが、翔太相手だとなぜか力が入らない。
「なにするのぉ~、じゃねーよ。お前は『男子』トイレだろうが」
何でナチュラルに、何のためらいも無くそんな事ができるんだ。
「あっ、いっけないっごめんごめん!いつもの癖でついぃ~」テヘッ
と、自分の頭を軽く殴る男が目の前にいた。
二箇所ほど突っ込みどころがあるんだがいいだろうか。
「リアルでテヘッとかする奴初めてみたぞ、おい…」
それと『いつもの癖』ってなんだ『いつもの癖』って!学校とかではどうしてるんだー!!
とはさすがに聞けない…怖いから。翔太…恐ろしい子っ!
男子トイレに二人で入った途端、おもむろに翔太は個室に入った。
「翔太ー、そっちのほうかー?」と声とドア越しに声をかける。
すると個室から声が聞こえてくる。
「ちがうよぉ~、変な事聞かないでよぉ~えっちぃ~」
俺ってば変な事聞いたか?えっちなのか?なんか腑に落ちない疑問で悶々とした。
翔太が個室のドアを閉めて間もなく…。
―――ジャァ―――
と、水を流す音が聞こえる。翔太早いな…とか思っているとまた、
―――ジャァー――
と、水が完全に止まる前にまた流れた。何してんだ?翔太のやつ。
―――ジャァ―――
また流れた…謎だ…翔太にはまだ謎がたくさんある。
しばらくそれを繰り返した後、翔太の声がまた個室から響いてきた。
「ねぇ~勇也ぁ~、ひとつ聞いてもいい~?」
「んー?なんだー?」俺は用を済ませていたので、手持ちぶたさに応えた。
「あかりちゃんには、あの事しゃべっちゃだめ…かなぁ?」
無論ここで言うあの事とは、俺がフラれた事だろうな。
「なんでそう思ったんだ?」俺が聞き返す。無断で喋らないだけ翔太は律儀なやつだ。
「あかりちゃんてさぁ~、ぼくたちの次に長いつきあいじゃない?」
「ん…まぁ、そーだな」俺と翔太があかりと出会ったのは、中学校に入りたてだった頃だ。
俺と翔太は違うクラスでありながら、良くどっちかの教室で一緒にいた。
小学校からの友達もお互い居たのだが、長い付き合いの中ではわりと自然にそうなってしまっていた。
それに環境が変わり、知らない生徒が増えて心細かったせいもあるだろう。
そんな中であかりは俺達に声をかけてきた。
―――ねぇ、あんたたち付き合ってんの?
それが俺達に向けられた第一声だった。
彼女は入学してすぐ女子バスケット部に入り、早々に有名だった。
運動神経抜群の女子が女子バスに入った…と。
翔太はその事を知らないようだったが、俺は知っていた。だから彼女に言った。
「有名人が俺達に何のようだ?」
翔太はオドオドしていた。翔太らしい反応だな。
「質問してるのはこっちよ?で、付き合ってんの?」
俺は一瞬翔太の方を見てから、少し笑いながら「お前の目は節穴か?良く見ろこいつ男子制服だろうが」
だけど彼女は平然とした態度で「そんなの見りゃわかるわよっはじめから男だって知ってたわ」
「だったら、なんでそんな事聞くんだ?」
「知らないの?最近は同姓同士で付き合ったり、女の子が男装したりするのが流行りなんでしょ?それに…」
とんでもない事を平然と言ってくる女である。
「「それに…?」」俺と翔太は声を揃えて聞いた。
彼女はビシッっと翔太を指差して
「あなた男の娘でしょっ最近流行りのっ!!付き合ってるんでしょっ!!??」
「ちょっおまっ」俺が静止しようとした時には遅かった。
教室中に…いや廊下…はたまた隣の教室にまで響くような声で彼女は言い放っていた。
翔太は突然の出来事に小刻みに震えだした。こいつ怯えてる。
「ちょっとこっち来いっ!」俺は少し気掛かりだったが翔太をその場に残し彼女の手を引っ張ってクラスを出た。
「ちょっとまってよー!なんなのよいきなりー!」
女はギャーギャーわめき始めた。やっかいなのに巻き込まれた。
「なんなのよいきなりー!はこっちの台詞だ!いいから来いっ!」
「わかったわよー、いくーいくからー」
人気の無いところまで来てようやくその手を離した。
「ここまでくればいいか」
「もうっ!なんなのよっ!どうしたわけ?」
この女は自分のした事を棚に上げておいて、何をいってんだ?
