困惑
「なんで…?」
信じられなかった。曲がっていたら確実にホームランだったはずだった。いくらすごいマシンだといえど、マシンはマシン。プログラムに忠実なマシンだ。変化球の曲がり方も、配球パターンだって今まで一度として狂ったことはなかった。4球目がシュートだった時点で15球目はカーブのパターン一択だったはずなのに。
僕は落胆しながらゲージを出た。勝負に勝てなかったことより、打てなかったことが悔しかった。僕には唯一これしかなかったのにそれさえも崩れていくきがして。
あまりの落胆ぶりに彼女は駆け寄ってきて心配そうに言った。
「何かあったの?」
「最後の球はあのパターンならカーブだったはずだったんだ。2年間見てきたけど、あそこでストレートなんて見たことない。」
落ち込んだ声はかろうじて声になっているぐらい小さい声だったと思う。でも彼女はしっかりと聞き、しばらく周りを見渡して、そして何か見つけたのだろうか、バッティングセンターの出口の方へ向かっていった。
「陸也君、こっち!」
彼女が僕を呼ぶ。僕は落胆の足をそっちに向かわせた。彼女のところに着くと、
「さっき、15球目を打つ直前、何かなかった?」
悔しさで思考が停止していた脳をかろうじて動かす。
「…揺れ、そうだ揺れがあった。」
ついさっきのことなのに悔しさで忘れていた。つい先日も感じた揺れ。それが何か関係あるのか?
「うん、私も感じたんだ。多分誰かが外部干渉してここにトラップを仕掛けたんだ。その影響があのマシンにも出たんじゃないかな。」
理解できなかった。外部干渉?トラップ?わけがわからない。
「ちょっと扉に近づいてみて。」
僕は言われるがまま、出口の自動ドアに近づいた。なんでもない、コンビニとかにもあるやつだ。近づいたら開くに決まってる。が、
「開かない…!?」
びっくりした。でも機械なんだから故障かなんかだろう、そう思ったのを読んだように、
「故障じゃないよ。ほら見て。」
今度は近くにいた別の客を指して言った。どうやら帰るようだ。その人はまっすぐ出口に来て出口の前で少し止まったかと思うと、扉をすり抜けた。
「え、すり抜けた!?なんで?」
目の前で起こったことに対応できなかった。
「すり抜けたんじゃないよ。あの人の前で扉は確かに開いたんだよ。」
もう何が何だかでいくら思考しても追いつけない。そんな様子を悟ったのか、彼女は言う。
「余計に理解できないよね。とりあえずこのトラップ解除してからゆっくり教えてあげる。はい、これ。」
渡されたのごく普通のスマホだった。その意味考える暇もなく、彼女は僕の手を引っ張り扉の少し右のほうにあった壁にに突っ込んでいく。
ぶつかる。そう思った瞬間、その壁に空間の歪みのようなものが現れる。彼女は躊躇なく入っていく。当然引っ張られている僕もそれに続くことになった。