表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/84

義姉を探して三組三様の件。

またお待たせしてすみません。

前の話に簡単なあらすじがあります。

ジョシュアがメリアーゼの元へ着いたのと同時刻、それぞれ分かれてしまったものたちもまた、王宮のあちこちへと降り立っていた。



「……よりにもよって、あなたと一緒になるとは思いませんでしたわ」

「そりゃこっちの台詞やけどなぁ。俺かてリリアと一緒が良かったわ」


そんなケンカ寸前の言葉を吐きあっているのは、王宮中枢部一階、玉座の間の真下へとたどり着いたアリスとセシルだった。


「そもそも、何でこんなバラバラになってしもうたん?」

「空間転移の最中にどこかから攻撃を受けたのです。何とかジョシュア様は目的の座標までお送りできましたけれど、他に構う余裕がなかったのですわ」

「ふぅん、空間魔法って、存外使えんな」


ピキリ、とアリスの額に青筋が浮きかけたが、堪えた。


「精神感応ぐらいしか出来ない方に、とやかく言われたくはないですけれど。残念ながら、口論している暇はなさそうですわね」

「そやな」


アリスの空間魔法により確認した経路には、上の玉座の間まで三部屋を通過しなければならなかった。

階段に至るまで一部屋、階段の部屋、そしてし玉座の間までに一部屋。


その、一番初めの部屋には、まるでこの二人の到着を予期したかのように、大勢の兵士が待ち受けていた。


「……殿下って戦えるんですの?」

「王族に伝わる術ってのがあるからな、割と強いで?」

「へぇ、そうは見えませんけどね」

「失礼やな〜」


それでも依然軽口を叩きあっていた二人だが、しかしその兵士たちの中から一人の人間が現れた時、アリスは息を呑んだ。


「ありゃ、久しぶりじゃん——出来損ないの隠密」

「……っ!」


夜会の日、メリアーゼ達の元に現れた刺客達を先導していた男。

明るいところで見れば、思った以上に若かった彼だが、アリスはその男の声を忘れてはいなかった。


「ん? なんやの、知り合い?」

「……ええ」


アリスは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


「……因縁の相手ですわ」

「あはは、因縁だって! 単にお前が俺に全然及ばなかったってだけだろ!」

「くっ……!」


否定できないことが悔しくて、アリスはギュッと拳を握りしめた。

そんな様子に、男は一層バカにした口調で続ける。


「あれ? 今日はあの発光拳士も雷女もいないみたいだけど? あはは、お前の負け決定! かわいそうに、お前の大事なご主人様、死んじゃうかもよ? あはは!」


雷女? と何も知らないセシルが首を傾げる。

アリスはただゆっくりと、確かめるように拳を開いた。


「決して、そうはなりませんわ」

「はぁ? なに、もしかしたら俺に勝てるかもしれないとか思ってないよね?」

「……なめないで下さいませ」


アリスは真っ直ぐに男を指差した。

男の眉が不思議がるように寄る。

アリスが攻撃魔法を使えないのは既に調査して分かっていた。それは男だって同じだったが。


しかし、その指はまるで攻撃魔法を撃とうとしているかのようだった。


「何、その手?」


アリスは答えない。

ただ伸ばした指の先が、何かを操作するように小刻みに動く。


男は警戒を露わにしながら、アリスにもう一度問うた。


「何するつもり?」


アリスは答えない。


「おい、何するつもりかって聞いて——」


男がそう怒鳴りつけようとした、その時。

アリスの指の動きがピタリと止まる。

お待たせしました、なんて言って、見えた顔は……笑み。


「“開”ッ!」


その声によって、男の目前の空間、アリスの指差していた空間が——爆ぜた。


「なっ!?」


一瞬。もしもあの笑みに危険を感じ、逃げるのが一瞬でも遅れていたら、男の大怪我は間違いなかった。

いや、大怪我で済めば良い方だったかもしれなかった。

……それほどの、威力だった。