「それはこっちの台詞だっての、何のつもりだっ?」
しかしなるべく彼女を刺激しないように、できるだけ柔らかく俺は言った。
「え?えっとー……あ!!」
彼女は口どもっていたかと思うと急に大声をあげた。
「な、なんだよ急に大声だして」ビクッてなっちゃったじゃないか。
「いやー自己紹介まだだったなぁ…っと」
彼女はバツが悪そうに言った。しかし俺は知っている彼女の名前を。
「星野あかりだろ?」なるべく刺激しないように…爆発物を扱うように名前を口にする。
「そうっ星野あかり……って何で知ってるわけ?」
驚くこともあるまいに、学校中が知ってると思うぞ?
「ちょっとした有名人だろ?女子バス期待の新人だってさ」
「あらやだっ、期待の新人なんて照れるわー//」
なんともリアクションがオバサンくさい女である。
「で?期待の新人が何の用だ?」
「もうっ、水臭いなぁ…わたしの事はあかりって呼んで?あ・か・り」
言い回しがいちいち年代を感じるんだよなぁ。
「あ、ああ…じゃあ俺は立ばn」「立花勇也くんでしょ?知ってるわよー」
自己紹介しようと思ったけど、その必要はないみたいだ。
「え?何で知ってるんだ?」俺、何かやらかしたっけなぁ。遅刻しすぎ…とか?
「そりゃー有名人ですものー、彼女さんは安田翔太くんよねー?」
「彼女じゃねー!!」何言い出すんだこいつっ!
「あなた達は有名なのよー、いつも一緒にいる男同士のカップルがいるってね」
「スルーすんなーっ!それにカップルじゃねー!」
「それに彼女の方は、花も恥らう乙女顔負けの容姿だっていうじゃない?」
「だから彼女じゃねーっ!!」
不毛なやり取りが続く…。本当に何なんだこいつ。
「あーはいはい。お友達ね?お・ほ・も・だ・ち」
「おい、今一文字違わなかったか?」「気のせいよー、勇也くん」
なれなれしいなぁ、今日初対面だろ?
入学早々変なのに絡まれちゃったなぁ。
こいつといると疲れる…翔太大丈夫かなぁ。っと、本題を忘れるところだった。
「で?俺達に何のようだって?」
埒が明かないので俺から切り出してみる。俺って偉い。
「そうなのよー、二人にお願いがあってね」
「ん?お願い?なんだ?」
教室での一連の言動はお願いをしに来たやつの態度じゃなかったぞ?
「えっとねぇ、わたしと…」なにやらもじもじし始める彼女。
この展開…もしや、俺そんなにモテてるのかぁー。まいったなぁ。
「友達になってほしいのよ」
「へ?」変な声だしちゃった。友達…か。少し残念。
「あっもちろん、翔太くんも一緒によ?だめ?」
何を言い出すかと思えば友達になってくれだと…?
「いや…そりゃ、入学したばっかりで友達増えるのはありがたい事だが…」
知り合いが増えるのは嬉しい事なのだが、引っかかる事がある。
「そうでしょー?こんな美少女と友達になれるなんて、あなた達ラッキーだよ?」
いやたしかに、見た目は可愛いかもしれないが……。
素直に疑問を投げかけてみる。「一つ質問いいか?」
「どうぞー、友達の疑問にズバっと答えちゃうぞ♪」
少し前かがみになり、人差し指を唇に当てて彼女は言い放つ。
やっぱり年代を感じるんだよなぁ…。
「じゃ、じゃあ遠慮なく。なんで俺達なんだ?俺達部活に入ってるわけでも無いし、期待の新人の役には立てないぞ?」
まったくその通りだと思うのだが、どうだろうか?
「もー、あなた何聞いてたの?さっき行ったよね?最近流行りの同姓カップルがいるって有名だって」
いや、カップルじゃないのだが…。
「まぁ仕方ない。そのクエッチョンにはスーパーヒサシ君人形を添えて答えてあ・げ・る♪」
今時の女子中学生の間では古風なネタとかが流行ってるの?
「私ね…最近の流行りとかブームとかモーメントとか良く分からないんだよね…それって今に生きる若者にとって、致命的だと思うの。」
「ほほう…」じゃあいちいち年代を感じさせてる自覚は、あるの…かな?
それにしたって限度ってものがあるだろう。へたしたら俺達が生まれる前のネタあったぞ?
あとモーメントは少し違わないか?
「だからね、今流行りの同姓のカップル…しかも彼女は男の娘、っっって……いうじゃなぁぁ~い?」
今聞きましたみなさん!?出ましたよっ!わかりますかっ!一世を風靡したなんちゃら侍ですよっ!!
