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義姉の元へと集う件。1

○あらすじ


攫われたメリアーゼを追って、遂に隣国の王宮にまで至った一行だったが、空間転移の途中の妨害により、ジョシュア、アリスとセシル、ジルとニーナ、そしてリリアの4組に別れてしまった。


メリアーゼの元へと唯一たどり着けたジョシュアはその豹変を目にすることになる。

目的を見失いつつあるジルとニーナ、そしてリリアが謎の人物と遭遇する中、アリスは夜会での因縁の男と相対していた。

不意打ちで放った新たな魔法によって、優位に立ったように思われたアリスだったが……。


「あはっ、なんだ、やっぱり弱いじゃん!」

「……くっ!」


アリスの攻撃によって一転したように思われた戦況は――しかし、いまだ厳しいままだった。


最初の一撃でほとんど傷を負わせられなかったのが痛かった、とアリスは思う。

もしそれで動きを鈍らせられれば、それが一番良かったのだが。


「もう見破れちまったぜ、お前の攻撃」


と男は言う。


「いきなり何もない空間から、しかも無詠唱で突如魔法が出ると思ったら、ははっ、単にどこかの空間に魔法を閉じ込めておいて、その空間を開いてるだけだろ?」

「……!」


その通りだった。


「それに魔法使うまでに、ずいぶん時間が掛かるみたいだな?」

「ッ、“開”っ!」

「あはっ、遅い遅い!」


3秒。それがアリスが自分から離れた空間座標を指定し、開いて魔法を打ち出すのに必要な時間だった。


指差すことで、ある程度の方向性は指定できる。

しかし指先からどのくらいの距離のところに空間を開くかの算出には、どうしても時間が必要だった。


普段なら何の問題にもならない3秒という時間が、けれど戦闘においてはアリスをひどく不利にする。


「“か――”っ!!?」


また新たに空間を開くために伸ばした右手に、バババッと一気に三本の短剣が投げられた。

全部を避けるのは不可能、と即座に判断して、アリスはそれを――左手・・で払った。


「へぇ……」


剣がかすったのか、すぐさま隠すように後ろに回したその左手に、男は目を細める。


「もしかして、空間展開それって、右手でしかできないのか……?」

「……」


アリスは答えない。

しかしその沈黙を肯定と受け取って、男は笑みを深めた。


「じゃあ、その手を封じたら、お前もう戦えねぇよなぁ!?」


と、言い終わるより早く、男は跳躍しアリスに迫ると、右手を掴んだ。


「っあ!?」


そのまま、床に叩きつけるようにして押し倒される。


「ほら、お前の負けだぜ? 何か言ってみろよ!」


勝利を確信して笑う男の耳に、小さな声が聞こえる。


「――――か」

「は?」


男はそれが命乞いか、もしくは嘆きの声だと思った。

伏せられた目からは、きっと今にも涙が零れるに違いないと思っていた。


しかし。


開かれた瞳は喜びと笑みに彩られ、そしてアリスはそのまま左手・・で二人の間の空間を指さした。


「なめないでくださいませ、と言ったじゃありませんか――“開”っ!」


その瞬間、身をよじるも間に合わず、男の体を数十本の針が襲った。






「終わったみたいやね」

「ええ」


セシルが、動かなくなった男を見て言った。

とはいえ、針に塗られた麻痺毒によって痺れているだけだ。一応、毒への耐性があることも考えて、格別強いものを使ってはいたが、それでも意識だけはなんとかたもっているようで、アリスを憎々しげに睨んでいた。


「最後の最後は魔法やなくて針とはなぁ……」

「あの針も一応魔法道具ですの。完璧には程遠いのですけれど、追尾の機能があるのです」

「ふぅん……さすが魔法道具利用学科の戦闘における首席なだけあるってことか」

「あら、過ぎた評価ですわ」


アリスはさらりと言った。

セシルに褒められようが貶されようが、正直どうでもいいのだった。


「殿下こそ、随分とお強いようですね……皆倒してしまうなんて」

「ま、これでも王子なわけやし、色々と裏技使うたからな」


と言いつつ、セシルがその裏技について話すことはなさそうだと分かると、アリスは男に向き直った。


「残念でしたわね、私に及ばなくて」

「く……っ、あ……」

「さすがに話せはしませんの? ならば最後に一言だけ」


クスリ、とアリスは笑う。


「私はやはり出来損ないですわ。だって結局、他人と魔法道具頼りなんですから。……けれどそんな私に負けた貴方は、出来損ない以下、ですわね」


その言葉に、男が何か反応を返すよりも早く、アリスは男の首に一撃を食らわせ、気絶させた。


「うわ、乱暴やな」

「気絶していただいた方が面倒が少ないと思いまして」

「あれだけ挑発しといてか?」

「挑発の目的は、メリアーゼ様より私に敵意を抱かせるためですわ。……私情がないとは言いませんけれど」

「ほーそうか」


そんなやり取りをしながら、二人は男を背に歩き出した。


「では、メリアーゼ様のところに行きましょうか」

「了解や」







×××








「……変ですね」


ジルはそう、ふと首をかしげた。

すぐさま、隣にいたニーナが聞く。


「何がです?」

「いえ、兵士の数が多い割に、あまり質が高くないように思えましてね……」

「確かに、言われてみれば雑魚ばかりですね」


とバッサリと言い放つニーナに苦笑して、しかし、宰相の力を思うと弱すぎるほどの兵士たちに、


(もしかすると、あの男の目的は私たちをメリアーゼくんのところに行かせること、なのかもしれませんね。ただ、なんらかの事情で時間を稼ぐ必要がある……?)


と、ジルは思考していた。

実際、その考えはほぼ正しいと言っていい。

宰相は、メリアーゼがあの竜の姿に転ずるまでは、医療魔法を使える彼らを足止めしたかったのだ。


とはいえ、さすがにジルがそこまで考えつくのは不可能だ。

ジルも、理由を定めるには情報不足だと、早々に思考を切り上げていた。


「さて。ここもそろそろ片付いたことですし、本題に取り掛かりましょうか」

「本題……?」

「……メリアーゼくんの救出ですよ。貴女、やっぱり忘れていましたね」

「いえ、そんなことは」

「真顔で嘘をつくのはやめなさい」


私には分かるんですから、とため息をついて、ジルたちもまた、メリアーゼのいる場所を目指し始めた。








×××








そして、アリス・セシル組、ジル・ニーナ組がメリアーゼのところにたどり着くのは、数分後、ほぼ同時のことで。


「これは、一体……」

「どうなってますの……!?」


ジルと、そしてそれを引き継いだアリスの言葉が、竜と向かい合うジョシュアを見た皆の心情を雄弁に物語っていた。


長々お待たせしてすみません!

今後の連載につきましては、活動報告の方に書かせていただきました。


依然としてシリアストーンな話が続いてますが、ようやく皆|(一名を除く)が集結できましたので、次の話は一旦ジョシュアに視点が戻ります。

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