男は、信じられないものを見るような顔でアリスの顔を見た。

今は笑みもなく真っ直ぐに、アリスは男を睨んでいた。


「なめないで下さいませ。“もしかしたら”でも“かもしれない”でもなく——」




「貴方を倒して差しあげますわ」






「ちょ、アリス嬢? カッコつけるのは構わんけど、こっちをちょっと手伝ってくれたりはせんの〜?」


多対一を強いられているセシルが後ろでため息まじりに呟いた。







×××








「皆、バラバラになってしまいましたね」

「そうですね……困りました」


場所変わって、ニーナとジル。

ニーナの地図で確認すれば、二人は二階の最も末端にたどり着いていた。


「やれやれ……これでは少し玉座の間までは遠いですね」

「はい。けれど、ジル先生と同じで良かったです」


ニーナがニコリともせずにジルを見つめて言う。


「まぁ私もそう思いますよ」

「え、本当ですか?」

「ええ、もちろん戦闘能力に関しても心配ですが……もしも私と別れたら、ニーナ君はメリアーゼ君の救出やら宰相へのあれこれを全て差し置いて、私を探すでしょうからね」

「そんなことは……」


言いかけて、ニーナは顎に手を当てた。

しばらく考えて、


「ありますね」


とだけ言った。

はぁとジルがため息をつく。

彼にため息までつかせる人材はなかなかに稀有だった。


しかしそれに気づいているのかいないのか、ニーナは何でもない顔で会話を続けた。


「先生、どうしますか? 向こうも色々と準備しているようです。このまま玉座の間に直行する経路は、大勢の兵士がいるようですが」

「……そうですね、確かにそのようです」


ニーナの地図に浮いた真っ赤な点の塊がそれを示している。

二人とも医療魔法科だ、避けるのが本来なら得策、だが。


「このまま突っ込みましょう」

「! 先生、本気ですか」

「本気も本気ですよ。ニーナ君は私の“全力”、見たくはありませんか?」


ジルがそう言った瞬間、初めてニーナの目が期待にきらめいた。


「見たいです……!」

「では、見せてあげますよ」


その珍しい無邪気さにジルは苦笑した。

ニーナには良くも悪くも目前のことに熱中しすぎるきらいがある。


おそらく、今やメリアーゼのことは忘れかけていることだろう。

しかし、それをあえて指摘するジルでもなかった。

……ジルとて、目的はメリアーゼの救出以上に復讐なのだから。


「さあ、行きましょう」

「はいっ!」


彼らは彼らの目的を胸に歩き出した。


そしてこの数秒後、彼らの行く先には地獄絵図が生まれることとなる。






「良いですかニーナ君。弱いものが戦うにあたって最も大事なのは、相手の心を砕くことですよ。敵全員と戦おうとする必要はありません。一人か二人ほど見せしめにしてしまえば、他のものも手を出しにくくなります。こうはなりたくないですからね」

「なるほど、勉強になります」

「さぁニーナ君。またこの彼を治してください? もう一周痛めつけますよ」

「はい、分かりました」


兵士たちの心は一致した。

「「「「こいつら……悪魔か!?」」」」






×××








「もーなんやの、ウチだけ一人とか、寂しいわぁ」



言葉の通り、リリアは誰とも別れてしまっていた。

それだけでない。攻撃の影響か、リリアは王宮の中に転移が出来ず、着いたのは中庭だった。


「どの扉には兵士がおるしなぁ……出来るだけ穏健に行きたいところやけど……」


しかし、そうとも言ってられない。

事態は急を要するのだ。


仕方ない、とリリアが決意を固めた、その瞬間だった。


「あ、記憶にある(・・・・・)顔だ。いや、でもちょっと違う記憶だけど……」


そんな声が、リリアにかけられた。

まさか見つかった、と警戒心を露わに振り返ったそこには。


「……ちょっと、何でこんなとこにあんたがおるん?」


見知った顔が、リリアに手を振っていた。

悪戯を企む子供のような、そんな笑みで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