今時このネタを聞けるとは思わなかった。生きててよかったぁぁああ!
あ…少し顔赤くなった。やっぱり恥ずかしかったんだね。この子に恥じらいがあってよかったぁぁああ!
「えっと……だからその、あなた達といれば流行りとかわかるかなぁって思ったの」
「あー…そー…」俺は遠くを見つめながら言った。
「えーっと…別に俺等は流行りに乗ってるわけじゃないし、ましてやカップルではないんだが…」
どこでそんな話が有名なのだ?何を根拠にそんなことを…。
「でもまぁ、百歩譲って翔太が可愛い男の娘ってのは…認めてもいいよ?」
許せ翔太っ!翔太はこの女と友達になってやってくれっ!骨は拾ってやるからっ!!
あいつならこの女とも仲良くやっていけるだろう。俺には無理だ。
「そうだよね?翔太くんは流行りに乗ってるよね?友達になるべきだよねっ?」
彼女は目をキラキラさせている。お星様いっぱい。
「ま、まぁそうだな、あいつも友達が増えれば喜ぶんじゃないかな」
「そうだよねっ、よかったー!勇気出してよかったぁ」
勇気を出した結果があの教室での騒ぎだったのか…なんと恐ろしい勇気。
「じゃあ、ハイっ!」と、彼女は俺に手を差し出してきた。
え?なにこれ?商談成立?翔太は売られていーくよー?
「ハイっ!友情の握手しよ?今日からあなた達は友達ねっ」
にこにこして握手を友達の誓いを求めてくる。この子普通に笑うと可愛いんだ。しかしだまされないぞ?
「俺はいいよ。翔太と仲良くしてやってくれ。」と言いかけて…
―――キーンコーンカーンコーン―――
―――キーンコーンカーンコーン―――
予鈴がなった。
「あーもうホラっ握手っ!!」「あっ!ちょっ!」
彼女は俺の手を強引に掴み、もう片方の自分の手と握手させた。
「あぁーー!何勝手にしてるんだー!!」
「つべこべ言わないのっ!ホラっ行くよ?授業始まっちゃうっ」
彼女は俺と強引に握手を交わすと、一目散に自分の教室に帰って行った。
勘弁してくれよー。心の中で嘆きながら俺も自分の教室へとダッシュした。
余談ではあるが……、
教室に差し掛かった時に、翔太が教室から飛び出して来て…俺を見つけるや否や泣きついて来た。
それを隣の教室から覗いてにやにやしてた星野あかりの姿が一瞬見えた。
やれやれだと思いながら翔太をなだめて教室に入ると…
「やっぱお前ら付き合ってたのかっ!」
「やーんっ、翔太くん彼氏に泣きついちゃって可愛い~!」
「噂は本当だったんだねっ!ねぇダーリン?わたし達も負けないようにしないとねっ♪」
「もちろんさハニー!俺たちもたくさんラブラブしようっ!」
などと、いろいろな黄色い声をもらった。
俺は深くため息をついて、今後の中学校生活への不安を抱えたのであった。
今思えば凄まじい出会いだったような、そうでもないような感じである。
「ねぇ~勇也ぁ~、どうかなぁ?あかりちゃんなら力になってくれるかも知れないよぉ~?」
う~ん…確かに、あかりは変なやつだけど俺や翔太の不利益になる事はしないやつだしなぁ。
それに相談できるやつは少しでも多いほうが良いのかもなー。
「この前ね~あかりちゃん心配してたんだよぉ~、勇也が元気ないってさぁ;;僕に相談してたよぉ~」
ふむ…あかりなら話してもいいかもな!よしっ!
「あかりに話してみるかっ!あいつに話せば少しは気が紛れるかも知れないしなっ!」
「よかったぁ~、じゃあぼくが話しておくぅ?」
「いや、俺の事だし自分で話すよ」
「そう?何かあったらすぐ言ってね~?」
「おう!ありがとな」
―――バタンッ―――
すると、翔太が個室から出てきた。
「やけに長かったな。大か?」俺は何の考えも無しに、流れる用に聞いた。
……トイレだけにな。すると、翔太はわなわなと顔を赤くした。
「ば、ばかぁ!ちがうよっ!!とっくに終わってたのぉ><話してたからでしょぉ~?」
まずい事聞いちゃった…のか?
