見学
ユイ目線の回想に入ります。
照りつける太陽の光が痛いほどに熱い夏。
私は叔父の会社の中を歩いていた。叔父は、業界でも一二を争うほどの大手ゲーム会社、フューチャーの社長だ。その名の通り、常に未来を思わせるようなゲームで世の人々を熱狂させている。
私ー下野雪衣乃は訳あって親とは離れ今は叔父の元で生活している。叔父は実の娘のように私を愛してくれていた。10歳ぐらいで私はゲームに興味を持ち、叔父に会社を見学させて欲しいと頼んだところ、叔父は快くいつでも会社を歩き回り見学すること許してくれた。もちろん情報を漏らさないことや仕事の邪魔をしないことを約束したのは言うまでもない。
それから毎週のように会社に見学にいき、会社の人も叔父もそれを温かく迎え入れてくれた。時にはキャラクターのアイデアを提案させてもらったり、新作のテストプレイなんかもさせてもらった。私は常に顧客のことを考え、真摯にゲーム制作をする叔父や会社の人たちを尊敬していたし、大好きだった。
高校は会社から少し遠いところに進学し、同時に一人暮らしにもなったため、前みたいに週一とはいかなくなったものの、それでも月一回は見学に行っていた。
夏休みになり、実家、正確には祖父の家に戻った。序盤で宿題を片付け、夏休み中盤に差し掛かった今日、久しぶりに会社に見学に来たのだった。
「あら、ユイちゃん、こんにちは。久しぶりだね。」
私は話しかけてきたのは梅田さん。20代後半の女の人で、私と1番仲良くしてくれる人だ。
「お久しぶりです、梅田さん!叔父どこにいるか知りませんか?」
来ることを前もって伝えてはあるが、来たら最初に叔父に顔出すのがルールだった。
「社長?普通に社長室にいるんじゃないかな?」
「ありがとうございます。では、また後で」
「じゃあね。早く来ないと今日のために用意しておいたケーキなくなっちゃうからね。」
「わかりました、さっさと挨拶してきます!」
私は甘いものには目がないので、少しご機嫌になった。ペコっとお辞儀をして、社長室ある方向へと歩き出す。
道の途中の廊下の突き当たりを右に曲がったとき、足のつまさきに何かに蹴ったような感覚があった。正体を確認しようと蹴ったものを見つけて近寄り、しゃがんだ。
「これは梅田さんの…。」
梅田さんはかわいいものが大好きだった。私と一度だけプライベートで遊びに行った時も梅田さんはゲーセンのUFOキャッチャーで、絶対にこのかわいいクマちゃんをユイちゃんとおそろにする!、とか言って二つ取るまで1時間も粘ってくれたことは嬉しかったし、いい思い出だ。もちろんそのクマちゃんのキーホルダーは私のカバンに今でもしっかりと付いている。そんな思い出のクマちゃんのキーホルダーの梅田さんが持っているはずのものが、蹴った感覚の正体だった。
私は後で梅田さんに届けて、あの人の分のケーキを少し頂こう、なんいたずら心で思って拾い上げようとしたとき、不意に廊下の壁の下の方に、小さな突起があるのを見つけた。どう考えても不自然な突起を、どうしようか迷ったが、押せそうだったので押してみることにした。
音はない。ただ目の前の壁がどんどん下に降りていく。その光景に、私も少し言葉を失った。そして、最後に現れたのは下へ続く階段だった。
散々まよったが私の中の怖いもの見たさが他の感情を上回ったらしく、気づけば階段の奥へと足を進めていた。
降りきったとき、目の前に広がったのはたくさんの人間用ポットだった。恐る恐る近づいていくと、そのポットのほとんどに人が入っているのに気づいた。入っている人は皆寝ている様子で他に異常は見当たらなかった。
安眠用のベットか何かだと思った私はとりあえず知っている人が寝ていないか探してみることにした。しばらく室内を歩いてみると、一つのポットが不意に気になり、近寄ってみた。
そこには『彼』がいた。確かに私は『彼』を知っている。しかし、ここにはいるはずがなかった。なぜなら『彼』はこの会社の人ではなく、私の学校の同級生だったから。
私は慌ててポットについていたコンピューターにアクセスする。昔からゲームを作る勉強をしていたので、コンピューター操作には強い自信があった。
しかし情報は全く引き出せなかった。どうやらこのコンピューターは別のコンピューターによって管理されているらしい。
周りを見渡すと、奥の方にこのポット群の中で異彩を放つデスクとコンピューターがあった。
私はそこに駆け寄り、再びコンピューターを操作する。そして、いろいろ中を探し回ってやっと一つのデータに辿り着いた。
「うそ…こんなことって…。」
目に飛び込んできた情報は私を驚愕させた。