偽物
次話への調整で短めです。
一筋の閃光によって散った光に包まれた僕らは次の瞬間にはバッティングセンターに戻っていた。球とバットがぶつかり合う音はいつもとなんら変わりはない。
「ありがとう。君が居なかったらやばかったよ。」
雪衣乃はそう言うと僕の手を握り、ニコッと笑った。こんなことは人生で一度としてなかったので不覚にも内心で照れてしまっていた。
「まぁ、なんとかなってよかった。」
慌てて手を離して平然を装う。でも多分少し出ていただろう。雪衣乃は少し不満そうだったが、すぐに少し改まった様子になって言った。
「慌てた中で名前は送っただけで、ちゃんとは自己紹介できてなかったね。改めてまして、私は下野雪衣乃。気軽にユイって呼んでくれていいから。よろしくね。」
再び雪衣乃ーユイがした笑顔に僕の中でかすかに今まで感じたことのないものを感じた気がする。うまく言葉にできないけれど、なんとなく暖かい、そんな感じ。
ただ今はその暖かさに浸る場合ではない。聞かなければならない、今起こっていたことを。
「あのさ、今のこと、全部教えてくれるよね?」
そう僕が切り出すとユイの顔から笑顔が消えた。
「うん。君にはその権利があると思うから。ついてきて。」
ユイはそう言うと出口へ向かっていった。ついていくと、バッティングセンターの裏にある人目のない公園に着いた。その公園はバッティングセンターの陰で暗く、広さの割に遊具は少ない。そんな中でユイが口を開く。
「この世界は偽物なの。」