翔太はスタスタと先に出て行ってしまった。と思ったら、急に振り返って。
「あっそぉいえば~あかりちゃんが言ってたよぉ?」
少し意地悪な顔をしてこう言ってきた。「ん?なんてだ?」
「もし、勇也が女にでもフラれてたら…からかうネタが増えるなぁってさっ」
ちょっ、それって弱みを握られるって事じゃ…。
「それを聞いてぼくも、な~るほどぉって思っちゃったぁ。へへぇ~」
にこにこしやがって…こいつぅ…。
「へへぇ~、じゃねーよっ!それは勘弁っ!」
俺が翔太を捕まえようとしたら「さっ、いこ?勇也~^^」
と言って、俺の手をヒラリとかわして先に行ってしまった。
「あーもう、なるようになれだ!」頭を少し掻いて俺もその後につづいた。
俺は翔太を追いかけるようにして、カラオケルームに戻った。
いつの間にか日が暮れていた。
あれから飯を食い終わった後、二時間ほど歌いまくった。
さらにカラオケ店を出た後で、また二人の買い物に付き合わされた。
まぁ、午後からの買い物はほとんど店を見て回るだけのウィンドウショッピングだったのだが。
女と言うものは何でこう何件も見て回るだけの事を、何時間も平気な顔して出来るんだ?
しかも、俺は二人分の買い物袋を両手に持っている。くたくたである。
今は帰り道で「いい加減帰ろうぜ」と俺の言葉に二人して腕時計を見て、
「たいへんっ、もうこんな時間!早く帰ろうっ!」とあかり。
「うぅ~、パパとママが心配しちゃうよぉ~;;」と翔太。
二人は俺が切り出すまでずっと、店を回ってるつもりだったのだろうか。
女の体力恐るべし。※男の娘も含む
トボトボと歩いている俺の前を、女子二人(翔太含む)がまだまだ元気があるよっ!と言わんばかりに歩いている。
学校での出来事や今晩の夕食が何かなど、とても他愛の無い話に花を咲かせている。
元気だな…っと、二人の微笑ましい姿を後ろから眺めていると…分かれ道まで来た。
俺と翔太の家はこの丁字路を右に、あかりの家は左に進むと着く。
翔太が一瞬こちらへ振り返って、俺を見た。
わかっているさ翔太っ!この丁字路が俺の運命の分かれ道!っていうのは大げさか…。
俺は小さく翔太に頷くと、意を決して切り出した。「翔太っ、俺はあかりを送っていくよ」
その言葉に一瞬だけビクッっとして、チラチラこちらを見ながら翔太もつづいた。
「え、あっうん!そそその方がいいねっ!そ…そのく、暗いしねっ!」演技下手かっ!
実にオロオロして挙動不審であった。
「…勇也、どうしたの?熱でもある?コキ使いすぎた?勇也がこんな優しいなんて…」
あかりがこちらに振り返り、首をかしげていた。街頭に照らされた顔が妙に色っぽい。
「なっ、なんでもないよっ!なぁ翔太?女の子に一人で夜道歩かせる訳にはいかないしさ」
少し見とれてしまった事を振り払って、あかりに言った。
「そそそそうだよ、あかりちゃんっ!送ってもらいなよっ!ゆゆ勇也、ぼくの荷物ちょうだいっ」
翔太は俺から自分の荷物を奪い去った。こいつに演技は出来んな。覚えとこう。
「そーゆー訳だからさ、送ってくよ、あかり」
「でも、翔太ちゃんは?ひとりじゃ危ないでしょ?おばちゃんはいいから、翔太ちゃん送ってあげなよ?」
翔太の頭をポンポンしながら、あかりは笑顔で言った。翔太って、あかりからもこんな扱いなのか。
「ぼ、ぼくだって男の子だよぉ?ひとりできゃえれりゅもんっ!!」
あ、噛んだ。大事なところで噛む癖あるんだよなぁ、こいつは。
「そうねー、翔太くんは男の娘だもんねー。いつか親の手を離れちゃうのね…おばちゃんさみしいっ」
おもむろに空を見上げて、そんな事を言うあかりおばちゃん。俺もつられて見上げた。星がきれいだ。
「そうそうっ!ぼくは立派な男の子だもぉ~ん!」
エッヘンと両手を腰に当てる翔太。
な~んか、噛み合ってない気もするが…まぁいいか。あかりも納得してくれたみたいだし。
「じゃあな翔太っ、気をつけて帰れよ?」結局あかりは、俺に送られる事になった。
「うんっ!またねぇ~、勇也ぁ~あかりちゃ~ん!!」翔太は荷物が重いのか地面に置いて手を振ってきた。
「またねっ翔太くんっ、明日学校でねー」あかりが小さく手を振り、歩き出す俺たち。
俺が一瞬だけ翔太に振り返ると、「やりきったよっ!」と言うように翔太がブイサインした。
ああ翔太、良くやった。「お前には演技はもう頼まん」と言う意味を込めて小さく親指を立てた。さて、ここからが本題である。
「翔太くんも、立派になったわねぇ…。いつかお嫁に行っちゃうと考えると…泣けてきちゃうわぁ」シクシク
わざとらしく両手で泣く真似をしてるあかり。やっぱりお前が言ってたのは『娘』の方だったか。
「でも、こんな若い子と二人で一緒に帰るなんてー。何年ぶりかしらねー?生きてると良い事もあるもんねぇ~」
そういえば、あかりと二人きりって…あまり無いシチュエーションだよな。
「お前と俺は同い年だろうが、そんな事言ってるとモテないぞ?」
年寄りくさいあかりに、呆れ半分で言った。
「あら?私これでも一年に一回は告白されるのよ?知らなかった?」と、ケロッとして言うあかりおばあちゃん。
マジかっ…たしかに、見てくれだけはいいからなーあかりは。
そんな失礼な事をおもいながら、「ふーん」って感じで興味なさそうに返す。
「今なんて思ったか言って御覧なさい?^^」
そんな俺に対して、顔を覗き込んでこんな事を言ってきた。
やはり貴様っ!能力者だなっ!!それとその笑顔怖い。翔太の^^との違いはなんだ?
「それより…何か話があるんじゃないの?私に」顔を覗き込んだままのあかり。
読心術かっ!いや待て、俺の心の声が周囲にダダ漏れっていう可能性も…。
「えっ?あ、いやー…なんで?」と、オドオドしてしまう。
「見てればわかるわよ?わたしと話するために翔太ちゃんとグルだったんでしょ?それに…」
得意げに人差し指をクルクルしているあかりさん。デスヨネーあんな演技じゃバレますよねー。
「それに…なんだよ?」そんなあかりに、少し焦りながら聞いた。
「勇也が翔太ちゃんより私を選ぶのは、不自然だもの…。普段は真っ先に翔太くんと同じ方向に曲がるわよね?」
た、たしかに。いやいや!あかりはリアル女だぞっ?じゃああれか?俺はいつも女より男を優先したって事かっ!!
男としては、何気にショックだぞ…。いやまてよ?
「いや、それは帰る方向が翔太と全く同じだし…なぁ」
翔太の家は、俺の家から調度斜め向かいである。
「まぁ…それもそうね、そういう事にしてあげましょ…。で…?」
前に向き直り俺より一歩先に出てから、確信に迫ろうとしてくる。
「で…?と申しますと?」シラをきっった。
「話があるんでしょ?聞いてあげるから、言って御覧なさいな?」
急に話せと言われても心の準備が出来てない。いやいやっ。元はと言えば俺が話そうとしてた事だ。しかしなぁ…。
「話すの話さないの?はっきりなさい」
またずいっと俺の方に近づいてきて、顔を覗き込んでくる。
腹をくくるしかないのかぁ。それとあまり前かがみになると、胸が見えますよ?
あ…、ぺたんこで見えない。
「んー??ほれほれー、すっきりしなさいなー^^」
その笑顔、何か怖い。ニコニコっていうよりニヤニヤだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
しばしの静寂が流れた。街頭に照らされているあかりの髪を、夜の風がサラサラとなびかせている。
えーいっ、俺も男だ!男らしくビシっといくぜっ!
「笑うなよ?あと内密にしろよ?」「はいはい、笑わないから」
その言葉に今まで何度も騙されているんだが、本当に大丈夫か?
「俺、この前…フラれ…たんだ…」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの沈黙がまた流れて「…フッ」とあかりが笑った。
「おいっ!今笑っただろ!!」ちくしょう、また騙された。
「フフッ…アハハハっ」「おいこら!!話がちがうっ!!」
こいつ、大笑いしやがったっ。許すまじ!!
「ハハ…あ…ごめんごめん、もう笑わないから」
涙目になるまで笑う事は無いだろ…。
「ごめんってばー、もう笑わないから…ね?」まだ顔が少しにやついてるな、こいつ。
うぅーむぅ、まぁ一度言ったからには最後まで聞いてもらいたい。正直な話。
軽く咳払いをして「続き…いいか?」と最後まで聞いてもらう事にした。
「う、うん…大丈夫、もう笑わないから」
あかりはにこにこしながら続きを待っている。
「じゃあ…俺さ、まだそいつの事好きなんだよ。出来ればもう一度告白して…いや、何度でも告白してでもっ」
「付き合いたい?」
不意にあかりが言葉を遮って来た。いつものあかりとは違う、マジなトーンだ。
「お、おう…つ、付き合いたい」
あまりに真面目なあかりの声に、思わず臆してしまった。
「どんな事して…でも?」
あかりは前方にある暗闇を見ていて表情は伺えないが、なんとなく目が真顔なんだな…と思った。
「あ、ああ、でも犯罪とかは嫌かな」
何か怖い雰囲気を漂わせるあかり。少しだけ動揺して応えた。そして、
「うんうん、そっかそっかぁ♪」あかりは急にいつもの調子に戻っていた。
張り詰めた空気がなくなり、あかりが笑顔でこちらに振り返った。
「その恋、私達が協力してあげよっか♪」満面の笑みであった。
え…?今、なんて言った?私達?『私』ではなく、『私達』って言わなかったか?
軽く混乱している俺に、あかりは笑顔のままつづけた。
「ようは、フッた相手にもう一度告白して恋人同士になりたい。そーゆう事でしょ?」
ずいずい顔を近づけながら、あかりは言った。ってか、顔近いって!
「あ…ああ、でも口で言うのと実際やるのとではっ」と言いかけて遮られた。
「わかってるって♪そのための私達じゃないのっ」
また『私達』って…。どうやら空耳や言い間違いではないようだ。
「ほーらっ、どうするの?協力した方がいいの?しない方がいいの?」
顔が近いままで、応えを要求してくる。
「そりゃ、協力してくれたら、うれしいけど…」
正直な話、告白がうまくいくなら何だって良かった。
「じゃあ、決まりー!依頼受理っと♪」
あかりはスマホを取り出し、何か文章を打ってるようだ。えっ?依頼?何の話だ?
「よしオッケー!あ、期限とかある?いつまでに成功させたいーとか」
人差し指を軽く立てて、得意げにあかりが言う。
「え?ああ…、特にないけど…え、あ、うん」
人間って、混乱すると言葉が出なくなるものだな…と実感した。
「あ、えっと…でも、なるべく早い方がいいかな…なんて」
動揺を隠せないままで言葉を絞り出した。あかり相手にこんな思いをするとはな。
「了解っ了解っと♪」
やけにご機嫌なあかりさんであった。
「あっ、私この辺まででいいやっ。すぐそこだからさっ!ありがと♪」
軽やかなステップで駆け出すあかり。
「あ…ああ、気をつけてな…」その背中に呟いた。しかし
「あ、そうだっ!これ渡さなきゃねっ!ハイっ、あげるっ♪」クルッと引き換えしてきて何か渡された。
あかりが差し出してきたのは、長方形で手のひらサイズの紙切れだった。
なんだこれ。…ん?字が書いてある。あかりのフルネームと裏には学校の住所と…。
「校内の見取り図?」に赤い点が書いてある…地図?
「そうそうっ、お昼休みでいいから赤い点にその名刺をもって行ってみなさいなー。良い事あるかもよ~?」
やっぱり名刺なのかこれ。なんでこんなもん持ってるんだ?
「え…これ、何のために?」そう言おうとしたのだが、人差し指を口に軽く当てられて。
「いいからいいから~、あかりを信じて~」と言い残し、回れ右をして闇の中に走って行った…。
「…わけがわからないよ」
そうボソっと呟き、あかりの消えてった闇をしばらくの間見ていた。
「あ!あかりの荷物…」今日あかりが買ったものが入った紙袋を、俺は握り締めていた。
まぁ、良いか…明日渡すとして、帰ろう。なんかドッと疲れた…。
「その恋、協力してあげよっか……か」
もう見えないあかりの後ろ姿を眺めながら俺は呟いた。
翌日の昼休み
俺は昼飯を早々に切り上げて、昨日あかりが言っていた場所に行く事にした。
途中で「えぇ~、ぼくも行くぅ~!連れてってぇ~><」という翔太を振り切りやってきたのは、
「旧校舎?」
我が幸幌高校の旧校舎は、現在部活棟として使われている。
「そういえば、部活してないからここにはあまり来る事ないよなぁ」
渡り廊下を歩いて旧校舎内に入る。すると、さすが昼休みと言える雑踏が広がっていた。
廊下で玉蹴りしてる者ども、ドアを開けっ放しの教室でトランプしてる女子、雑談してる男女と様々である。
「へぇ~」とか思いつつ、名刺にある赤い点を目指す。
次々に階段を上り三階までやってきた。
三階には部室と呼べるものが無いらしく、教室のほとんどが物置になっているようだ。
「うへぇー、廊下まで物置かよ~」廊下にまで物は積まれており軽く障害物だ。
「えーっと、あそこの突き当たりの部屋かな?」
障害物を避けつつ目的の部屋の前まで着いた。
一応ノックはした方がいいだろうか。何もなかったらどうしよう。
まさか、あかりのいたずら…にしては手が込んでるか。
考えてても始まらないので、半信半疑のまま軽くノックしてみた。
―――コンッコンッ―――
「はいなー!開いてますよー!」すると、声が聞こえてきた。ん?聞き覚えのある声だ。
「失礼しまーす!」ガラリとドアを開けた。そこには……なんじゃこりゃ?
「え、えーっと…」何なんだこいつら。
部屋の中にはいくつかの机と椅子が会議室のように並べられ、窓はすべて遮光カーテンで閉じられている。そして周りには…
…三人…四人……五人の男女が気だるそうにくつろいでいる。
「えーっと…」俺が戸惑っていると
「どうしましたか?とりあえず、中に入って椅子にでも腰掛けて下さい」
俺に話しかけてきたのは、奥の机でパソコンをカタカタしていた男子生徒だ。
たぶん同学年かな?ネームプレートの色からすると…。
彼のネームプレートには青のシールが貼ってある。俺と一緒だ。つまり彼は二年生である。
同じように、一年生は赤で三年生は緑になっている。世代交代によってこの三色がループする仕組みだ。
「はぁ…失礼します…」恐る恐る教室の中に入っていく。
パソコンをしていた彼の向かい側に座ると…彼が周りの生徒を一喝した。
「ほらほらっ、君たち座って。お客さんの前で失礼ですよ?」
「「「「「はーいっ」」」」」と、くつろいでいた男女が一斉に動き席に着く。
見たところ一年生と二年生の集団なの…かな?
ここに俺を呼んだ本人のあかり…は、いないのか…。俺がきょろきょろしてるとパソコンの彼が、
「えっと、全部で8人分おねがいしますねー?」と、たぶん昔準備室であったと思われる部屋に呼び掛けた。
「はいなーっ、もうすぐできまーす!」
その部屋の奥から元気な声が聞こえてきた。
…ん?今の声、どこかで聞き覚えが…。それにノックした時と同じ声…?
するとガチャっと扉が開いて、中から制服にエプロン姿でお盆を持った…。
「あかりー?何してんだお前っ」
俺をここに招待した張本人、あかりさんご登場である。
しかし、制服にエプロンとは…なかなかに良いですよ!
「あっ、いらっしゃいー。早速来たんだねー」
あかりはさも当たり前のような素振りで、全員の前にお茶と羊羹を運んだ。
「え…何してんの?え?ここ何処?何でこんなとこに?」
俺の疑問はわりと当たり前だと思う。この状況になればみんなもわかるさ。
「それは部長が答えてくれるよー。それに私、新入りだからお茶汲みしてるんだよー」
そう言いながら、エプロンの裾を片手で軽く摘まんでお辞儀をした。
「そうかー、新入りも大変だなー」じゃなくってっ。
「俺が聞きたいのは、そーゆう事じゃなくてだなぁ」いや、エプロン姿は似合っているけどな。
「まぁまぁ、まずは部長の話聞こうよー」まるで子供をあやすように、にっこり微笑むあかり。
そして、全員にお茶と茶菓子を出し終わったあかりは、自分も席についた。
それと同時ぐらいに、俺の正面に座っているパソコンの彼が口を開いた。
「始めまして、僕は和泉聡介といいます。以後お見知りおきを」
パソコンの彼が自己紹介を始めた。しかも、両肘を机について…某人型決戦兵器に乗るパイロットのお父さんみたいなポーズだ。
「ど、どうも…えと、立花勇也っていいます」俺も釣られて自己紹介をした。
俺の名前を聞いた時、パソコンの彼改め和泉司令の眉がピクって動いたような気がした。さすがに遠くて良く見えん。
「おーっ!君があかり君への依頼者の勇也君かぁー!!いやぁ、お会いできて光栄だよ。あかり君からはいろいろ伺っているよー」とパソコンの彼改め和泉司令。
『パソコンの彼改め泉司令』って長い名前だよな。『司令』でいいや。
俺があかりに向けてアイコンタクトで「なんで、他のやつに喋ってんだこのやろー」と送ったのだが…、
通じるわけもなく、あかりはニコニコして手を振ってきた。
その光景を不思議そうに見ながら和泉司令は続けた。
「それで…さっそくで悪いんだが、依頼の件の話をさせてもらうよ」
えっと…依頼?あーそういえば、昨日あかりも依頼がどうのって言ってたな。
「へっ?依頼?何の事です?」心当たりが無いわけじゃないが、しっかり説明してもらいたい。
俺は聞き返した。そもそも俺は誰かに何かを依頼した覚えはない。
「あかり君?君、勇也君には何処まで話した?」
和泉司令があかりに問いかけた。少し呆れ気味なご様子。
「えーっと、私達が恋を手伝ってあげるって事と…名刺を渡してその場所に来るようにって伝えましたよ?」
口元に人差し指を当てて、あかりは答える。
確かにそれは聞きました…え?『私達』ってもしかして…?いやな予感がする。
「そうか、まぁ確かに秘密主義の部活だしな。今後は、ある程度伏せたやり方もありかもしれないね」
そう言うと、和泉司令はあかりに向かって某黄色い紳士の如くゲッチュ!!のポーズをした。
それを見るや否や、今までお茶と羊羹に舌鼓を打っていた女子部員?の一人がノートになにやら書き込んだ。なんだろう。
ゲッチュ!!のポーズをやられたあかりは、小さくガッツポーズをしてなんだか嬉しそうである。なんだこれ。
「ああ、そういえば他の子達が自己紹介まだだったね。悪いんだが
他の部員との自己紹介はまた今度にしてくれないか。昼休みは短いものでね」
和泉司令が軽く俺に会釈をすると、俺も釣られて
「いえいえとんでもないです。他の方とはまた後で改めて自己紹介させていただきます」と軽く会釈を返した。
「さて本題といこう。まず第一に、僕達は君の協力者であること。第二に、ここで知り得た事、または
ミッション遂行時に起きた事は他言無用でおねがいするよ。それが君の為にもなるしね」
「は、はぁ…」和泉司令の説明に、生返事が出てしまう。よくわからない。ミッションってなによ?
「あとは…そうだなぁ、ここがどんな所かわかるかい?」
和泉司令は軽く教室を見回して言った。
「いえ、イマイチわかりませんけど…」いまいちと言うか、今は使われていない教室に数人がタムロってる事以外わからない。
「はぁ」と司令は小さく溜息をつき、説明を続けた。
「僕達はね、君の協力者なんだ。君は今恋愛を成就させたいと願っている。そしてあかり君に相談した」
「はい、そうなりますね…」
だがその事をあかりは、こいつらに話したって事だろうなぁ。
「じゃあ、具体的になにをするか。君はあかり君に、法を犯さないなら何をしてでも告白を成就させたいと言った。そうだね?」
「は、はい。言いましたね…」そんな事まで言ったのかあかりはっ!
チラッとあかりを見ると、それに気づいたのか小さく手を振ってきた。さいですか…。
「じゃあ、『僕達』が君の為に告白を成就させようじゃないかっ!!」
和泉司令はそういうと両手を大きく広げた。
―――パチパチパチパチッ―――
他の部員達がそんな司令を見て拍手している…って、あかりお前もかっ!
和泉司令は拍手喝采の中、両腕をクルっと回転させて今度は抑えるポーズをする。
どこのお昼休み番組の司会者だよ。つっこみきれん。
すると部室は静寂にもどった。なんだ、この宗教みたいなノリは。
「さて…」司令は続けた。
「君があかり君からもらった名刺の裏面を良く見てごらん。左端の方だね。何か書いてないかい?」
えーっと…名刺を良く見てみると、左下の隅の方に何か小さく書いてある。
「告…白、代…k」「そう!僕達は依頼者の代わりに告白を成功し、行く行くは依頼者にターゲットとの恋人権限を引き渡す部活」
俺の言葉を遮り、和泉司令が高らかに腕を広げながら言った。
「少しの間だが我が部に歓迎しよう!君はあかり君が受けた初めての依頼者だ!」
そして和泉司令からあかりへゲッチュ!!のポーズが贈られた。
すかさずさっきの女子部員がノートにまた何かを書き込んだ。
そのチェックが終わるのを司令が目で確認すると、また両手を広げた。
え、えと…。なんですのこれ?何がはじまるんです?
「ようこそ!我が『告白代行部』へ!!」
第一話が長くなりすぎて二つに分けました。が、②が長くなりすぎちゃいました。
読みやすい文章って難しいですね。